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不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい  作者: 春野 安芸
第2章

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045.名実ともにデート


「ほらっ!慎也! いくわよっ!!」


 炎天下というのが相応しい太陽の下、もう時刻もてっぺんを越えようかとしている時間帯にエレナは小休憩していた俺を置いて数歩先に立つ。


 暗闇の中で彼女が突然の宣言をした後、パンを食べた俺達は二人揃って近くの商業地へと足を運んでいた。

 先程までの彼女の不安定さを比べてみると驚くくらい立ち直っており、気づいた時には俺共々マンションを飛び出していた。


「何してるの~? は~や~く~!」

「今行くから!」


 一足先に飲み物を飲み終わって待ちくたびれていたため、残り僅かだったジュースを一気飲みし、その隣に追いつく。

 立ち直るというより、少しハイになっているような……


「んっ!」

「…………?」

「ほらっ、手!!」


 肩を並べて歩き出そうと思ったら今度は彼女が止まってしまった。

 何事かと振り返ると掌を上にしこちらに差し出している。


「……こんな感じ?」


 いくら俺でもそれだけヒントを与えられたら何を要求してるくらいは察しが付く。

 その要望に答えるため彼女の横に再度戻り、差し出された手をシェイクハンドの形でつないでいく。


「ん~……なんか違うのよねぇ……」

「えぇ……」


 と、思ったらお気に召さなかったようだ。 どうしろと。


「そうじゃなくって…………こうよっ! うん、これがシックリくるわ」


 彼女は一旦繋がれた手を振りほどき、こんどは自分から指を絡ませて繋ぐ――――いわゆる恋人繋ぎ。

 唐突の積極性に少し目を丸くしたがその満足そうな表情を見て平静を取り戻す。


「こっちでいいの?」

「いいのよ。 もしかして……キミにとって初めての恋人繋ぎだったかしら?」


 ニヤけながらこちらを見上げて来るエレナ。

 むっ。そう思われているなんて心外だ。


「そんなこと無いよ。 俺だってこのつなぎ方くらいやったことあるから」

「えっ――――」


 少しムキになってぶっきらぼうに言ってしまったら、今度は少し潤んだような声が聞こえてきた。

 その発声点に目をやると彼女の眉がハの時に曲がり、さっきとは一転寂しそうな顔でこちらを見ている。


「む……昔ね! 紗也が小学生の頃にっ!」

「な―――なぁんだ! ビックリさせないでよね!」


 そう付け加えることでもとに戻るエレナ。見えを張るのは不味いらしい。

 でも、中学に上がった途端紗也のベタベタがほんの少し控えめになったんだよね……嬉しいような寂しいような。


「エレナは? やったことあるの?」

「私はもあるわよ。 まぁ、アイとだけど……」


 目をそらしながら素直に告白するエレナに軽く吹き出してしまう。

 リオは……とも聞こうと思ったが、きっと自由な彼女は捉えきれなかったのだろう。


「というわけで、実質私もキミも初めてってことね。 私が相手なんて光栄に思ってもいいのよ?」

「俺としてはあの時の紗也と一緒の感覚なんだけどね……」

「なにか言った?」

「いいや、なんにも」


 背丈が小学生ならそりゃあの時の紗也と重ねてしまうでしょ。

 でもこれ以上言ったら何されるかわからない。街中でくすぐりは勘弁してほしい。


「ま、いいわ。 で、どこ行きましょ?」

「決めてなかったの!?」

「そうでしょ。 私だって勢いで出てきちゃったんだから……」


 言い訳をしながら頬をかく彼女の姿に少し脱力してしまう。

 俺もここらへん初めて来たからなぁ……何かあるといいのだが……


「あっ、あそこでショッピングなんてどう?」

「水族館なんてどうかしら?」


 二人して別々の方向を指差して、互いに顔を見合わせてしまう。

 同時に言って聞き取り辛かったが、俺はショッピングで彼女は水族館らしい。

 どちらもここからほど近い位置にあるが、さて……


「ショッピング? あら、ここ新しくできてたのね。最近忙しくて見てなかったわ」

「水族館なんてこの近くにあったんだね。ちょっと気になるかな」

「……ショッピング」

「いや、水族館のほうが……」


 今度は互いが出した候補に乗り気になってしまう事態に。

 二人して候補が入れ替わるという珍事は発生しながらも、両者の顔を見合って……同時に吹き出した。


「ははっ。それじゃあ両方行くってのは?」

「ふふっ……いいわね。 なら最初は水族館でどう?」

「異議なし」



 暑い太陽の下話し合っていたせいで繋いでいる掌が汗で混ざり合い、どちらのものか分からなくなりながら一緒に歩き出す。

 よく見ると彼女も暑いはずなのにその額には殆ど汗をかいていなかった。となると、この掌の汗はほぼ俺のということに……


「ねぇエレナ、暑くないの?」

「何言ってるのよ。暑いに決まってるわ」

「それにしては汗あんまりかいてないみたいだけど……」

「そういうことね。 仕事柄そういうの抑えなきゃならないから自然と、ね」


 抑える方法なんてあるのか。気になるけど体温調節が大変そうだ。


「そっか。 手、俺の汗で気持ち悪いでしょ?離していいよ?」

「手? …………あぁ、全然気にならないから大丈夫よ」


 言いながら手をほどくため今まで込めていた力を抜いたが、今度はギュッと彼女の手の力が強くなってしまった。

 俺としては迷惑かけてる気がしてすごく気になるんだけど。


「……本当に大丈夫よ。 それとも何?お姉ちゃんの言うことが信じられないの?」


 エレナは繋いでいる手を引き寄せ、両手で包み込んで事なきとアピールしてくる。

 そこまでされたら信じざるをえないじゃないか。


「わかった。妹を信じるよ」

「…………姉でしょ?」

「……小学生不審者?」

「事実無根よ!」


 残念ながら本日の彼女は、誕生日にもらったウィッグをしており不審者判定はセーフだった。

 でも小学生というのは覆しようもない。


「ま、いいわ。 このデートで私の姉っぷりを見せつけてやるんだから! いくわよ!」


 そう言って彼女は繋がれた手を引いて走り出す。

 俺も結果論では何度かあったものの、名実ともに初めてともいえるデートに胸高鳴らせながら彼女に引かれて駆けていった。

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