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探偵(志望)事件記~青春編~  作者: おくらまつもと
4/5

~第四話~事件の解決

今日は土曜日なので学校がない。

なので、お昼から私の部屋で京香と二人で勉強会を開いている。

こうたは学校のサッカークラブに入っているため、今頃はこんな暑い中、汗水たらしながら白黒のボールを追っている。母親もこうたに付き合って

サッカーの応援に行っている。父親は、まぁ、仕事だろう。私が11時ごろ起きた時には一人しかいなかった。

そんなわけで、今、家には私と京香しかいなかった。

なぜ、こんな遅くまで寝ていたかというと昨日の謎を一晩中考えていたからだ。

結局、この結論に達したときには太陽の光が東の空をオレンジ色に照らしていた。

はぁ、夜更かしは肌荒れの原因。オトメの天敵なのに……

そして今から一晩中考えた推理を説いていこうと思う。

ただ、この事件が終結したとき、私達二人の関係に亀裂が入り今までの日常が崩れてしまうかもしれない……

この解答は、話の筋が通っているだけで現実味がまるでない。もし、これが私の勘違いであれば京香は傷ついてしまうかもしれない……

もし、このまま、沈黙していれば、残りの高校生活を平穏無事にすごせるかもしれない……

でも、それでは駄目なのだ。


なぜなら、私は探偵なのだから。


私は髪をかきながら対面にいる京香を見る。

「ねぇ、きょー、こうたの下着になんかした?」

その言葉を口にした瞬間、京香が紅茶の中でくるくると回していたスプーンがピタッと止まった。

京香「な、なな、な何かってなによ……私がこう君の下着を盗んだとでも言うの?」

「あんた、絶対犯罪犯さない方が良いよ……」

京香「なっ!!」

いつも涼しい顔をしている京香がめずらしく動揺の色を隠せないでいる。

あっさり白状した……

京香はこうたのパンツを盗んだ。

なぜ、これだけの会話で解かったのかというと……説明するこっちも恥ずかしいが……

探偵小説の初歩も初歩、何回も使われている技法だけど、

私は下着に何かした?としか言ってないのにそれが下着を盗んだという

それは犯人しか知りえない情報だからだ。

ちょろ過ぎるよ京香……

はぁ……と、ため息をついてから京香に説明していくことにした。

「ここからは私の推理なんだけど」

まず、前提としてきょーがこうたの下着が欲しかったと仮定しなきゃいけないんだけどね。

盗んだのは昨日、こうたが風呂に入っている時だと思う。

昨日きょーにしては珍しく私にご褒美として私の見たかった映画をわざわざ調べて買ってくれたDVDを勉強会の最中に唐突に見せてもらった。

きょーは私が熱中すると周りが見えなくなるって言うことを利用したのね。

映画の良い所が丁度、こうたの下校時間と被る様にした。

そう思ったら昨日のきょーのセリフ

「私も見たことがないから楽しみ」って言ってたのに

「これから良い所だからその前にトイレ」って言うのもおかしいよね。

あんたの事だからどのシーンが一番私が熱中するかを調べたんじゃない?それも何回も見て。

なぜ、そんな事をしたのか?

私が絶対に部屋から出ないようにするためにだよね。万が一見られるっていうのを避ける為に。

それに昨日、お母さんはパートに出ていた。

一ヶ月、毎日私の家に来れば何曜日に働いているかを調べるのは難しくない。

こうたの下校時刻もまっすぐ家に帰るとなればあんまり変わらない。

京香「ふっ……ふっ……ふーん、それだけ、それだけじゃ、私が盗んだとは言えないわよ……」

京香「そ、そ、そ、その程度で親友を盗人呼ばわりするなんて……」

ティーカップの中の紅茶はこぼれんばかりに激しい波を打っていた。京香の手は生まれたての小鹿のようにプルプルと

震えている。

京香とは保育園の時から一緒にいたがこんな京香ははじめてみたなと私は思った。


そういえばこんな事があった。

1年前の夏、水泳の授業が終わった後、着替えをしていると

京香「ねぇ、あなた予備の下着とか持ってないかしら?」

「え?ないよ」

京香「困ったわね……下着盗まれちゃったみたい」

はぁ!!着替えをしていた女子全員が声を上げた。

京香「どうしようかしら……誰か予備の下着持ってないかしら?」

「いやいやいや、それ不味いでしょ、大事件じゃん」

着替えをしていた女子達が騒ぎ出した。

女子A「ちょっ、先生呼んでくる」

女子B「こ、こわっ」

女子C「西園寺さんの下着盗むなんてサイテーね」

そんな中で京香はあっけらかんとしていた。

「あんたねぇ、なんでそんな冷静なんだよ」

京香「んー別にあの下着、気に入ってなかったからあんまり使ってなかったし……捨てようかなって思ってたから」

「いやいやいや、そういう問題?」

この事件は生徒と教師の中で大騒動となり全校集会で生徒一人一人が持ち物検査を受けることになった。

そんな中でも京香は涼しい顔をしていた。

結局、犯人は見つからなかったし盗まれた本人も気にしていないため急激に熱が冷めていった。


あの……京香がねぇ……

京香「で、そ、それでパンツは……な、なくなってたの」

「んにゃ、あったよ」

京香「そ、そうよね、そうでしょ、そうに決まってるわ、盗まれてなかったのよ、私は何もしてないわよ」

「ただ、新品のパンツになってた」

京香「つっ!!」

これはまったくの偶然だったのだ。

昨日京香が早く帰らなければこうたの次に私が風呂には、入らなかっただろうし、お母さんのあのセリフ


母「ちょっと、こうた、あんた、また下着と洋服一緒にして入れたでしょまったくいつも別に分けてって言ってるでしょ。絡まっちゃって大変なんだから」


って事があったから、こうたが分けて入れてないかどうかを確かめる為に洗濯機の中を見るような事はしなかっただろうしね。

最初見たときに疑問に思ったよ……なんで新品のパンツが洗濯機に……で、こうたのパンツは……って

それで……もし、これが事件だとしたら……こうたのパンツが盗まれたとしたらって仮定が出来て、それが可能な人物はどう考えてもきょーしかいないからね……

そんで、きょーの行動を一から整理してみたんだ。

ここで思ったんだけどあんた、こうたのパンツがどういうパンツなのかを調べてたんじゃない?

いや、盗もうとする機会は何回もあったんだと思う。

でも、やっぱり、ここで無くなったら真っ先に疑われるのはきょーだよね。

すぐ、バレてしまう。

なら、どうすればバレないのかを考えた。

そこで、盗んだとしても洗濯物の中に同じパンツがあれば盗んだ証拠は見つからなくなる。

だから、こうたのパンツがどこのものなのかを調べに調べた。

毎日だと怪しく思われるから3、4日に一回とかの頻度で、

家には私とこうたしかいない時を狙って……トイレに行くとか言ってね。

家には母親がいるが週4でパートに出ているから家に3人しかいないときが多いしね。

昨日母に確認してみたんだけど、


「こうたっていつも、洗濯機の中に下着と服をわけないで入れてた?」

母「注意した後はわけてたりしたけど、まぁ、ほとんど毎日ね」

「それってもしかして上着だけだったりしない?ズボンとパンツもわけないで入ってた?」

母「ん~そういえばズボンとパンツはわりかし、わけて入ってたかしら……」

母「それがどうかしたの?」


きょーがパンツを調べる為に一緒になっていたパンツとズボンをわけたんだよね。

おとといとかもそうだった。

調べていくうちに、近所のウニクロで買ったものだって分かった……

こうたのはボクサーパンツだし、あんな量産品なら種類だって何種類もないんじゃない?

ウニクロで売ってるボクサーパンツをいくつか用意しておけば、その日、こうたが穿いていた物と同じのを用意するのは簡単だしね。


京香はうつむいていた顔を上げた。

その顔はあきらめ、悔しさ、哀愁等がごちゃまぜになった表情を私に向けている。

「でも、このトリックはすごいよ……洗濯機をかける前に気づかなかったら絶対に分からなかった」

母親が洗濯物に対して不安を言っていなかったら……

昨日も何事もなく服は洗濯機に入れられてごちゃごちゃになった洗濯物となっていたら……

きょーの完全犯罪は成立していたよ。

京香「でも、ばれてしまったわ」

「……しいていうなら、きょーは一つミスを犯した……いつもより早く帰ってしまったのだ……犯人の心理として早く証拠を隠したいから昨日は早めに帰った」

私がいつもみたいに最後に風呂に入っていたら……

京香「そんな……些細なミスで……失敗したのね……わたし……」

「事件を起こすとき、犯人は本当に僅かな……すっごく些細なミスを犯す……それを発見するのが探偵の役目なんだよ……」

京香「……完敗ね……」

京香「まぁ……いいわ、罪は罪よ」

京香「火あぶり、鋸挽き、皮剥ぎ、好きにするがいいわ」

「日本の死刑は絞首刑のはずだけど……てか、たかがパンツ一枚でおおげさな……」

「それよりも、話してよ、なんでこうたのパンツを盗んだかを……それによっては罪を軽くするからさ」

「こうたの事が好きなの?」

京香「そうね……ここまでバレてるんだから真実を全部話すわ」

京香「私は年下の男の子が大好きなの……」

それは、こうたへの接し方と私の接し方を見ていればなんとなく分かる。

同学年の男子とは普通に話はするが色恋の事なんて聞いたことない。恋人はおろか仲の良い男友達なんていうのも私は知らない。

京香「特に小学生の男の子がたまらないの」

ん?……

京香「男でありがながら未成熟であるがゆえの女性らしさの残る肢体」

京香「女と接するときの拒絶と好奇心からくる恥ずがる表情……」

京香「汚れを知らない純粋な瞳……」

京香「男でありながら可愛い……そんな、少年であるがゆえの純で無垢なあの可愛らしさ……」

ここまで聞いて私は一つの結論を考えた……もしかして、京香は変態なのかもしれないと……

親友ながらすべてにおいて品のある知性、言動(私以外に)、悔しいことに顔もモデルの様な目鼻立ちから私とは別次元の人間なんだと近くにいて感じていたが

違う意味で別次元だったようだ。

京香「変態じゃないわよっ!!純愛よっ!!可愛いものを愛する乙女の純粋な愛なの!!」

「純愛でパンツを盗むなっ!!」

京香「私だってそんなことするつもりはなかったわよ……」

京香「たまたまだったの……一ヶ月前……こうくんと遊びたいって思って声をかけようとしたら……どこにもいなくて……探してたら……」

京香「たまたまこうくんが脱衣所で着替えをしてる所を見てしまったの……こうくんは気づいてないみたいだったけど……」

京香「今までは妄想だけでなんとか頑張ってきたのに……いきなり目の前に本物が現れたら……」

京香「しかも、パンツ姿で!!妄想と同じ姿でこうくんが私の目に前に……」

京香「ああっ!!こうくんに欲情してしまうなんて……」

純愛とか言ってなかったっけ……

京香「いけない事だとは分かってたわ!!私とこうくんの関係は純潔で清らかなもの……プラトニックな愛……これが壊れてしまう……そんな事絶対に出来ない……」

私との関係は?友情は?

京香「でも、こうくんはそんな事がありながら私がいても無防備に無邪気に接してくる……私がいると分かっててもお風呂にも入る……パンツも脱ぐ……」

当然でしょ……

京香「これは、もう、こうくんと神様がパンツを盗めって言ってるんだって……」

「言うかっ!!」

京香「気づいたときには、どうすればバレずにパンツを盗むことが出来るかを四六時中考えてたわ……」

私が進路を必死に考えてたときあんたはパンツの事を考えてたのか……

京香の頬を一粒の涙が伝う

それは友情が壊れたから?それとも、こうたに対する後ろめたさから?おそらく後者だろう……

「はぁ……分かったよ……こうたには黙っててあげる」

京香「えっ……」

「ちょっと……いや、かなりドン引きだけどあんたが反省してるのは分かったから……それに」

それに私達の関係もこれで終わってしまうかもしれない……それは嫌だ。

もちろん、これは事件であり京香は犯人である。そして、私は探偵なのだ。

その、探偵が事件よりも友情を選ぶなんて事は探偵小説ではやってはならないことなのは分かっている。

でも、この後の解決方法がこれしか見つからない。

今のところ誰も傷ついていないのだ……この事件は私しか知らない。

こうたは知らないんだ。

それに、こうたは京香の事が好きだ。もちろん異性としてではなく姉の友人として。

友達として。

そんな、こうたに

「この女はあんたのパンツを盗んだ変態女だから二度と近づくな」

って言ったらこうたも傷つくだろうし、女性を信じられなくなるかもしれない。京香だってずっと罪悪感を背負いながら暗い人生を歩かなければならない。

そんなこと私は望まない。

バットエンドな結末なんて私は望まない。

「だから、黙ってる」

これが私の、この推理物語の解決方法なんだ。

「私はちょっと傷ついたけどね……まさか、10年も付き合ってる親友が親友の弟のパンツを盗むなんてさ」

京香「ゆるしてくれるの?」

京香は顔を上げて潤んだ目を私に向けた。

京香の泣いてる顔なんて初めてみたかも……しっとりとしている京香は女の私でもドキッとしてしまう……

「まぁ、使い古したパンツが新品のパンツになっただけだからね」

「性的な目的がなければこうたも母親も大助かりだし」

京香「……」

涙を人差し指で拭った京香は呼吸を落ち着かせてから、

京香「……昔から思ってたけどあなたってそういうところあるわよね」

「ん?」

京香「クールっていうか達観してる所、私に何を言われてもカッカしないで、常に動じない心を持ってる」

はじめてじゃないか京香が私を褒めるのって。ヤメろ、恥ずかしくなっちゃうから。

「空手やってたからかな。ほら、空手ってどんな相手、どんな時でも冷静にしてなきゃいけないからさ」

京香「冷静に、こんな事があってもこうくん、私の気持ちを考えてくれてる……」

京香「あなたのそういう所、好きよ……」

ヤメて

そんな事、言われたら私まで泣きそうになるだろ。

「でも、こうたのパンツは返してもらうよ。とりあえずこうたの名誉の為に」

京香「そうね……」

たぶん家にあるんだろうからなるべく早めにね。

京香「ちょっと待ってて」

ん?なんでスカートをたくし上げてるんだ。ストッキングまで脱ぎだして……

京香「昨日から洗ってないから少し汗臭いかもしれな――」

そこまで言った所で京香の腹に私は渾身の蹴りを繰り出してしまった。

あろう事か親友の京香に……

無意識に……

おそらく、その蹴りが3年生最後の予選大会で出ていたら私は一回戦敗退となってなかっただろう前蹴りを……

うぐっぅと一声あげると京香はその場で突っ伏した。

スカートはめくれ、ストッキングは半脱ぎ状態の。こうたのボクサーパンツを履いた京香が……

ここで、この探偵小説は幕を閉じる。

親友である変態の犯人はこの夏、一週間は消えないであろうくっきりと足の形で真っ赤になった腹と痛みを抱え、

盗まれたパンツは弟の汗と痴女の汗まみれになって帰ってきた。もちろん捨てた。

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