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不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい  作者: 春野 安芸
第3章

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059.小学生と高校生


 花火大会の会場――――観覧席の一番いい場所は当然有料席だ。そこは運営によって既に区分けがされており、ブルーシートと共に番号がふられている。

 番号は40番から55番まで。1から39はどこいったかと不思議に思ったが、ここよりちょっと離れた位置にあるらしい。そちらは価格とランクが少し下がる場所だとか。

 そして貰ったチケットに振られた番号は51番。つまり一番いい場所というわけだ。さっきまでのライブといいこれといい、その至れり尽くせりにもう頭が上がらない。


 事前にネットで調べた限りだと、ここらの区画は有料席と言っても購入方法自体公表されなかったらしい。

 一説によるとスポンサー席だとかコネ席だとか。エレナはどこでこのチケットを手に入れてきたのだろう。いや、大体想像がつく。


 通りがかりにチラリとロープの向こう側が見えたが、既に到着している人々は暑い夏だというのにスーツをビシッと決めていて、そんな噂もあながち間違いではないかと横目で眺めながら通り過ぎる。


「遅いわよ~。何してたの~?」


 会場の様子も木々に隠れて見えなくなり、ようやく受付が目と鼻の先となるまでたどり着くと、既に母さんが待ちくたびれた様子でテントの梁に身体を預けていた。

 何って……母さんがさっさと置いていったんでしょうに。


「ごめんごめん。チケットあるよね?」

「もちろん。 失くすわけないわ」


 母さんはチケットをピラピラと俺たちに見せつけてから受付に向かう。

 よかった。これでどこかいったとかなったら彼女たちに顔向けが出来ない。



「受付終わったわよ。行き来するのにこの名札を首から下げて…………あら」

「? ――――むっ!」」


 母さんがネックストラップ片手にこちらに来ると思いきや、その視線は俺たちを捉えることなくその奥に見やって足を止める。それに追従するように隣りで手を繋いでいた紗也が振り向くと不満そうな声が聞こえてきた。

 俺も何かと後ろを振り向く――――前に、幾つかの暖色にライトに照らされてクリアだった視界は一気に闇へと誘われた。


「――――ふふっ、だーれだ!?」


 視界が闇に覆われると同時に襲われるのは目を塞ぐような温かい感触とピッタリと背中に張り付く人肌程度の暖かな感触。

 これは…………きっと何者かが俺の目を塞いでいるのだろう。その証明として後ろから聞こえるのは女性の声だ。問題は誰かということ。


 …………そうか。腕が肩にあたって下に伸びている感触から考えるに、ここまでしなきゃ俺の背丈に手が届かないのか。

 極端に低い背、そして背中に伝わるささやかな柔らかさ、最後に先程まで聞いていた自信満々の声。


「…………エレナ」

「せいかいっ! どう?楽しんでる?」


 俺の解答を肯定するよう視界に光が戻って振り返ると、そこには衣装を隠すためなのか厚手のコートを着込んだエレナが満足げに立っていた。 服こそコートで隠しているものの一番彼女だと証明するその金髪は隠す素振りも見せず、堂々とした様子で仁王立ちしている。


「うん、おかげさまで。 ……リオも、アイさんも、今日はありがとう」


 少し遅れて追いついたのは茶色い髪と黒髪の2人の少女、リオとアイさんだ。

 2人もエレナに合わせたのか、暑そうなコートをそれぞれ羽織っている。

 リオはノーカラーコートでアイさんはダッフルコート。リオ、前開いてるから完全に隠しきれてないよ。


「いえいえっ!私は何もしてませんし、楽しんで貰えてるなら何よりで……」

「…………」


 返答をするアイさんは謙遜の境地だし、リオに至っては目をそらされた。


「その様子だとちゃんと受付も済んだようね。これから入る所?」

「うん。エレナ達は?」

「私達も同じよ。 はい、これ」


 そう彼女が懐から取り出したのはさっきまで母さんが持っていたものと同じチケット。

 よく見てみると違うところは数字だ。俺たちは51と記載されていた部分がこのチケットだと52。

 ……ん?連番? ってことは、隣?


「もしかして隣は狙って?」

「当然じゃない。じゃなきゃリスクを負ってまでここまで来ないわ」


 彼女たちが外に出る……それは人目に晒されてパニックになる可能性が生じるということ。それだけ考えても此処まで移動するのには十分リスクを負うことになるのだろう。

 幸いながらここらは祭り会場からも一般席からも離れていて、来る者といえばこの有料席を利用する人しか居ない。

 利用者も幸いにもスーツを着込んだ何やらお偉そうな方々ばかりで、横目で見られはするもののパニックどころかざわめく様子など一切見られない。


「……まぁ予想はしてたよ。 とりあえず、話は受付済ませてからで――――ん?」

「――――あら」


 俺とエレナが向かい合って会話をしているとトスン――――と、突然の軽い腹部の衝撃が走り俺たちは揃ってそちらに目をやった。

 俺が視線を下にずらすとそこには、さっきまで隣に居たはずの紗也がおでこをグリグリと俺の鳩尾付近でこすりつけてて、妙な唸り声を発していると思ったら勢いよくこちらに顔を上げてきた。


「お兄ちゃん! 早く中に行こうよ!」

「あら、ちょっとくらいいいじゃない。 ねぇ、慎也?」

「えっ? あぁうん」

「む~~!!!」


 エレナが挑発するように目配せすると紗也のこすりつけがどんどん強くなっていく。

 痛……くはないけど暑い。更に摩擦で暑さ倍増だ。


「エレナちゃん……だっけ?」

「私? えぇ、そうよ」

「小学生はママといっしょに来ないとダメなんだよ!」

「そうね。私みたいな小学生はママと……って、なんでよ!」


 紗也のその台詞に今まで自信満々だったエレナは流れるようにノリツッコミを見せてくる。

 さすがアイドル。芸人も目指せるのでは無いだろうか。


「えっ、だって……お兄ちゃん?」


 しかし紗也はノリツッコミと認識してなかったのかその頭には疑問符が浮かび、それを見たエレナも少し困惑の表情に変わっていく。


「えっと、紗也ちゃん。 誰がママとだって?」

「だってエレナちゃん、小学生でしょ? お兄ちゃんそう言ってたもん!!」


 やっべ。

 そういえば散々エレナのこと小学生って紹介してたっけ。あの時エレナ自身で訂正してたけど、結局信じきれなかったんだろう。


 …………視線が怖い。

 戸惑ってた視線がこっちに固定され睨んできてかなり怖い。


「ねぇ……キミ。なんてこと教えてるのかな?」

「い、いや!俺はあの時会ってから会話に出してないよ! 多分小学生で姉を名乗る不審者を信じたんだと思う!」


 必死に言い訳をするも怒りは収まらないようだ。

 しまいには人差し指で脇腹をズンズンと突き刺してきて地味に痛い。


 しばし無言で突く攻撃を甘んじて受け止めていると次第にその力も弱くなっていき、その手の動きが完全に止まる頃には彼女の満面の笑みが俺を射抜いていた。

 あ、これ怒ってるやつだ。


「……慎也、ちゃんと紗也ちゃんに教えてくれる?」

「う、うん……。 紗也。この人は俺の一つ上で高校生のエレナだよ」

「本当に……高校生……?」


 慌てて訂正するものの紗也の目は未だ訝しげだ。

 無理もない。俺も保険証がなければ未だに信じていなかっただろうから。


 一応信じたのか棚に上げたのか、それ以上は何も言わずエレナも怒りのオーラを引っ込めてくれた。

 けど身体は俺に抱きついたまま動こうとしない。


「ねぇ、エレナ。 私もいいかな?」

「あら、アイ。相変わらず女の子に対しては大丈夫なのね。 紗也ちゃん、ちょっといい?」

「?」


 そんな時助け舟のように会話に入ってきたのはアイさんだった。彼女は胸元に手をやって少し緊張しながらもエレナに紹介を求めてくる。


「この人はお兄さんと同い年のアイっていうの。仲良くしてくれる?」

「よろしくね。 紗也ちゃん」

「アイ、さん……」


 エレナの誘導に従うように視線を上にやってアイさんへと顔を向ける。

 その表情は慈愛の笑み。まさに恐怖症持ちなんて夢にも思わないような天使の笑みで紗也に微笑んでいた。 俺も微笑まれたい。一瞬でノックアウトしてしまう自信がある。


 しかし当の紗也は、一度軽く会釈した後、エレナとアイさんを交互に見比べて…………


「エレナ……さんが……上?」

「ぷふっ!」

「ちょっとアイ! そ、そうよ!私のほうが歳上なのよ!」


 信じられないかのような呟きにアイさんが吹き出してエレナが咎める。

 ……うん。 気持ちはよく分かるよ。俺もいつも思ってるから。


「紗也、信じられないだろうけど本当だよ。 信じられないだろうけど」

「なんで二度言ったのかしら? これはまだくすぐりが足りないようね」

「ごめんなさいお姉さま!!」


 俺に抗議するよう手を動かすエレナにすかさず謝罪する。

 こんなところでくすぐられたらたまったものじゃない。 紗也の手前、喰らうまでなら即謝罪だ。


「……ま、いいわ。 思った以上に時間かかっちゃったわね。 早く入りましょ?」

「りょ、了解、です」


 未だにくすぐりの恐怖を怯えながら一足先に受付に向かうエレナの後をついていく。

 その間ずっと、紗也は俺にひっついたままだった――――

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