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不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい  作者: 春野 安芸
第3章

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72/182

072.撮影開始


「――――よしっ!できた! とりあえず内容考えたから全員確認よろしく!」


 神鳥さんの突然な思いつきに四人揃って困惑してから数分後。

 誰かから借りたカーディガンを俺に押し付けた後、紙に何か書き込み始めたと思ったら、すぐさま完成したであろうそれを俺たちに渡してきた。


「なにこれ……? えっ!?もう台本考えたの!? 早すぎない……?」


 エレナはひと目見ただけで何かを把握したようだ。それが台本だと理解して驚いてからは食い入るように見つめだす。

 これが……台本? なんだか適当な行動のメモ書きだけでそうとは思えないんだけど……


「神鳥さん、台本っていっても台詞が一個も無いんですけど」

「ん? あぁ、それでいいんだよ。台詞は三人に後撮りしてもらうから気にしないで。 本来ならそれも含めてわかりやすくするんだけど時間押してるからね」


 なるほど。そういうものなのか。


 それで俺の役割は――――あった。

 って、なにこれ。『棒立ちするだけ』って…………居る意味ある?


「それじゃ、みんな頭に叩き込んだわね! それじゃあ早速撮影するからみんな持ち場について!!」


 え!?もう!?

 心の準備が一切出来てないんだけど!!


 ほんの数分で頭に叩き込むことを余儀なくされたことに動揺を抱えつつ顔を上げると、満面の笑みと両手を使ってで「行け」とジェスチャーする神鳥さん。

 しかし動揺しているのは俺だけのようで、他の面々は「仕方ないわね」と言葉を漏らしたエレナから順々に公園の開いている区画へと歩き出した。




「エレナ、反対してたけど大丈夫なの?」


 俺も慌てて移動する彼女らに追いついてエレナに問いかける。

 彼女はチラリと俺の顔を見た後、少しだけ逡巡してから口を開いた。


「そうね……反対というより心配に近いかも。もしこれで特定とかに繋がったら慎也のこれからが大変なのよ?」

「俺は特定されても全然……。 さっき言ってたイメージっていうのは?」

「そんなの方便に決まってるじゃない。私達はアイドルと言えどもパフォーマンスで勝負してるんだからイメージにこだわってないわ。その程度の理由で反対しても問題ないの一点張りなのがわかってたからダメ元で言ってみただけ」


 少しだけ饒舌になったエレナはぶっきら棒に一人小走りで走っていってしまった。

 もしかして聞いちゃマズイことだったのかな……。少しだけ聞いたことを後悔していると、そっと俺の隣にアイさんが近づいてくる。


「エレナは言った後になって恥ずかしくなっちゃっただけですから気にしないでいいですよ」

「っ――――!!」

「ふふっ。 それじゃ私も行きますね。 慎也さんも頑張ってください」


 不意に耳元で囁かれる彼女の優しい声に驚いて一瞬声が出なくなってしまった。

 耳元で天使ボイスはずるいって…………そう振り返ると彼女も俺の数歩前に出てそのまま小走りでエレナの後を追っていく。

 このパターンだと、もしかして次は……


「慎也クンも大抜擢でファン1号の私も嬉しいよ」

「リオ……」

「およ?あんまり驚かないね」

「まぁ、ね」


 アイさんと動揺に耳元から聞こえてくるのはリオのささやき声。


 そりゃあ、なんとなく予想はしてたから。

 気配なくてもパターンでだいたいわかってきた。…………ような気がする。


 というかいつからリオは俺のファンになったの?むしろ俺がリオたちのファンなんだけど。


「それじゃ、慎也クンの為に私も頑張るから応援するんだぜ?」

「う、うん。 頑張って。リオ」

「よろしい。 慎也クンの場所はアッチだから、またね」


 そう言葉を残しつつ彼女も小走りで向かっていってしまった。

 彼女を見送って取り残された俺は最後に言われた言葉に従って指さされた方向に目をやると、スタッフと思しき壮年の女性がこちらに向かって手を振っていた。なるほど、あそこが俺の位置か。




「待ってたよ~。 ここで普通に立ってるだけでいいからね!」

「ありがとうございます。こうですか?」

「あぁ、違う違う、向きはあっち!」

「こっちですね」


 女性の肩を掴まれて向いた方向は三人が走っていった先。どうやら俺の見えない位置で少し撮影してからこっちへ来るらしい。

 となるとちょっとだけ待つことになりそうだな。あぁ……こうやって何もしてないとお昼抜いたことを思い出す。さすがにクッキーだけじゃお腹は膨れなかったか。お腹すいた……


「ねぇねぇ!慎也君だっけ?」

「は、はい……」


 空腹に堪えながら空を仰いでいると女性が俺の身だしなみを修正しながら話しかけてきた。なんだか、少しだけ興奮しているような。


「慎也君はあの三人の誰かの彼氏なの!?」

「!? い、いや!違いますよ!俺は全然そんなんじゃ……!」

「あ! も~、崩しちゃダメでしょ!」

「すみません……」


 思わぬ不意打ちについ服を乱してまった。

 まさかスタッフの人にまでそんな勘違いをされているとは……


「そんなこと言って~!アイちゃんが平気な男の子なんて慎也君が初めてよ!やっぱり、そういう関係だからアイちゃんと……?」

「だから違いますって!! でも、たしか……それがあるから全員女性なんでしたっけ……?」


 これ以上深堀りされると危険だと判断した俺は無理やり話を切り替えることを試みる。

 こういう人は無理矢理にでも話の流れを掴むことが大事だ。母さんで習った。


「そうそう。偶にこうやって駆り出されてねぇ。私も本来は受付なのよ?」

「忙しいのに……押してしまってすみません」

「いいのいいの!社長の気まぐれなんて今に始まったことじゃないから!あれで仕事は優秀だから困るのよねぇ」


 神鳥さんって優秀なんだ。

 いや、そうでもないと社長業の傍らマネージャーとしてここまで大成することは出来ないのだろう。あの人のイメージは泊まった時のアレで固定化されちゃってるけど。


「それで、慎也君の本命って――――」

『それじゃあ次は慎也君のところ! そっちいくよ~!』

「――――あら残念。出番来ちゃった。頑張ってね」


 女性が更に話そうとしたところでアシストと言わんばかりの神鳥さんの声が。助かった。


 そのまま入れ替わるように来るのは神鳥さん率いるアイドル三人とカメラマン。本当に撮影するんだ……本当に信じられない。


「それじゃ、棒立ちでいいからね。 後は三人が上手くやってくれるから」

「は、はい!よろしくおねがいします!」

「元気があってよろしい。 でも、もっと肩の力抜いてね」


 緊張しすぎて大声になってしまった……恥ずかしい……

 少し気になって三人の表情を見るとみんな真剣なまま。これは……俺も気合を入れ直さないとダメなようだ。


「それじゃあ! 撮影いくよ! よーいっ――――」


 神鳥さんの掛け声によってカメラが回り、彼女たちの芝居が始まる。

 さあ、特等席どころか目の前で行われる芝居だ。俺は心の殆どを占める緊張の一部にほんの少しの興奮と楽しみを抱えて、彼女たちが走ってくるのをその場で待ち焦がれた――――

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