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雪と太陽  作者: やも
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第五話 太陽の日

 バタンと扉を閉める。これで完璧にあの山とはおさらばだ。扉の向かい側にある小さな窓から見えるのはきっとラハー帝国。太陽が輝き、砂色の壁の家々が見える。なんだか山に比べて空気も乾いているみたい。

 私は彼の腰に抱き着いた。


「…!どうされました?」


 彼は驚いている。

 正常な反応だろう。どうもこうもないが、彼の生まれた国に来て、彼に抱き着きたいと思ったら体が勝手に動いてしまったのだ。私の腕は、彼の高い位置にある腰あたりに巻き付き、私の顔が彼の引き締まった胸に当たる。私は何も言わずに腕に力を込めた。彼は返事がないことを疑問に思いながらも体の力を抜いて受け入れてくれた。


「きれいな国だね…」私は小さな窓を見ながらつぶやいた。

「そうでしょう。町に降りればもっとこの国のいいところをご紹介できますよ」

 彼は誇らしげに答えてくれた。


「私は一度、仲間に無事を知らせてきます。スノーはその間この部屋でお待ちください」

「うん。わかった」

「スノーのことは話さないほうがよろしいでしょうか」

「ううん。別に話してもいいよ。あんまり大げさに騒がれるのは嫌だけど、必要だったら好きに話して。エーシンヴァが良いようにやっていいから」

「承知しました。お言葉に甘えさせていただきます」


 そういえば彼は実験失敗で山に来たらしい。彼の仲間は彼のことを探しているだろう。それか死んじゃったっと思っているとか。なんにせよ無事を知らせる必要がある。


「スノーを一人にするのは心配ですが…。ここから動かないでくださいね」

「わかったってば」


 笑いながら答える。

 彼の瞳は本当に私を心配しているみたい。私がすごい魔法使いだって知っているはずなのに。もちろん私は部屋から出る気はない。どんな人がいるかわからないし、元来私は人見知りなのだ。それに、彼の懇願するような表情には逆らえない。


「それでは行ってまいります」


 扉を開いた彼が素早く体を扉の外に出し、これまた素早く扉を閉めた。すると

「お!おまえ!!エーシンヴァ!生きていたのか!どこに行ってた!どうやって戻ってきたんだ!!士長が今捜索隊を組んでいるところだ!!!早く士長室へ行け!!」

「ああ、わかった。詳しい説明はあとでする」


 と、扉の外から声が聞こえた。ちょうど誰かが部屋の前を通りかかったらしい。随分と騒がしい声が聞こえる。彼はこれから士長室とやらに行ってしまうらしい。

 待っている間何しよう。ベッドに寝転がってこれからのことを考える。おいしいものを食べたいし、服とかも買いたいなぁ。あ、お金はどうしよう。エーシンヴァってやっぱり完璧に美しいよなぁ。…扉の外の人に向かってタメ口だった!私にも敬語をやめてもらおう!

考えていると、少し眠ってしまっていた。彼のベッドは花のような果物のような甘くていい香りがしてリラックスしてしまったのだ。

 次に目を覚ましたのは彼が戻ってきて起こしてくれたからだった。


「……スノー。スノー。おはようございます」

「あ、寝ちゃってた。おはよう」

「お待たせして申し訳ございません。説明に少し手間取ってしまって。しかし、万事解決いたしました。今日は町の案内とともに新居を探しに行きましょう」

「うん。おいしいもの食べたーい。…新居って?」

「ここは寮で一人暮らし用ですから。スノーと一緒に暮らすにはもっと広い家が必要です」

「そういうことね」


 これからの予定が決まった。町を案内してもらって、住むところの目星をつけて、あ、私の存在ってどういう位置づけなんだろう。戸籍とかないよね。この国って戸籍必要かな。必要ならどうにか作らなきゃなぁ。


「あのさぁ、私って戸籍とかないけど大丈夫?今更だけど、不法入国とか…」

「戸籍…ですか?入国については、上司に説明済みですので問題ありません」


 不法入国にならなくてよかった。戸籍についてはなんて説明すればいいんだろう。


「うーん。身分保障とか?この国ではどうやっているの?」

「それでしたら、こちらです」


 彼の腕についた腕輪を見せてくれた。金色のバングルの中心に彼の瞳の色のような宝石がついている。


「こちらは、つけている本人の魔力で動く魔道具です。買い物や公的な手続きの時に使える便利ものなんですよ。国に保存されている情報をこのリングを通して引き出せるので、それが身分保障となります。買い物をする年齢になれば親が買い与えるものです。経済活動に参加した時から様々な情報が登録され始め、犯罪などを犯した者にはその情報も登録されるようになります。スノーは、新しく買えばいいのですよ」


 そんなものか。魔法の国ならではって感じだ。現金もなくてキャッシュレスみたい。この腕輪が、マイナンバーカードとお金を払うカードどっちもの役割を果たすのか。


「買うって、私、お金持ってないよ」

「私が買うのでご心配なく」

「それはわるいよ。後で返すから、お金の稼ぎ方を教えて」

「お気になさらずともよろしいのに。ですが、お金の稼ぎ方は大切ですね。スノーには簡単だと思いますが」

「どういうこと?私、自慢じゃないけど働いたことないよ」

「働かなくても大丈夫です。この国では、国を守るために魔法で国を覆う防衛システムを起動しています。システムを維持するには膨大な魔力が必要になるので、魔力が豊富なものは国に対して魔力を売ることができるのですよ。売った魔力は、魔力量が少ない者の日常生活を補助するための魔道具や、病院などでも使われます。魔力をお金に換えることもできますし、お金を魔力に換えることもできるのです。また、最近は直接魔力で支払うことを認めている店も多いですよ。」

「私は魔力が豊富だからお金には困らないってことか」

「そうなります」


 働かなくて済むなんてラッキー。魔力はエネルギーとして売り買いされるのか。そして、今では通貨となりつつもあると。お金の問題は簡単に解決できそうだ。じゃあ早速、町へ繰り出そう!

……そういえば


「そうだ。敬語やめてよ」

「私は普段からこのような話し方なのですが…」

「さっき扉の向こうの人に向かって敬語使ってなかった。それに、年下に敬語使ってたら周りから変な目で見られるかもしれないし」

「…わかりました。スノーが望むなら」

「よろしくね」

「では、…じゃあ、いこうか」

「うん!」


 今日の目標一つ達成だ。今度こそ、町に繰り出そう!部屋から出て長い廊下を歩く。等間隔に扉があり、一つ一つが彼の部屋のような個室なんだろう。外に出て、改めて今いたところ目見るとかなり大きな建物だった。大学みたいに何棟も大きな建物が敷地内にある。門には門番さんが二人立っていたけど、彼の顔を見ると敬礼をしていたから顔パスなんだと思う。

 門を抜け、道を一本出ると、大きな通りだった。結構いい立地にあったんだなぁ。通りには人がたくさんいて、賑やかだ。見回すと、露店が沢山。奥にはバザールみたいなところが見える。ワクワクしてきた。


「まずは、リングを買いましょう。…買おう」

「うん」


 敬語になっていたのに気づいて直してくれた。かわいい。


「こっちだよ」


 はぐれないように手をつないでくれる。デートだと思っているからドキドキする!周りから見たら子守だろうけど。

 周りを見回しながら歩いていると、自分の服との違いが目立つ。私の服は、長そでのワンピースだけど、周りの人はもっと開放的な服装をしている。暑い国だからだろうか。彼の黒いローブも周りから浮いているように見える。服を買う必要もありそう。


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