表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/17

第3話「慟哭」

 しかし……

 謎めいた魔法使いの男は、逃げ出したゴブリンに対し、全く容赦しなかった。


「ふん!」


 ほんの少しだけ気合を入れて、男が声を発すると……

 ゴブリン共が逃げる、行く手の地面が勢いよくせりあがった。

 それも、ただせりあがっただけではない。

 強固な岩の壁となり、一気に3mくらいせり上がったのだ。

 

 しかも!

 岩の壁があるのは、ゴブリン共の逃げる方向だけではなかった。

 いつの間にか、彼等は取り囲まれていたのだ。


 何と!

 背後からも、同じような岩の壁が凄まじい速度で動き、ゴブリン共へ迫っている。

 こうなると、ゴブリン共の運命は決した。

 やがて、岩の壁同士がどんどん近付き……ぴったりと合わさった。

 

 ぶしゃああああっつ!!!

 ぎぃやぁぁぁぁぁ!!!

 

 岩と岩が凄まじい力で合わさった瞬間。

 断末魔の叫び声と、水気の多い野菜を大量に握り潰したような音がした。


 何と!

 謎の男が、最後に使ったのは……

 地の魔法だった。


 大混乱と底知れぬ恐怖の中で……

 逃げようとしたゴブリン共は、強固な岩の壁に挟まれ、無残にも圧死させられたのである。


「す、凄い……」


 自分を襲い、喰い殺そうとしたゴブリン共が、あっという間に全滅させられたのを見て……

 ツェツィリアは、呆然としていた。


 男が使ったのが……

 水・火・風そして地……

 全属性の魔法である事だけは、幼いツェツィリアにも分かった。

 

 何故ならば、以前に母から教えて貰ったから…… 

 自分をこのように「捨てた」から、ツェツィリアはもう彼女を母とは呼べなくなってしまったが……


 中級魔法使いであった『かつての母』は、ツェツィリアへ素養があると言って、簡単な魔法の手ほどきをしてくれたのだ。


 そんな母が、魔法発動の手本を見せる時は、決まって精神の集中、魔力の高揚、難解な言霊、そして長い詠唱が付きものであった。


 だが目の前の男は、そんな手順など全く踏まず、いとも簡単に魔法を使っていた。

 詠唱は勿論、魔力を高める予備動作さえもなしに……


 閑話休題。


 恐るべき謎の男は、空中に浮いたまま……

 暫し、ゴブリン共の無残な死骸を眺めていた。


「ふむ……」


 小さなため息をついた男は、パッと身を翻すと、呆然としたままのツェツィリアの前に降り立った。

 ゆっくりと腕組みをする。


「ひ!」


 ツェツィリアは思わず悲鳴をあげた。


 圧倒的な力を持つ、正体不明な魔法使いの男……

 ゴブリンに喰い殺される、絶体絶命の危機を助けてはくれたが……

 かといって、ツェツィリアの味方とは限らない。


 幼いツェツィリアには……

 目の前に立つ男に対し、「助けてくれた」という淡い期待と共に、本能的な不安及び恐怖が混在していた。


「あ!」


 しかし男を改めて見て、次にツェツィリアのあげた声は、驚きだった。

 何故ならば、謎の男はとても美しい顔立ちをしていたからだ。


 色白の肌。

 小さい顔。

 肩まで伸びた、さらさらの美しい金髪。

 「ぴしっ!」と鼻筋が通った端正な顔立ち。

 

 だが切れ長の目には感情が見えない。

 碧い瞳がツェツィリアを、まるで『もの』でも見るように捉えていた。


 男は淡々と言う。

 何の感情も込めずに。


「小娘……二度は助けぬ。もしも生きたいのなら……死ぬのが嫌ならば、お前自身が力をつける事だ」


「力?」


「幸い、お前には……そこそこの素質がある」


「そしつ?」


「ああ、魔法使いの素質だ……結構なものがな。更にお前が人の心を失くし、完全に覚醒すれば、特別な強者になれる」


「かくせい? とくべつ? きょうしゃ?」


「うむ……そもそも、お前が何故この森へ捨てられたのか……分かるか?」


「…………」


 ツェツィリアは……男の問いに答えなかった。

 否、両親の言動を見て、薄々感じてはいたが、答えたくなかったのだ。


 しかし男は、ツェツィリアが答えるまでもなく……

 容赦ない、非情な現実を告げて行く。


「小娘……人の子から生まれたお前は、人にあって、人に非ず……だから捨てられた」


「…………」


「お前は夢魔……魔力を喰らう恐るべき人外、夢魔モーラなのだから」


「え? う、うそ……」


 自分は人間ではない……

 夢魔……モーラ。

 父親が「化け物!」と叫んだ言葉がリフレインする……


 ツェツィリアは首を振った。

 そんな現実、認めたくない。

 夢よ、醒めろ!

 そう念じてしまう。


 しかし男はきっぱりと言い放つ。

 まるで、ツェツィリアの辛い心を見透かしたように……


「否定しても、忘れようとしても……全く無駄だ。……お前が夢魔なのは、嘘でも夢でもない、はっきりとした現実なのだ……」


「…………」


 無言のツェツィリアを見て、男は僅かに笑う。


「ふ! 小娘よ、もう覚悟を決めろ。素直に現実を受け入れるが良い……」


「…………」


「お前の両親は恐るべき人外である事が分かり、年端も行かないお前を投げ捨てた。水より濃い血の絆をあっさりと断ち切ったのだ」


「あう、あううううううう~~………あああ~~」


 ツェツィリアの慟哭が森に響く。

 彼女は途中から、男の言葉を聞いてはいなかった。


 幼いツェツィリアは、全く予想もしていなかった……

 自分に突如降りかかった、過酷な運命が悲しい……


 幸せに暮らしていた家へは……

 二度と戻れない事を知り、ただただ泣くしかなかったのである。

いつもお読み頂きありがとうございます。


皆様にお知らせです。


『魔法女子学園の助っ人教師』小説版第7巻が、12月21日に発売されます。


レーベルはホビージャパン様のHJノベルス、

イラストのご担当は既刊と同じくとよた瑣織先生です。


内容を少しだけ、活動報告でご紹介しております。

ぜひご覧になって下さい。

第1巻~6巻の既刊、コミカライズ版ともども後押し、宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ