~第五話~エピローグ
この大事件から一週間以上経った。
いよいよ、太陽も本気になって私達から水分を奪いに来ている。
あと数日程で私達は高校生活最後の夏休みを迎える事となる。
この前、徳田先生との再面談を終えた私は一先ず目の前の問題を片付ける事が出来た。
京香「とりあえず徳田先生には京香さんと話し合って、大学に進学することにしましたって言っておきなさい。それと、私と一緒に毎日猛勉強中ですって言葉も付け加えてね」
京香の助言を一言一句漏らさずに伝えると徳田先生は曇り一つない穏やかな表情で進路調査用プリントに新品のボールペンを使ってサラサラと文字を書いていく。
この、再面談は5分とかからずに終わってしまった。
どんだけ信頼されてるんだ……京香は……
こんな事件があったにも関わらず私と京香の関係は何事もなかったように続いていた。少しも一ミリたりとも関係が崩れることはなかったのだ。
京香「ほら、これなんて落ち着いたデザインであなたに似合うと思うけど」
そういってファッション雑誌のページを私に見せてくる。
「はぁ!!これ、下着のくせに8600円もすんのかよ!!」
二か月分のお小遣いでやっとまかなえるくらいの値段で下着なんて買えるか。
てか、ヤメろ、教室で堂々と下着のページを出すな。昼時だからって男子もいるんだぞ。
京香「安物のスポーツブラなんて止めなさいって言ってんのよ」
京香「あなたに合う下着ってなかなか難しんだから」
京香「これならぺったんこのあなたでも大人の雰囲気が出ると思うんだけど」
何を言うか。
私だって高校生なんだから第二次成長を経て、胸だって日々大きくなってるんだぞ。
京香「あなたのは空手やってるから胸囲が増えただけでカップ数が増えたわけじゃないでしょ」
ヤメろ。胸に触るな。
そして、ぱーの状態で私に見せるな。ちょっとくらい丸みがあっただろ。
そこにいる男子も残念そうな顔で私を見てんじゃねぇよ。
てか、あんな事件があったくせになんでのうのうと下着トークが出来るんだ。
もう少し強めに蹴ったほうが良かったか?
京香「こう君もボクサーパンツよりもビキニの方が似合いそうなのに」
それは、あんたの趣味思考的判断だろ。
こいつ、ホントは全然反省してないだろ。
京香「してます~あの夜は反省と後悔と痛みで眠れなかったんだから」
「なら、もう少しこうたに近づくのは自粛しろよ」
毎日のようにこうたにちょっかい出して、いちゃいちゃしやがって。
結局、京香は勉強会と称して私の部屋に入り浸っている。
そのおかげかどうかはわからないが、この前のこうたのテストにはバツがひとつも付いていなかったらしい。
母は塾代が浮いたとか言って京香の事を先生と崇めるようになった。
この前、3人で勉強してるときに母が飲み物とコップを三つ持って、部屋にやってきた。
母「これからも見てもらうんだったら京香先生にお小遣いあげないといけないかしら」
え?じぁ、これからは私がこうたの勉強見るからお小遣いアップして。
母「あんたは、まず自分の事をやりなさい」
母「この前のテスト、平均点とれなかったでしょ?」
京香「おばさま、気にしないでください。私、学校の先生になることが夢なんです」
京香「どうやったら分かりやすく教えることが出来るか、私も日々勉強になるんですよ」
京香「だからお金なんて気にしないでください」
こうた「きょーお姉ちゃんに勉強を見てもらうとすごい分かりやすいんだ……」
京香「そう言ってもらうと……私も……うれしい」
そういうと京香は一粒の涙(嘘泣き)をシルクのハンカチで拭う。
すごい、こいつ、もっともらしい嘘を菩薩のような顔で平然と口にしやがった。
母も拝むな、恥ずかしい。
外堀から着実に埋めていかれてる気がする。
しかも、あの事件があった後から、京香のこうたに対するスキンシップが激しくなった気がする。
昨日なんて無理やりこうたとお風呂に入ろうとしやがって。
京香「こう君にいい事教えてあげる」
こうた「ん?なになに?」
京香「一番勉強がはかどる方法としてね。人がリラックスしてるときって一番記憶に残りやすいの」
こうた「うん」
京香「だから、お風呂に入っている時に勉強するのが一番いいのよ」
こうた「そうなの?分かった。じぁ今日の夜試してみるね」
京香「今、試すの。一緒に入りましょう」
こうた「え!?そ、それはさすがに恥ずかしいよ」
京香「恥ずかしがってちゃ駄目よ。勉強の為、将来の為なんだから」
こうた「えー……いや……でも……」
私が止めに入らなかったらどうなっていたことか……
京香「ん~私の秘め事(性癖)がバレちゃったからあなたならもういいかなって思って」
こいつ、開き直ったぞ。
京香「あなただって一緒にお風呂入ることあるでしょ?」
ねーよ。
こうたが小一の時に卒業したよ。
京香「飽きたのね」
あんたと違ってそんな目で弟を見た事なんてないよ。
京香「あら、もったいない」
そんな事よりもだ。
「あの~それでですね」
「京香先生、毎日のように勉強会を開いているにもかかわらず私の成績が上がらないのはどういう了見でしょうか?」
京香「う~ん、大器晩成タイプなんじゃない」
成就が大学入試後にならない事を祈るか。
そもそも、きょーは私に勉強を教える気があるのか?毎回、こうたにちょっかい出してる所しか見てないぞコラ。
京香「だって、あなたがそんなに勉強出来ないなんて思ってなかったから」
京香「せめて、高二くらいまでの問題はある程度解けると思ってたから」
「ぐぅ……」
京香「それに、あなた、勉強会以外の時間はちゃんと勉強してないでしょ?」
どきっ。
京香「今までサボってた分の丸二年半分を取り返すんだったら小説なんて読んでる暇ないのにね」
京香「結局は本人のやる気次第って事よ」
こうたを見てるとあいつはなんだかんだで勉強会以外でも自力で宿題をやっていたのに私は……
すいませんでした。勉強会以外で机に向かってません。
そうねぇと京香は持っていたアップルティーを一口飲む。
京香「やっぱり行きたい大学くらいは決めといても良いかもしれないわね」
京香「目標がなくただ漠然と勉強するんじゃ、やる気もおきないだろうし」
「なんだかんだ言って助言はしてくれるんだね。きょーは」
京香「当たり前じゃない、私達は親友でしょ?」
京香「このままいくと私の親友は小説家という夢を見てるだけのフリーターか、下手したらニートになっちゃうじゃない」
それに、と京香はぼそっと付け加える
京香「あなたが勉強だけに頭を使っていれば私の完全犯罪も成功したのに……」
おい、本性がまた漏れてるぞ。
あんたはこのままいくと本当に犯罪者になるぞ。
ヤだからね、声を変えてニュースに保育園からの友達として私が首から下だけ全国放送されるのは。
京香が飲んでいるアップルティーのパックがペコッとしぼんだ。
その時は―
また、あなたが捕まえてね。探偵さん。
そう言うと京香は飲み干したアップルティーのパックを捨てに行った。