051.ツーショット
一気に寒くなりましたね。
皆様も読書中はもちろん、普段から暖かくしてお過ごしください。
ワァァァァァ―――――
一日中祭りの準備で働いていた作業員は、これまでの疲労が吹き飛んだように観客としてステージ上で華麗なダンスを踊るエレナに歓声を上げる。
人通りも少なく、川の反対側は木々に囲まれていて祭り設営者のみのオンリーステージとなったゲリラライブは、その大きな歓声と共に此処に居る人物を一人残らず魅了させた。
そうしてダンスのみではあるがエレナのソロステージが終わった後、もう今日は作業するような気分になれないと総意で仕事が終了してしまった。
人々が続々と満足したように帰り支度を始める中、一人ポツンと残ったことに気がついた俺はスマホの回収を思い出し、彼女が捌けたであろう音響テントまで足を運ぶ。
「――――はい。 大事にしてね」
「わぁ……! ありがとうございます!!家宝にします!!」
たどり着いた時には既に先客……というより今までミキサーを触っていたであろう先程の女性がエレナにメモ帳を手渡されていた。その様子から察するにきっとサインをもらっていたのだろう。
「大げさね。部屋に飾るくらいでいいのに。 ……あら、待ってたわよ」
女性の感激具合に微苦笑を見せたエレナは俺の気配に気がついたようで挨拶をするように手を上げる。
その手の中にはスマホが……間違いない、あのケースは俺の。回収してくれていたようだ。
「お疲れ様。 スマホもありがと」
「えぇ、頑張ったわ。 …………ほっ!」
「……あれっ?」
暑いコートを着ても汗一つ見せなかった彼女がほんのりその額に汗が浮かんでるのを見て、珍しいと思いつつスマホを受け取ろうと手を伸ばしたが、エレナは小さく掛け声を出しながら受け取る直前でその手を高く上げてしまった。
当然受け取ろうとした手は空を切り、何事かと訝しげな目で彼女を見ると口元をスマホで隠してニヤリと目を細める。
「いやぁ、キミも中々やるわねぇ。 こんな見えにくいところにアイとのツーショットを貼るなんて。
「あっ!」
ニヤケ顔で見せてくるのはスマホと手帳型カバーの隙間部分。そしてこっそり張っていた写真を指差していた。
見たのか!
せっかく見えにくいところに張ったのに!
「ごめんね。ケーブル外した時たまたま見えちゃったわ。 でも……これだけじゃ寂しいわね。今から私とのツーショットでも撮りに行く?」
「それは……行った先の出来事が怖いからから止めとくよ」
今の彼女はある程度変装しているものの、肝心な金髪が一切隠れていない。それで街中に出たら不審者フォームも相まって真っ先にバレてパニックになるだろう。
そんな意図を彼女も予想していたのか、ヤレヤレと諦めた様子でスマホ片手に再度俺に近づいてきた。
「――――スキありっ!」
「!?」
しかしそれもまたフェイク。
エレナはすぐさま俺の懐に入り込み、事前に起動していたであろうカメラを向けてカシャリと音を鳴らす。
「ふふっ、引っ掛かったわね。 はい、ツーショット」
「…………どうも……」
なんだかしてやられた感満載だが今度こそ差し出されたスマホを受け取ってその中身を見る。
ようやく返されたスマホ画面には、目を丸くして驚きと困惑が混じった変な顔をする俺と、しっかりとウインクをして綺麗に映っているエレナが収まっていた。
なんだこの顔は。
いくら自分といえども見るに耐えない酷さだ。やり直しを希望したい。
「嬉しくなさそうねぇ。 もしかして、アイとのほうがよかった?」
「へっ……?」
なんとも最悪な表情になっていた自身に絶望していると、ふとエレナから淋しげな声と小さく服を摘んできた。
その表情はさっきまでの笑みとは一転して今にも泣きそうで、慌てて違うと首を振る。
「い、いや、そうじゃなくって! 俺の写真写りが最悪だなって!」
「…………ちょっと見せてもらえる?――――ぷっ。これは確かに。 よく見ると最悪ねぇ」
「ほっ……」
俺の説明に覗き込んできたエレナは、軽く吹き出すと同時に俺の顔と見比べてきた。
恥ずかしい。普段の俺もそんなに自信が無いというのに。
でも、覗き込んできたその顔にさっきまでの淋しげな表情はもう見えず、俺も肩を撫で下ろす。
「ならもう一度撮りましょ! ほら、今度はちゃんと顔作って!」
「嘘!? また!?」
「いいでしょ! 早くっ!」
今度はエレナが自身のスマホを取り出し、不意を突くことなくインカメラで俺と写真を撮ろうとする。
さっきは一瞬で気にならなかったけど、こうも腕に抱きつかれると……なんとも恥ずかしい。
抱きついてきた彼女の身体は柔らかく、その女性らしい柔らかな部分の感触が…………殆どなかった。
いや、無いことはないのだが、いかんせん小学生と見まごうレベルの彼女だ。そこは仕方ない。
けれど紗也以外にこんな事されるのは殆どないもので、このまま写真を撮ると思ったら一気に恥ずかしくなってくる。
――――今となりに居るのは紗也だ。紗也と写真を撮るんだ……
「はい!さん……に~……い~ち……」
パシャッ!
と、シャッター音がスマホから鳴ると同時に二人で写り具合を確かめる。
エレナは言うまでもなく完璧だ。今度はピースを口元にやり笑顔を見せている。
そして俺も、少し硬いものの暗示のお陰か自然な笑顔を作り出すことに成功していた。
「これなら大丈夫そうね。 キミにも送っておくわね」
「……ありがと」
暗示が解け、恥ずかしさが限界に達した俺はなんともぶっきら棒な返事をしてしまった。
しかし彼女はそんな意図を汲み取ってくれたのか何も口にすることなく、スマホを少し操作したと思えば俺のスマホが着信を知らせる。早くも送ってくれたのか。
「そういえば、エレナ」
「なぁに?」
「踊ってよかったの? 人集まってパニックになったかもしれなかったのに」
奇跡的にも人は誰も来ず、作業員も押しかけてこなかったためパニックにはならなかったが、その可能性も十分あった。そんな事はエレナも望むことでは無いだろう。しかしリスクを負ってまでここに来て踊った事はずっと疑問だった。
「平気よ。今日は会社の関係者ばかりだったし……そもそもなんで私が踊ったのか分かってないみたいね」
「そうだったんだ……じゃあなおのこと何故……」
「えぇ、それはね――――」
エレナはスマホを片付け数歩歩いて懐に潜り込んだと思いきや、その指先を俺の胸元に当てて上目遣いでこちらへ笑みを向ける。
「――――慎也。 貴方の姉がどれだけ凄いか見せつける為よ」
その瞳は真っ直ぐ射抜くように見抜き、俺の心の仲間で見通すようだった。
…………まただ。
またこの目だ。この透き通るような碧い瞳、自信に満ち溢れたその表情。
その、本当に姉なんじゃないかと思ってしまうほどの凛とした姿と立ち振舞いに、またも俺の心は高鳴りだす。
最初会ったときからかもしれない。彼女の瞳には吸い込まれるような魅力があった。
なんのフィルターを通すことなく、しっかりと俺自身を見てくれていると確信できるそれに満ち足りた気持ちになり、同時に恥ずかしくなってしまう。
「……あ、姉っていっても…………」
「えぇ、偽のだけどね。 でも、私はそれで満足するつもりは無いわ」
「? どういう……」
彼女の視線から逃れるように目を逸らすと、思ってみなかった答えが返ってきた。
まさか偽であることを認めるとは。一体何故……
「大丈夫よ。 今はわからなくて。 きっと遠くないうちに解るから」
「は、はぁ……」
散々溜められた結果、得られた答えはいずれ解るだった。
とてつもなくボカされた気もするが、きっとエレナには言う気が無いのだろう。
これ以上追求することもできず行き場を失った視線をうろちょろと遊ばせていると、一人の人物と目が合ってしまう。
「あっ――――」
「えっ、あっすみません! なんだか帰るタイミングを失ってました!私の事はお気になさらず!」
そこには先程までサインを書いてもらっていた女性が。しまった、すっかり失念していた。
彼女はテントの出口付近で少し居辛そうにしながら手をモジモジとさせ口元を隠し、顔を真っ赤にしながら俺以上に視線を動かし始める。
「あら……ここでの事は内緒よ。 いい?」
「は、はい!お墓まで持っていきます! その……お幸せに!!」
ダダダダと――――そんな擬音が似合うほど高速で去っていく彼女に残された俺たち。
「お幸せにって?」
「さぁ、私にもさっぱりわからないわ」
ふとエレナに聞いてみるも表情を動かすことなくわからないと肩を上下される。
俺は不思議な人だったなと頭を掻くのであった――――




