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第9話「選んだ理由」

 ツェツィリアは夢魔モーラ!?


 目の前の美しい少女が?

 人間にしか見えない可憐な少女が?

 到底、信じられない。  


 衝撃の事実を聞き、呆然とするアルセーヌを尻目に、ツェツィリアの『告白』は続いている。


 遠い目をしながら、ツェツィリアは話す。

 淡々と……


「母が……魔法使いの母は空腹を訴える私に……密かに魔力を与えていた。彼女は気付いていたの。私が魔族である事を」


「…………」


「その秘密が、ある日父親に知れた。父親は母を殴ってののしり、私をどこか遠く、もう戻れない場所へ捨てると決めた……」


「…………」


「人間ではない、私……人々から忌み嫌われる夢魔モーラであるが故に……」


「…………」


「実の両親から、人里離れた深い不気味な森へ捨てられた私は……飢えたゴブリン共の大群に囲まれ、あっさり餌になる……普通なら、すぐに死ぬ運命だった……」


「…………」


「ゴブリン共に生きながら喰われる……もうおしまい……すんでの所で、私を助けてくれたのが、お父様なの……」


「ね、ねぇ、ツェツィリア! さっきから君が言ってる、そ、そのお父様って誰なの?」


 アルセーヌは気になる。

 ツェツィリアの言う『お父様』の正体とは一体、誰?

 果たして何者なのか?


 どうやら……

 ツェツィリアは、『お父様』に対する質問には、まともに答えたくないらしい。

 それより、アルセーヌがとても気になる事を言い放った。


「……ええ、お父様が私を助けてくれたのは、ほんのきまぐれ。でも魂の契約に基づき、私を鍛え、いろいろなものを与えてくれたのよ……」


「な? た、魂の契約って? な、何!?」


 アルセーヌはそう言うと、周囲を見渡したが……

 ツェツィリアの言う『お父様』らしき者は見当たらなかった。

 もしもこの世界に居るのなら、あの男『お父様』へいろいろ問い質したい……

 そう思ったのだ。


 しかし改めて周囲を見回しても、自分とツェツィリアのたったふたりきり。

 他に人間は見当たらない。


 困って頭をかいたアルセーヌは、仕方なくもうひとつの疑問を、ツェツィリアへぶつけてみる事にした。


「ええっと……ツェツィリアが夢魔モーラって事は分かったけれど……何故俺なの?」


「うふふ」


「笑わないでくれよ。俺、真面目に聞いているんだから」


「あら、私は真面目よ。貴方をからかってなんかいないわ」


「だってさ。孤児院には他にも、親に捨てられた孤児が大勢居た筈だ……俺よりずっとカッコいい奴がいっぱい」


 アルセーヌは思う。

 確かに自分は孤児で不幸な境遇だ。

 まじめに生きて来たという自負もある。


 しかし……

 地味な自分以上に、美しいツェツィリアには相応しい相手が居るとも思う。

 アルセーヌは、またも己を卑下したのである。


 そんなアルセーヌをツェツィリアはたしなめる。

 悪戯っぽく笑って……


「うふふ、駄目よ、そんな事言っちゃ。私には、貴方を選んだはっきりとした理由があるわ」


「え? 俺を選んだ、はっきりとした理由」


 アルセーヌは……選ばれた。

 間違いなく、ツェツィリアに選ばれた。

 大事なパートナーとして。


 まだ半信半疑のアルセーヌへ、ツェツィリアは言う。


「さっきも言ったけれど、貴方は私を救ってくれた……くじけそうになる私の心を……いつもしっかり支えてくれたの……」


「…………」


「うふふ、じゃあ教えるね。理由は他にもあるの、それも3つもよ」


「3つも? 俺を選んだ理由が?」


「そうよ。さっきも言ったけど……まず貴方の生き方。誠実さ、つまり人柄よ。第2は貴方の力……」


「力?」


「うふふ、だって私は魔力を糧とする夢魔モーラ。いっぱい魔力を与えてくれる魔力供与士の貴方は、パートナーとしてぴったりじゃない?」


 ツェツィリアの言葉を聞き、アルセーヌは納得し頷く。

 誠実さはともかく、魔力を喰らう夢魔ならば……

 彼女の言う通り、確かに魔力供与士の自分は、ぴったりのパートナーだと。


「な、成る程。だったら最後の3つ目は?」


「最後の……第3の理由は……貴方の持つ魔力の質が……最高だから。私と相性ピッタリなのよ」


「質が? さ、最高? 俺と君は相性がぴったりなのか?」


「その通り! 論より証拠……思い出してみて……貴方と私が抱き合った時の事を……」


「あ、ああ……」


 アルセーヌは思い出した。

 迷宮でツェツィリアと抱き合った甘美なひと時を……

 まるで身体が、とろけたチーズのようだった。


 いつも仕事で、事務的に魔力を与えていた時とは大違いだ。

 魔力を出す瞬間に、思わず情けない声が出てしまったくらいである。

 そしてツェツィリアも、甘い魅惑的な声で応えてくれた。


 単なる魔力の交歓であそこまで感じるのだ。

 もし男として、ツェツィリアを抱いたら……

 一体どうなるのか?


 想像しただけで、怖くなる。

 否、期待に胸が打ち震えてしまう……


 そんなアルセーヌの心の中を読んだように、ツェツィリアがまたもや悪戯っぽく笑う。


「ねぇ……アルセーヌ。私が……欲しい?」


「あ、ああ……ほ、欲しい! 君を抱きたい!」


「うふふ、安心したわ。貴方、健康な男の子ね。でも……」


「…………」


「アルセーヌ」


「…………」


「貴方が……本当に私を愛してくれるのなら……夢魔の私は……変われるかもしれない……」


 ツェツィリアが謎めいた言葉を告げ、何故か口籠った、その時。


「少年!」


 凛とした男の声が、いきなりアルセーヌの背後から響く。

 声を聞いたツェツィリアが、にっこり笑う。


「あら? お父様」 


「へ? お父様?」


 ツェツィリアの声に反応し、アルセーヌも慌てて振り返った。


 何という事だろう。

 

 いつの間にか……

 迷宮でアルセーヌが出会ったあの謎めいた男、

 転移魔法で煙のように消えた魔法使いが居た!

 

 10年前のあの運命の日……

 恐怖に慄き、泣き叫ぶツェツィリアをゴブリンの大群から助けた魔法使いが……

 ふたりの傍に立っていたのである。

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