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170.たまごサンド


「さて、今日の朝ごはんはっと……」


 朝起きて、寒いリビングとキッチンをエアコンで暖めながら冷蔵庫の中身を眺める。

 中にあるのは食パンにハムにレタスに……。うん、これならパッとサンドイッチくらい作れそうだ。


 じゃあ今日はサンドイッチにインスタンスのカップスープといこう。もちろん毎日飲んでいるコーヒーも忘れない。

 若干どころか完全にコーヒー中毒かもしれないが、もはや抜け出すことはできない。ただし酸味の強いコーヒーは邪道だ。敵だ。


「ちょっとちょっと!慎也クン! それはないんじゃないかなぁ!?」


 適当にお湯を沸かし始めたところで現れるのはフリフリのメイド服を着たリオ。

 …………やっぱり、あれは夢じゃ無かったんだ。


「あぁ、おはよう。リオ」

「起こしに来たのになんで寝かせるのさ! 据え膳なのにスルーしちゃうしさぁ!」


 そっと寝かされた彼女はどうにもご立腹だ。

 だって……ねぇ。その……色々と恥ずかしいし……。


「ごめんごめん、寝起きで俺も恥ずかしかったからさ。 それで、サンドイッチにするつもりだけどリオもそれでいい?」

「あ、ありがと~。……って、待って待って!慎也クンたら作り始めるのはやいよ~!」


 食パンを取り出して適当に具材を取り出したところで、彼女の突き出した手に押され俺はその位置を譲ってしまう。

 代わりに台所に立った彼女は手際よく食パンを並べ、バターを塗り始めた。


「リオ?」

「ほら、今の私はメイドさんだからそういう身の回りのお世話は任せてもらえる? 慎也クンは顔洗ってゆっくりしてて」

「でもほら、なんで居るのかわからないけどリオはお客さんなわけだし……」

「いいのいいの! ほら、メイドさんの仕事奪わないで向こうで待ってて!」


 押されるようにキッチンを追い出した彼女は、俺が取り出した具材を元に手早くサンドイッチを作っていく。

 まぁ……作ってくれるのなら、いいか。 俺はキッチンでの仕事をメイドさんに任せ、着替えるためにもう一度部屋へと戻っていった。



 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――



「はい、おまちど~。 サンドイッチとスープがあったけどそれで良かったかな?」


 着替えて顔を洗ってから数分。

 適当にスマホをいじって時間を潰しているとキッチンからお盆を手にしたリオがやってきた。


 テーブルの上に乗せるのはハムサラダやポテトサラダを挟んだものに加え、予定になかった卵焼きのサンドだった。

 更にカップスープの横には余ったパンの耳でつくったであろうラスクが。

 面倒だから耳すら切らず適当に済まそうとしていた俺とは違い、彼女は朝ごはんを数品加えて一層美しく仕上げていたのだ。


「おぉ……すごい……」

「卵とか勝手に使っちゃったけど、よかった?」

「うん、ありがとう。 俺一人じゃこうもいかなかったよ」

「私だって料理勉強してるんだから。それに、今日はメイドさんだからね。慎也クンには快適に過ごしてもらわないと困るよ」


 正面に腰を下ろす彼女は口調こそ自信満々だが、その表情は口の端をムニムニと動かしながら笑みを隠しきれない様子。

 そんな彼女を微笑ましく思いつつ、俺は「いただきます」と発してまず卵のサンドへと手を伸ばした。


「んっ……! すごい……美味しい……。これ何入れたの?」

「そう?よかった。 それね、甘めに作ってから少し多めにマスタード塗ったんだよ」


 口に入れた途端ふわふわとした卵の感触がいっぱいに広がる。そして甘みとともに同じくらいのからさが襲ってきて口の中を刺激された。

 ほんの少しの酸味があることからお酢も多少入っているかもしれない。まさかここまでのクオリティとは思わず唸り声を上げてしまう。


「すごい。 リオって和食以外もやってたんだね」

「最近ね。そのたまごサンドも実はアイに教わっただけなんだけど」


 それでも卵をこうもふわふわにできるのは、和食を学んできた彼女だからだろう。

 下地があったからここまでの実力を発揮できたのだ。そんな努力の結晶である朝食に俺は舌鼓を打つ。


「どう? さすがは専属メイドさんでしょ?」

「すっごく美味しいけど…………なんでメイド?そもそもなんで朝からウチに来たの?」


 朝食の感動も一段落したところで、俺はついぞ思っていた疑問を口にする。

 さっきまでは寝起きでうまく頭が働いて無かったけど、よくよく考えてもなぜ朝からここに居るのかわからない。


「うむ。全ての始まりは小学校の頃だった……」

「長い長い。そこらへんは知ってるから」

「そう? じゃあ省略するとして、昨日昼からデートって言ったよね?」

「うん」


 昨日、俺がボーッとしていたから取り付けられたデートの約束。

 あの夜メッセージで昼から適当に遊びに行くという話になった。俺もその準備をして寝に入ったら……起きたらあんな状況だったわけだ。


「でも思ったのね。この時期にノンビリ外出たら、以前のぞみちゃんに見られた時みたくリスクあるなぁって」


 のぞみちゃん。

 夏にリオが泊まった日、出会った小さな女の子。

 確かにのぞみちゃんはリオのことがわかっていた。そのリスクを考えたのか。

 最近は解散騒動もあって色々と注目されやすい時期だからね。理解できる。


 のぞみちゃんか……。後に美代さんの姪っ子ということがわかったけど、あれから会ってないなぁ……元気にしてるかなぁ。


「それで、俺の家に?」

「うむうむ。でもただ家に行くのはつまらないなぁ……って思って、それならメイド服で寝起きからご奉仕をしようって思ったわけよ!」


 うん、そっから色々と理解が吹っ飛んだ。

 デートが奉仕に変わっちゃってるし。けど彼女は自分の中で理解しているようだ。

 俺はそれ以上の疑問を飲み込み、ラスクを一本口にする。


「でも、家に居たって何もすることないよ? やることとしてもゲームくらいしか……」

「ううん。 別にデートも奉仕も建前だし、慎也クンと一緒にいられたらなんだっていいんだよ。ゆっくり一日過ごそ?」


 メイドカチューシャを身につけ、肩甲骨ほどまである茶色の髪を揺らすリオ。

 俺は最後に残ったコーンスープを一息に飲み、その艶やかで警戒の一つも見せない彼女の髪を、そっと撫でるのであった。


次の更新は2日後の6日です。


現状登場分でリオを見つけられるのは紗也、のぞみちゃん、辛うじて隣の席のクラスメイトのみとなっております。

また、今月20日に本作最終回&新作公開予定です。

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[気になる点] 隣の席のクラスメイトは慎也君が落としますよね?
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