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不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい  作者: 春野 安芸
第3章

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071.突然の依頼

「はい!お疲れ~!」


 公園に一人の女性の声が響き渡る。

 あれから俺は彼女たちのCM撮影に同行するため、一緒に自然公園へと訪れていた。

 たどり着いたときには既にスタッフの方々と神鳥さんが集まっていて、迎えに来てくれたリオが俺の顔を見ると少し驚いたような表情をしていた。さすがのリオもエレナたちと一緒に来ることは予想していなかったらしい。


 そうして制服に着替えた三人が以前見せてくれたものと同様の演技を何度か行い、撮影開始から1時間ほど経過したところで神鳥さんからの合図が出た。


「お疲れ、三人とも」


 見ているだけだった俺も居心地が悪く、撮影中に買ってきた冷たい飲み物を戻ってきた彼女らに手渡す。

 撮影は夏だとしても放送は冬だから装いもそれに合わせている。つまり、長袖やカーディガンを着ていて見るからに暑そうだ。いくら汗一つかかない特技を持つとしても内心辛そうで、終わったと同時に上着を脱いだり袖をまくっているのがその大変さを証明していた。


「ありがとうございます。ほら、二人も」

「ほい」

「助かったわ~。なかなかしんどいのよね、これ」


 代表して受け取ったアイさんが二人に手渡し、三人同時にペットボトルを口にする。

 やっぱりこうしてみるとアイドルの仲間というより姉妹って感じがする。髪の色も性格も全く違うけど、そのふるまいとか息の合いようとかがなんとなく。


「撮り直しって聞いたけど……なんで場所まで変わってるの?」


 飲み物で身体を冷やし、ベンチで一息つく三人にふと思ったことを聞いてみる。

 以前リオと一緒に向かったのは学校からほど近い港だった。けれど今回は雰囲気も何もかも違う公園。どうせ撮り直すのならば同じ場所のほうがやりやすいのでは。


「それね……私も詳しくは知らないんだけど使用禁止になった原因が場所にあるみたいなのよ」

「? どういうこと?」

「さぁ……看板かなにか写り込んだとかじゃないかしらね?」


 どうやらエレナも詳しくはわからないようだ。なにかしら大人の事情があるのだろう。


「もしかしたら……おばけが映っちゃったのかもね」

「ちょっとやめてよリオ!眠れなくなっちゃうじゃない!」


 手で幽霊の形をとって冗談を言うリオにアイさんが身震いしながらいち早く反応して言わせないようにしている。

 アイさんは幽霊とか苦手と……なんだろう、欠点が欠点に見えない。最高か。


「ま、私達は仕事をこなすだけよ。 撮った素材を確認しに行きましょ。マネージャーはとっくに始めちゃってるわ」


 エレナの視線の先に目を移すとテントの下で神鳥さんがモニターとにらめっこしている。

 俺たちも互いに頷いてテントへと向かうことにした。







「う~ん……ん~…………う~…………」


 テントにたどり着いた時に聞こえてきたのは唸り声。

 その発信源はあまりにもモニターに顔を近づけている女性、神鳥さんだ。

 神鳥さんはわずか数十秒になる素材を見ては戻し、再度唸り声を上げながら確認をしていた。


「マネージャー、どうしたんです? いつもは即欠ですのに……」

「う~ん…………ん?あぁ、三人ともお疲れ様。いい感じだったよ」

「お疲れ様です。いい感じ……にしては随分と悩んでましたが……」


 アイさんの問いに神鳥さんは軽く息を吐いて眼鏡を外してからこちらに身体を向ける。

 あ、眼鏡掛けるんだ。初めて見た。


「まぁ、うん……とりあえず見てもらったほうが早いか。 どうぞ」



 俺たちは譲ってくれた椅子を除けて小さなモニターを四人で食い入るように見つめる。

 その内容としては以前と変わらない――――三人でグミを食べさせあって笑うという至ってシンプルなものだ。場所が変われどやることは変わらない。素人目から見てもそれには非の打ち所がなくちゃんとCMとして使えるものだった。


「何も問題無いんじゃない?」

「そうなんだけどね……なぁんか物足りなくない?」


 一旦はエレナの意見に同意するのだがどうやら神鳥さんにはどこか納得いかない部分があるようだ。

 これは俺が話に加わっても無駄だろう。数歩後ろに下がってその様子を伺うことにする。



 確かに…………以前は彼女たちに注視していて気にすることなど無かったが、よく見れば周りにいるスタッフはカメラマンからADさんまで全員女性で構成されていた。

 これなら男性恐怖症が酷くなったアイさんでも安心して仕事ができるだろう。俺としては肩身が狭いのだが元々見学者で今更だ。逆に吹っ切れて堂々とできる。


 もう終わったかなと彼女たちへ意識を向けるとまだ会話は続いているようだった。

 これ、結構時間かかるならもう何本か飲み物でも――――


「そうだ!!」


 俺が近くの自動販売機に行こうと財布を取り出したその時だった。

 突然神鳥さんが大声を上げ、周りの人はみんなそちらへ意識を向ける。

 けれど神鳥さんの視線の向く先はただ一人、俺へと向けられていた。あれ、なんか嫌な予感が…………


「慎也君!まだ時間ある!?」

「へ?まぁ、今日は何もありませんが……」

「良かった!突然で悪いんだけどさ、慎也君もCMに出て見ない!?」

「………………はい?」


 この人今なんて言った?

 俺が?CMに?なんで?


「この子たちと一緒に出てみないかってことよ! いやぁ、何か物足りないって思ってたけどこれよこれ!男の子の存在よ!」

「な――――なにバカなこと言ってるのよ! いくらエキストラだとしても問題があるに決まってるでしょ!」


 神鳥さんの提案に異を唱えたのはエレナだった。彼女はいち早く反応し、他の二人はあっけにとられている。


「エレナ、問題ってなにがある?」

「そ……それは…………イ、イメージよ!私達はアイドルなんだから!」

「大丈夫大丈夫。手元しか映さないからどんな人かなんてわかりっこないから!」

「で、でも……それは……」


 自信満々に言う神鳥さんに圧されて彼女は次第に声が小さくなっていき、最後には狼狽するように「あ~!」と叫び声を発して引き下がる。

 え、これホントに俺が出る流れ?


「前々からそういう考えはあったのよね。でもアイの件もあるし諦めてたんだけど、慎也君は平気みたいだし活用しない手は無いわ!」

「私達の意見は!?」

「無い!ここではマネージャー兼スポンサーの社長である私がルールよ!法律よ!!」

「横暴!」


 そんな暴君でいいのか。いいんだろうなぁ……


 最後のエレナの噛みつきにさえ歯牙にもかけない神鳥さんに最後には全員諦めて俺を見てきた。

 俺が決めろと。まぁ、そうなるよね。


「慎也君、どうかしら? もちろん多少だけどお給金も出すしバレるような事はしないわ。 でも、無理にとは言わない。最後には自分で決めて」

「俺は…………」


 俺がどうしたいかを考える。確かに面白そうだしこんな経験この先もう無いだろう。

 しかし安易に引き受けちゃっていいのだろうか。バレた時のリスクや彼女たちのイメージ、神鳥さんは大丈夫だって言ってるけど果たしてそれがどれほどか。

 でも、今俺がここにいること、今まで楽しかったのは彼女たちのお陰だ。もし、これがお返しに、少しでもクオリティーの向上の役に立つのなら、リスクを背負ってでもやりたいと思う。


「それが……みんなの為になるんでしたら、喜んで」

「もちろんなるよ!ありがと~! それじゃあ悪いけど、三人とも撮り直しでお願いね?」


「…………了解。慎也クンが出るなら、気合入れる」

「は、はい!がんばります!」

「まぁ……キミがそう言うんだったら仕方ないわね」


 撮り直しだというのにみんな受け入れてくれて俺も内心ホッとする。

 三者三様の返事をしてくれる彼女たちに感謝しつつ、これからのことを考える。俺、具体的に何をさせられるの?


「それじゃあ慎也君も衣装を準備しなきゃね。 あ、大丈夫大丈夫。ちょい役だし適当なスタッフから冷房用のカーディガンとか借りればいいから! お~いっ!誰か――――」


 善は急げというようにテキパキと動き始める神鳥さんに取り残される俺たち。

 ふと彼女らと目のあった俺はなんて顔をすればいいのか分からず、ただただ苦笑いをするしか無かった。

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