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不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい  作者: 春野 安芸
第4章

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084.寝起きドッキリ


「はぁい。Good morning。 起きてるかしら~?」


 どこか遠くから聞き慣れた声が聞こえてくる

 いつか聞いたような流暢な英語に、楽しげに弾む声が。


 けれど俺の意識は浮上してこない。

 嫌だ。まだ疲れてる。もうちょっとゆっくりして体力を回復したい。


「Hello。 早く起きないと遅刻しちゃうわよ~?」


 そんなことない。だってまだ夏休みだ。

 いくら寝ても許されるボーナス期間。どうせもうちょっとしたら紗也が飛び込んで来るしそれまでは……


「それに、ご飯作っちゃったから早く起きないと冷めちゃうわよ?」


 ご飯……ご飯ならさっき…………

 あれ?いつ食べたっけ?たしか俺はエレナとオムライスを食べて……


 エレナ?なら母さんであるはずのこの声は?


「どうしようかしら……氷でも背中に突っ込んだら起きるかしらね……?」


 おかしい。母さんはこんな高い声をしていない。

 けれど聞き覚えのある声。それは最近良く聞くようになった輝く金髪を持つ――――



「っ――――!! つめったぁ!!」

「あら、やぁっと起きたわねぇ」


 突然。

 背中に電撃が走ったかのような衝撃に、飛び起きて辺りを見渡せば片手いっぱいに氷を持つエレナの姿が。

 彼女は俺が起き上がるのを見るやいなやニヤリとその瞳を細める。


 ――――そうだった。そういえばオムライスを食べてそのまま寝てしまったんだ。


「おはよ。慎也」

「おはよう…………エレナ」

「と、言うわけで。もったいないから最後の氷投入!!」

「へ…………冷たっっっっっ!!!」


 彼女の姿を捉えて挨拶をすれば、またもや俺の背中めがけて首元から氷が注がれる。

 俺は慌てて立ち上がりその氷を出すために服を叩く。くっ、Tシャツの内側の上に入り込んだか。シャツインしてるから取り出しにくい……!


「ふふっ。 起きたかしら?」

「……起きたよ。ごめん、エレナ。放っといて帰っちゃってもよかったのに」

「いいのよ。キミの寝顔をまた見れたことだし。 それにしてもよく寝てたわね」

「疲れてたのかも……エレナも早く帰らないと明日に響くでしょ?片付けは俺に任せて帰り支度でも……」

「あら、何のことかしら?」


 その笑いながらとぼけるエレナに疑問符が浮かんでしまう。

 はて、当然エレナにも明日があるわけだし何かしら用事があるだろう。それとも明日はフリーなのだろうか?

 それなら羨ましい。俺は明日も明後日も学校だというのに。


「ほら、時計見てご覧なさい?」

「? 時計……?」


 俺は指さされたであろう先を見ると見慣れた、我が家の壁掛け時計が。

 時刻は…………6時半。随分寝たと思ったけど案外寝ていなかったの…………いや待て。たしか食べ終わってゆっくりしていたのは少なくとも6時半越えていたはず。もしかして時間が巻き戻った?違う。もしかして!!


「あら、案外早く気付くのね」

「これは…………」


 それは作為的なものだったのだろうか。

 俺は急いでテレビを付け、閉められたカーテンを開け放つ。その綺麗に掃除されたガラスの向こうには、これから活動を始めようかというような太陽と、テレビに至っては毎日やっている朝の情報番組。

 そしてアナウンスされる日付は……2学期初日の翌日だった。つまり……


「俺、もしかして一晩寝てた?」

「えぇ。おはよう。 朝まで起きないとは驚いたわ」


 その言葉に俺はサッと背筋が冷たくなる。

 もしかしてエレナは俺が寝てしまったから帰れなくなったのだろうか。もしそうなら本当に悪いことをした。


「ごめん!俺のせいでエレナも帰れなくって!!」


 俺はキッチンとの間に立つ彼女に思い切り頭を下げる。

 忙しい身だろうに迷惑を掛けた。それも俺が呼び出して朝まで拘束してしまったのだから言い訳のしようがない。


 現に彼女は何も言ってこない。

 当然だ。ここまで家に軟禁されていたんだ。俺には謝ることしか出来ないが精一杯頭を下げる。

 けれどそう思ったのも束の間。不意に正面に彼女の気配がし、気づけばその下げた頭が撫でられる。


「頭をあげて頂戴。慎也」

「…………?」

「悪かったわ。ちょっとネタバラシを勿体ぶりすぎたわね。 大丈夫。キミの非は一切ないのよ。私が自分の意思で一晩居ただけなんだから」

「…………どういう……?」


 頭を上げれば紗也の服に身を包んだエレナが優しい微笑みで立っていた。

 一晩自分の意思で?何のために?


「――――とりあえず、説明の前に朝ごはん食べましょ?ほら、運ぶの手伝ってもらえる?」

「朝ごはん……エレナが!?」


 彼女に手を掴まれ、引っ張られるように移動しながらその言葉の意味を理解して声を荒らげてしまう。

 いや、まって。エレナが料理って……それは不味い!前も似たようなことがあったけどあれは食べられたものじゃなかった。今回もそんなことあったら…………!


「ふふっ、大丈夫よ。 ほら、見て頂戴」

「見た目は……大丈夫だ。 香りも………」


 誘われるがままに入ったキッチンにはもう完成され、綺麗に盛り付けられた料理がシンクに置かれていた。

 味噌汁にご飯、だし巻き卵におひたし。おひたしはまぁ作り置きがあったはずだからわかる。けれど味噌汁とだし巻きは……


「卵、期限近かったから全部使っちゃったけど良かったわよね?」

「それはまぁ……でも、味は…………美味しい」


 軽く。まだ鍋にあった味噌汁を掬って一口入れると、まじりっ気のない純粋な味噌汁の味がした。

 以前の彼女は調味料をガンガン入れるものだったのにまさか人が食べられる物が作れるなんて……


「良かったぁ。 ほら、卵も試食してみて。 あ~ん」

「ん…………おいしい」


 もはや驚きで恥ずかしさを感じる暇もない。

 だし巻き卵は形が凄くいびつで、所々焼きすぎた部分もあるがそれでも十分に食べられた。甘めで、俺好みのだし巻き卵。


「私だっていつまでもくすぶってるわけじゃないのよ? ちゃんと練習すれば上手くなるもの」

「練習…………?」

「えぇ、独学だったからかなり失敗したけどね。 でも上手くいってよかったわ」


 その言葉に驚きを隠せない。

 エレナが料理の練習をしていたとは。それも独学で、実を結んでいたとは。


「残念だけど今の私にはこの2品が精一杯なの。 早速食べましょ?ほら、運ぶの手伝って」


 その言葉に従うよう彼女に続いて料理の乗った皿をテーブルに運んでいく。

 彼女の作った料理はどれも、絶品とは言わないが人の食べられるもので、何より愛情がこもっている気がしていつもより数段暖かな食事だった。



 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――



「えっと……つまり、母さんのせい?」


 俺は食事を食べながら彼女の計画を知った。

 どうやらエレナは母さんから紗也が居なくなって寂しがっているであろう俺の様子を見る任を請け負っていて、寝てしまったからついでに一晩過ごして料理特訓の成果をお披露目して驚かそうという計画だったらしい。

 本当に驚いた。一晩エレナが俺の家にいたことも、作ってくれた料理が美味しかったことも。


「お母様にお礼を言っておくことね。私を一晩レンタルするなんて本来いくら積んでもありえないことなのよ?」


 言い方。

 一晩レンタルなんて……そっちはエレナの判断だろうに。


 でも、その成長と優しさには素直に驚きと感謝しかない。涙が出そう。


「あ、あと。お風呂入ってなかったから少し早めに起こしたつもりだけど大丈夫?」

「うん。ありがとう。 丁度いい感じだよ。でも、エレナは入ったの?」

「もちろんよ。寝るのにもキミのベッドを使わせてもらったしね」

「それは全然…………って、俺の!? なんで!? 紗也の部屋は!?」


 なんでわざわざ俺の部屋なの!?使える部屋なんて紗也の部屋も両親の部屋もあっただろうに!!


「紗也ちゃんの部屋は電話でダメって言われちゃってね。それでキミの部屋にお邪魔して卒業アルバム見てたら、丁度いいところにベッドがあったのよ…………可愛かったわよ?小さい頃の慎也」

「アレ見たのかぁ……………」


 昔の写真というのは自分で見る分には構わないが、人に見られると恥ずかしい。

 捨てようにも母さんが嫌がる上、置き場が無いから個々のアルバム類は各々の部屋に…………


「ま、お姉ちゃんなんだしそれくらい見られても大したことないわよ!」

「偽のだけどね……」

「細かいことはいいのよ! ほら、時間も有限なんだしお風呂入ってきちゃいなさい!」


 俺は背中を押されるがままに洗面所に押しやられていっていまう。

 なんだか、エレナに俺の全てを把握されていってる気がする。そんな恥ずかしい思いを抱きながらお風呂場の扉を開いた――――


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