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置いてくな濠

作者: さば・ノーブ

日常に潜む・・・闇


彼はその日釣りを楽しんでいた・・・が


ポイントを換え様と動いた時、それは現れた・・・・

  闇の中、何者かの気配がつけて来る


生臭い匂いが鼻孔を掠め去る・・・


まるで・・・悍ましい闇の獣が後を追うかのように感じてしまう。




 ここは街灯もない池のほとり


もう夏も過ぎた季節だというのに、身体にはねっとりと嫌な汗が滲む。



夕方頃から始めた釣りは、獲物も無くに終わりを告げた。

何時もならこのポイントで空振りに終わる筈も無いというのに、

今日はどうしたというのかルアーに反応さえも無かった。


「こんな事もあるさ・・・」


青年はロッドを片手に場所を変えようと歩き出した。


それはルアーを扱う者なら極普通の行動だった。

おかっぱり、と呼ばれる釣り人は歩いて稼ぐのが普通。

ボートでポイントを移動するのにも共通する事。


だが。


今日だけは間違いだったと感じ始めていた・・・


背中に流れる冷や汗を感じて。


「なんなんだよ・・・なんで追いかけて来るんだよ?」


後ろから指される視線を感じ、身震いする・・・

身の毛もヨダツとはこの事か・・・そう感じて。



青年が歩く速度と変わらぬ歩調でついてくる。


足音さえも忍ばせて・・・何か得体の知れぬ者が後をつけて来る。


「なんなんだよ!なんで俺の後を追いかけて来るんだよ?!」


着かず離れず・・・ソレは追いかけて来る。



青年の足が次第に速くなる。

それに合わせて追う者のスピードもあがる。


「ちきしょうっ!」


ロッドとナップザックを持った青年はいつの間にか走り出していた。



((ザザザッ))



つゆ草に足元が濡れるのも構わず、必死の思いであかりのある所に逃げ出す。



  ((ズズズッ))



追う者もスピードを上げ、追い縋って来る。

まるで何か悍ましい物が地面を擦るような音をたてながら・・・


身に迫る怪異に、後ろを振り返る余裕もなく足が勝手に助けを求める。



「うわああぁっ?!」



迫る音に肝を潰した青年が転ぶように逃げ惑う。

数十メートル先に観える街灯の元へと。



「ひいいいぃつ!」



もはや釣り処では無いというのに、ロッドとザックを持ったまま・・・

ひたすら逃げる、走る、転げる様に。



「俺が何をしたって言うんだ!何が目的なんだ!」



漸く街灯に照らされる場所まで辿り着いた青年が、後からつけて来る者に問いながら振り返った。

それが青年の最初で最後の勇気だった・・・のだ。



  「ぎゃっ?!」



振り返った青年の叫びが・・・途絶える。






「な・・・ん・・・だ・・・とぉ?!」


追いかけて来たモノを見詰める目が・・・点になる。


それは・・・化け猫・・・でもない、普通の猫。


野良ネコだと想う。


唯・・・違うのは・・・


「にゃ~っ」


一声啼いた猫が口にしていたのは。


「あ。俺のワーム・・・か?!」


袋詰めにされてある自分の釣り道具ワーム

確かもういらないとポイ捨てしておいた古いワームの袋を、猫が咥えて持ってきた・・・



先程匂った生臭い匂いの元は、このワームの臭いだったのか。


そんな臭い釣り具を咥えて、猫が追いかけて来たというのか?


ポイっと口から離した袋を差し出すかのように、猫が青年を睨んだ。



「なんだ?!何が言いたいんだ?」



野良猫に睨まれた青年が冷や汗を拭いながら訊いた。


「ニャッにゃ~っ」


一声啼いた猫が観たのは。




「ゴ・・・ミ・・・」


声を呑み、見詰める先に建て掛けられた看板を読む。


「ゴミは持ち帰りましょう?自分の出したごみは自分の家で・・・だと?」


猫は足元の袋を足でつつく。


「おまえ・・・俺に持って帰れと?」


袋を摘まんだ青年に、また猫が鳴く。


「にゃにゃ~っ」


頷いたような気がした。


「そうか・・・それはごもっともな事だ」


ポイ捨てした自分に反省した青年がザックに袋を入れると、猫はいつの間にか消えていた。

本当の化け猫の様に。


街灯の下で青年は化かされたかのような顔をしていたが。


「釣り場にゴミを捨てるのは釣り人に有るまじき行為だよな。

 これは俺とした事が・・・間違っていた」


釣りを始めてもう何年も経つベテランだというのに、

ついうっかり捨てたままにしてしまった事を反省する。


あの猫はそれを正してくれた・・・青年は追いかけられた事も忘れて周りを探した。


しかし・・・

不思議な事に何処にもソレらしい物音も影さえも、残されては居なかった。



「不思議な事もあるんだなぁ、まるで狸に化かされたようだ・・・」




帰りすがら、呟いた青年は追いかけられた恐怖もどこへやら。

唯、あの猫が教えてくれた通りだと思った。


「釣り場に来たかったら、釣り場を汚しちゃ駄目だよなぁ。

 きっと自分に還ってくるんだから・・・罰が」


今晩の事を誰かに話そうか考えながら町へと足を向ける。




ロッドを片手に持ち、ザックを肩に背負った青年が立ち去っていくのを、

暗闇の中で観ている眼が鈍く輝いていたが・・・



青年がザックからごみを捨てずに帰って行くのを観ていた眼が二つ・・・閉じた

どーもっ!さば・ です


冬なのに怪談かよって・・・思いますよね?


大丈夫!単に怪談って言うだけで。

何も怖い話ではないでしょ?


え?!

怖かった?

嘘っ!それじゃー本当の怪談噺じゃあーりませんか?



でわっ!また・・・闇の世界でお会いしましょう?

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― 新着の感想 ―
[一言] ゴミのポイ捨てはだめですよね。 猫ちゃんはいい事をした! 実際釣りでゴミを置いてっちゃう人とか多そうだなぁ。
[気になる点] 閉じた目が……。 [一言] 誰もがこうしてごみを持ち帰れば、環境破壊も汚染もなくなるのでしょうね。ひとりひとりが気を付ければよいことですが、他人の目が無いと、ズルをしたくなるのが人間の…
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