第四話 晴れの日
書き方を変えてみました。このほうが読みやすいでしょうか。
いや、わかっていますよ?推定10歳の少女に対して命尽きるまで尽くすとか言っちゃう彼はきっとやばい人だ。それに、本当かどうかなんてわからない。でも、そんなことを言って彼にメリットはないだろうし、メリットがあったとしても、私にはわからない。何よりも彼の美しさの前では、彼の発言が本当かなんてどうでもよくなってしまう。良いのである。彼が私の把握していない何かしらに私を利用しようとしていても、私が彼を思う存分愛すということには何ら関係ないのだから。
そう、起きてからいろいろあってきちんと認識できていなかったが、今向かい合って話をしているとよく見える。彼の瞳は、長く豊かな金の睫毛に囲まれ、金色に光り、とろりと溶けているバタースコッチのようだ。この瞳に見つめられれば、彼のことを全面的に信じたくなってしまう。ならば信じるまでである。次は質問タイムに移ろう。
「あの、あなたの年はおいくつですか?」
「是非、エーシンヴァとお呼びください。私は今年16になります」
「え、若っかい」
「そうでしょうか。スノー様は御幾つになられるのですか?」
彼のお願いには逆らえない。今後は彼をエーシンヴァと呼ぶことが決まった。
彼の若さには驚いた。外国人の顔って年齢推測難しいよね。私の年は本当のことを言うべき?嘘ついても仕方ないし、何より、彼にはあまり嘘をつきたくないと思った。信じられなければ勝手に冗談だと思うだろう。
「様なんてつけないでください。えっと、私は生後2日目です。信じられないかもしれませんが…」
「…いえ、信じます。では、スノーと呼ばせていただきますね。スノーは先ほどのように、私相手に敬語を使わずとも良いのですよ」
え、信じるんかい。盲目的すぎないか。まぁいいや。彼の滑らかで美しい声で名前を呼ばれるのはとてもいい気分だ。
「わかった。敬語、やめる。エーシンヴァ、も、敬語、使わなくていい」
「いえ、私は常にこのような話し方ですので、お気になさらず。生後2日というのは興味深い。よろしければどのような状況であったのかお話しくださいませんか?」
敬語からタメ口に戻すのって難しい。片言のようになってしまった。生後2日って、そりゃあ気になるよね。私は手短に生まれてからのことを話した。
「なんと…そんなことが…。スノーは一人でよく頑張りましたね。きっと、スノーは魔法の天才なんです。そんなスノーのおかげで、今私も生きていて、スノーと話すことができている。奇跡のようだ。改めて、ありがとうございます」
「え、そんなことないよ…」
この人めちゃくちゃ素直に信じるなぁ。それに、大げさだ。いや、彼から見たら大げさでも何ともないのかもしれない。次は彼のことを聞こうかな。
「えっと、エーシンヴァは、どんな所に住んでたの?何してたの?」
「はい。私の住む国は、ラハー帝国という場所で、砂漠と海の間にあるオアシスと交易の国と呼ばれる場所です。一年中熱く、太陽がじりじりと照らし、カラッとした空気の大変賑やかな国です。船による交易も盛んなので、異国の文化との交流もあるのですよ」
「暑い国かぁ。こことは正反対だね」
「そうですね。この山のように雪は降りません」
エーシンヴァはラハー帝国のことが大好きみたい。国の話をするとき瞳が輝いている。ここは寒いからラハー帝国ってところに行ってみるのもアリだよね。ずっと一人でここに住むのは嫌だし。私のこと連れて行ってくれるかなぁ。頼んでみよう。
「行ってみたいなぁ」
「それでは一緒に行きましょう。私が国をご案内いたしますよ」
頼む前から快諾された。
次の問題は、どうやってラハー帝国まで行くかってこと。願えば叶うと信じているけど、ラハー帝国がどこにあるかもどんな国かも知らない。この山がどこにあるのかも知らないから、どこに向かえばいいのかもわからない。私はこの世界のことを全然知らない。
「エーシンヴァは、この山からラハー帝国に行くにはどうすればいいかわかる?」
「いえ、どこに飛ばされたかもわからないので…。お役に立てずすみません…。」
「謝らないでよ。当たり前だよね。じゃあどうやって行こうかなぁ」
当然のことを聞いてシュンとさせてしまった。そんな顔も美しい。うーん。あそこの扉がラハー帝国につながればいいんだけど…。
ガチャっと開けてみたが、普通にベッドルームだ。
「いかがなさいました?」
「あ、なんでもないです」
突飛な行動でエーシンヴァには心配かけるし、恥をかいた。
エーシンヴァの部屋とかにつながらないかな。
「あの、エーシンヴァの部屋ってどんなところ?想像してみてよ」
「かまいませんが…。何もない部屋ですよ?」
「いいからいいから」
エーシンヴァが思っているところにつながれーと念じ、また扉を開けてみる。知らない部屋につながっていた。
「………私の部屋です」
エーシンヴァが唖然としている。それはそうだろう。私も上手くいくとは思っていなかった。
これ本当にどうなっているんだろう。魔法のある世界だからってことなんだよね。神様の力だと思っていたのは魔法だったのか。それにしても万能だ。
「転移の陣もないのにどうやって…スノーの力ですか?」
「どうだろう。よくわからないけど多分そうだよ。今までも望んだら大体叶えられたから」
「…本当にすごい力をお持ちなのですね……」
驚きすぎて半分くらい上の空のようだ。彼の部屋は本当に殺風景だった。つながった扉が玄関のようで靴が置いてある。その他にはベッドと小さなクローゼットしかない。
「ほんとに殺風景だね」
「はい。私の部屋は寝るためだけの場所ですから。研究棟には食堂やバスルームもあるので」
「一人暮らしじゃないの?研究棟?」
勝手に独り暮らしだと思い込んでいたけど、彼の家族とか、どんな家に住んでいるとか全然聞いていなかったな。もし誰かが彼の部屋にいたら危なかった。
「すみません。お伝えしておりませんでしたね。私は国の魔法省に勤務しています。魔法についての研究や国を守る魔道具の運用などを行う部署です。私は孤児だったのですが、魔力量が多かったこともあり、魔法省が運営する孤児院で国に使えるために魔法について学びながら育ちました。そして、魔法省に勤務するようになった今、魔法省が運営する魔法士のための寮に住んでいるのです。研究棟というのは、魔法省職員が研究のために使える施設のことです」
「あ、そうなんだ」
聞いていないのに私が聞きたいことを教えてくれる。美しくて有能って最高だな。
「ですが、ここではスノーと一緒に住むことができません。急ぎ引っ越しの準備をいたしますね」
にこやかに言っているけどそんな急にできるものなのかな。というか彼ってかなり強引?一緒に住むことは決定なんだ。もちろん私は全面的に賛成です。
これからどうしよう。とりあえず観光かなぁ。ラハー帝国ってどんなところなのか見て回りたいし。一緒に観光するってデートかな?デートだよね!
「じゃあ、一緒に住むところを決めるためにもこの国を案内してよ」
「…っ!勿論です!」
あ、驚いてる。強引って自覚はあるんだね。そんな嬉しそうな顔をされるとこっちまで嬉しくなる。
「では、一緒に行きましょう」
「うん」
扉をつなげられるようなので、この家にはいつでも戻ってくることができるだろう。一晩しか過ごしていないが、結構気に入っているこの部屋をぐるっと見まわした後、彼に手を引かれた私は彼の部屋へ踏み込んだ。