表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい  作者: 春野 安芸
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/182

089.思考の逃げ場


「その……今日は本当にありがとうございました」


 俺とリオの前で小さな少女……のぞみちゃんを抱えた母親がペコリと頭を下げる。


 リオとのぞみちゃんがボール遊びを初めて1時間半程。

 もう太陽も落ちてきて夕飯が近いからと、母親が声を掛けたことで本日の遊びはお開きとなった。

 ちなみに遊んでいる間ずっと、のぞみちゃんはリオにベッタリで、残された俺と母親といえばベンチに座りながらその様子を見守ってチョコチョコとおしゃべりをしたくらいだ。


 母親が声を掛けたことでのぞみちゃんもまだ遊びたいと駄々をこねるかと思ったが意外とそんなことはなく、もう十分遊んだからと素直に駆け寄ってきた。

 メリハリをつけられる子に育って凄い。


「私も、のぞみちゃんと遊ばせてくれてありがとうございます」

「そんな……。見ていただいたのに……その……テレビで見てるよりも、ずっと素敵な方でした」


 気づけばリオと母親でお礼合戦に。


 たしかに、リオがこうも子供好きだとは思わなかった。むしろ自由奔放だからそういった縛られるものを嫌うと思っていたのたのだが。


「ありがとうございます。これからも応援お願いしますね?」

「もちろんです! その……リオさん……」

「はい?」


 母親は内緒話をするかのように自らの口に手を当て、リオの耳元へと近づく。

 つられるようにリオも近づくのだが、のぞみちゃんを抱えて上手く近寄れないからかその話し声は俺の耳にも届いていて……


「その……活動もですが、恋も……頑張ってください!応援してます!」

「…………はい。絶対、落としてみせますよ」

「絶対に落とせますよ!自信持ってください!」


 ありありと母親は胸元でフリーの手をギュッと固く握るものだから、それを見ていたのぞみちゃんも真似をするように両手でキュッと握り拳を作る。

 いいなぁ……こういうの。可愛いなぁ……



 まだまだ小さく柔らかな手。そして母親の真似をする素直さ。

 ――――あ、そういえば。


「すみません。今更なんですがマフィンいかがですが? 学校で一杯貰っちゃって…………」

「え、いいんですか? ありがとうございます!」


 その柔らかそうな頬を見ていたらバッグに入ったマフィンのことを思い出した。結構な量があるし少しくらい大丈夫だろう。


「はい。のぞみちゃんは食べられるかわからないんで判断はお願いしても?」

「もちろんです――――あれ?これって……」


 母親……は両手ふさがっていたからのぞみちゃんに二袋ほど渡したらマジマジとマフィンを見つめられた。

 あれ?もしかしてこういうのダメだったのかな?


「もしかして苦手だったとか……?」

「あっ――――いえ、大丈夫です。ありがとうございます」


 俺の問いかけにより我を取り戻したのか床に置いた手提げ袋にマフィンを入れていく。

 まぁ、アレルギーとか色々あるのだろうしおまかせするしかない。



「えっと、それじゃあ私達はこれで…………おやすみなさい」

「ありがとうございました。おやすみなさい」

「おねぇちゃん、おにぃちゃん、ばいば~い!」


 もう話すこともなくなり、最後の挨拶とともに去っていく母親越しにのぞみちゃんが大きく手を振ってくるのを見て、俺とリオも小さく手を振る。

 アレくらいの小さな子ってホント可愛い盛りだよ。素直で元気で、庇護欲が……



「……行っちゃったね」

「うむ」

「リオもお疲れ様。大変だったでしょ?」

「…………ううん」


 やがて二人の姿が見えなくなり、俺たちだけになってしまった公園で彼女を労ったが当の彼女は大変とは思っていなかったようだ。

 俺たちの手は自然と互いの手を求め、繋ぎあったあとにコテンと彼女の頭がこちらに寄りかかってくる。


「ねね、慎也クン」

「んー?」

「いい子だったね。のぞみちゃん」

「そうだね。 可愛かった」


 朧げに思い出せる自らの過去と比べてみても、のぞみちゃんは随分と理性的でありながら元気いっぱいに遊ぶ子だった。

 当時の俺は……本能でしか動いていなかったかもしれない。それに、アレくらい無邪気な子が笑っているのを見るとこっちまで嬉しくなってくる。


「私達の子もあんなふうになるのかな?」

「…………」

「およ? 慎也クン?」


 リオは一体何を言っているのか。

 それ見よがしにお腹をさするんじゃありません。


「リオの中で俺はどうなってるの?」

「ふぅむ…………旦那様?」

「えぇ……」


 兄、彼氏ときていつの間にか旦那様になっていた。

 このまま放おっておいたら1週間後にはどんな立場になっているのだろう。


「まぁ、そこらへんは追々……ね。でも、本当に私のワガママに付き合ってくれてアリガト」

「俺も見ていて楽しかったから全然。だいぶ日も落ちちゃったしそろそろ時間かな?」

「時間?」


 なんのことかわからずに寄り添っていたリオがこちらの顔を覗き込んでくる。

 時間って……そんなの決まってるじゃないか。


「もう夜だからリオも帰らなきゃ。家でアイさんが夕飯作って待ってるでしょ?」

「あぁ~。 そういえば言い忘れてた……」


 彼女は何かを思い出したかのように少し離れ、今まで肩にかけていたエナメルバッグを地面に置いて中身を漁りだす。

 そういえば遊んでいる間もずっとバッグを離そうとしなかったな。中身も教えてくれなかったし……


「私ね。アイにはマネージャーの家に泊まってくるって言ってあるの」

「はぁ……」

「それでマネージャーには何も言ってない。更に言えば明日はお休み。つまり、どういうことだと思う?」

「…………!! リオ、もしかして……」


 そこまで言われたらいくら鈍い俺といえども察しはつく。

 漁っていたバッグから取り出したのは歯ブラシセットと化粧品。つまり……


「ジャーン! 今日は慎也クンの家に泊まらせていただきます!」

「えっと……俺の許可は?」

「ちゃぁんとお母さんに許可取ったから大丈夫!!」

「お母さん!? 俺の!?」

「うむっ!!」


 母さん!!

 先日のエレナの件といい随分と根回し周到だ!せめて当事者である俺に言っておいてよ!


 チラリと見えたエナメルバッグの中には着替えと思しき服が何点か……あ、これ本当に泊まりに来たやつだ。


「最初に言ったでしょ?『今日は一緒に居てね?』って……だから……家でもよろしくね。ダーリンっ!」


 バッグを持ったリオは勢いに任せて俺の腕に抱きついてくる。

 エレナの時は何も知らないまま寝てたし、今回は事前申告で逃げ場がない……母さんがあちら側に回った今、もはや俺にはどうしようもないというのか……


 俺は思考の逃走も兼ねて、今日の夕飯をどうしようか考え始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ