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1 あなたは本当に、人の気持ちがわからないんだね。(尊敬する先輩の言葉)

 霰 あられ


 プロローグ


 飛び、跳ねるように。


 本編


 今、走り出すとき。


 木立霰あられ 中学二年生


 あなたは本当に、人の気持ちがわからないんだね。(尊敬する先輩の言葉)


 無限の力が体から湧いてくるよ。誰かに本当に愛されていればね。(同級生の親友の言葉)


 優しい嘘も、時には必要なんですよ。上手な人間関係にはね。先輩。(クールな後輩の言葉)


 木立霰はいつものように、毎日を全力で走るようにして、過ごしていた。それはとても充実した毎日だった。

 朝、早くに起きて、学校に行って陸上部の部活動の朝練をして、それから授業中に勉強しながら、少しだけ居眠りをして、お昼ご飯をみんなと一緒に食べて、午後の授業を受けて、また、放課後になると陸上部の部活動の練習をする。

 そして、夕焼けに染まる空を見ながら、みんなとさよならをして、大切な家族のいる自分の家に「ただいま! 今帰ったよ!」と笑顔で言って、帰る。


 そんな本当に幸せな毎日を、ただ全力で、走るようにして過ごしていた。


 それが霰のすべてだった。

 それが、……生きるってことだと霰は思っていた。


 ……みんなに隠れて、たった一人で、体育館裏で泣いているあなたを、偶然、(中学校の中に紛れ込んだ猫を追いかけていたのだ)学校帰りに見つけてしまった、……あの日までは。


「泣いているの?」と霰は言った。

「うっせえな。泣いてねえよ」と泣きながら、あなたは言った。


 それはいつも教室の中で強がっているあなたが見せた、初めての涙。あるいは、弱さ(……もしくは、本音、かな?)だった。


 その日から、霰は、よくその男の子のことを、盗み見るようになった。(心なしか、その男の子も、霰のことをちらちらと見ているような気がした)

 霰はその男の子のことが、いつの間にか、大好きになっていた。


 同じ教室にいる、無愛想な男の子。


 秋谷麦くん。


 あなたのことを。

 ……いつの間にか。……自分でも、気がつかない、うちに。私は、あなたに恋をしていたのだ。霰はそんな自分の気持ちに夜の時間に、電気を消した真っ暗な自分の部屋のベットの中で気がついて、その顔を一人、真っ赤にした。(毛布の中に隠れるようにして、その顔を隠したりした。ほかに見ている人は誰もいないけど)


 ……明日、麦くんに会いたい。

 一刻も早く、一秒でもいいから、会いたい。


 一緒にいたい。(できれば、声を聞いたり、手をつないだりしたい)


 そんな風に誰かのことを思ったのは、霰にとって、生まれて初めての経験だった。(とても寝つきのいい、ぐーぐーと朝までぐっすりと眠る霰が、遅い時間まで眠ることができなかったくらいに、……霰は自分の気持ちに戸惑っていた。……ずっと、心臓がどきどきとしていた)


 次の日、霰は初めて、中学校に遅刻をした。

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