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探偵(志望)事件記~青春編~  作者: おくらまつもと
3/5

~第三話~私の最初の事件

次の日の昼休み、京香は教師との進路相談の為、教室を出て行くと入れ替わりに桜伽彩が入ってきた。

桜伽彩は私と京香と同じ中学出身で高校では別のクラスだがよく遊んでいる。

桜「ねぇ、京香ちゃんの事なんだけど」

「んー?」

桜「あの子って彼氏でも出来たのかな?」

私はあやうく口に含んだポカリを吐き出しそうになったのをグッとこらえた。

「な……何?その話」

桜「んーとね、その、見ちゃったんだ昨日の夜」

普段おとなしい性格で口数が少ない為、私と京香の聞き役となっていたのだがあや自身も興奮を抑えられないのか

しどろもどろに話をした。

桜曰く、なんでも昨日の夜、予備校の帰りに駅前の量販店で男性用の下着を見ていたらしい……

桜「私が見たときはきょーちゃん、男性下着を手にとって悩んでる所だったの……見ちゃいけないものを見ちゃったって思ったから声かけられなかったよ」

桜はガラス越しに京香を見たが店に入ることもなく、その場から逃げるように立ち去ったらしい。

桜に聞くと予備校の終わる時間が大体9時頃になるから京香が昨日帰った時間を考えると……なるほど、別人であるというよりは本人である方が可能性は高いな。

彼氏が出来たなど京香から聞いた事なかった……第一、ここ一ヶ月程ずっと、私とご飯食べたり勉強したりしてたが京香からは

そんな様子はない。というか男子の話題すら上がらないほどだった。

それに

「その話……ちょっと、引っかかるな」

私は髪をかきながら桜の話を推理していく。

桜「お父さんのを買っていったって事もあるだろうけど……どうなんだろう……やっぱり彼氏できたのかな?」

私の引っかかっている点はいくつかあった。

京香の家はお金持ちなのだ。当然、私とは金銭感覚が違い、服に使う金額も桁が一つ違う。

そんな京香が前にこんな事を言っていた。

京香「安い物ってのはね、すぐにダメになるし、分かる人には安物って分かるものよ」

「だからって下着に五千円出せないよ」

京香「そーいっていざって時に恥ずかしい思いをするのよ、あなたは」

そういった後、嘲笑しながら付け加えた

京香「まぁ、男が出来たら考えればいいわね」

まるで宝くじ当たったら後何に使うか考えてる友達に言ったような顔をしている。

私が恋愛する確率は宝くじ当選する確率と同じなのか。

京香「宝くじ当選の確率は0.000005%あなたもそのくらいの確率はもってるんじゃない?」

だから京香が量販店で服や下着を買うなんて事はありそうにないのだが……

「このことはまだ、きょーには聞かないようにしよう、私達に隠してる事で変に突っついたりするのもきょーに悪いしね」

桜「う……うん……」

それにしてもきょーが隠し事なんてね~彼氏が出来たってさらりと言いそうなんだけど。

でも、今の話には彼氏が出来たって可能性も考えられる。

京香は一人っ子だから兄弟はいないし、父親のパンツを普通、買いに行くとも思えない……

じぁ、なぜ、男性用の下着を買ったのか……

あやの言っていたとおり彼氏が出来た。

考えられない……考えられないが。

どうしても、彼氏が出来たという可能性を否定するものがない限り、京香に彼氏が出来たと推理しまう。

二人でひそひそと会話をしていると進路相談から5分足らずで京香が帰ってきた。

桜「きょっ!!きょ、きょーちゃん!!」

そんなツチノコを見たかのように驚かなくっても……

「早いね。私のときはチャイムが鳴るまでずっと徳田先生が頭を抱えてたんだけど……」

京香「志望大学も決まってるしね」

京香曰く、その大学も西園寺の成績なら合格間違いないらしいし、西園寺程優秀なら教師になるのも夢ではないとか嬉々として大学中に何をすれば良いのか等の

人生設計プランを語っていただいたらしい。

まぁ、教師から見れば同じ志を持つ人を応援したいみたいだ。

おい、私とはえらい違いだな。応援しろ、探偵として。私が立派な探偵になれるプランを考えてくれ。

京香「まぁ、長くなりそうだから早々に切り上げさせてもらったけどね」

京香「あ、そういえば、徳田先生があなたの事も言っていたわよ」

「探偵になるプランかな?」

京香「頼むから西園寺のような現実的で具体的な先生の納得する目標とプランを立てておいてくれ、マジで……だそうよ」

おいおい、教師でもお手上げって事かい?

京香「で、あやと二人でこそこそ何の話をしてたの?」

桜の心臓がドキンと脈打つのがこっちにも聞こえた。

おおよそハムスターの心臓よりも弱い小心者の桜は、しどろもどろになって、ひとりでおろおろと汗を垂らす。

桜は涙ぐんだ目で私に助け舟を出してきた。

「まぁ、なんでもないよ」

京香「ふ~ん」

そういうと、京香は自分のかばんからアップルティー(昨日ボロクソに貶していたものと同じ)をとりだしストローを刺した。


放課後。京香と二人で帰り道を歩く。

こうやって二人で並んで帰る日を重ねるのは小学生の時以来かな~なんて考えながら私は髪をかく。

中学に入ってからは部活の毎日だったし、部活がないテスト期間中、京香は図書室で勉強したり、私は私で部活仲間とつるんで

ここぞとばかりに遊びふけっていた。

それでも、腐れ縁は高校まで続いてた。クラスが違ったときでも昼食は一緒に食べてたりした。

そういえば、京香は小学校に上がる時、私達と一緒に公立の学校に進むか、お嬢様達が通う私立の女子小学校に通うかを親と話したらしい。

親は当然、私立の女子小学校に通わせたかったらしいが、迷わず公立の小学校を選んだそうだ。理由を尋ねると、

京香「当然でしょ。六年間、下手したら義務教育中ずっとお嬢様口調で過ごすなんて、ゾッとするわ」

京香「あなたみたいに素で話せる人がいないとね」

その時は小学生ながらにちょっぴりうれしかったりした。

彼氏が出来た所で私達二人の関係はあんまり変わんない気がするけど……京香が彼氏ね~

京香「なに?まだ進路の事で悩んでるの?」

「え?」

京香「あなた、何も考えていないときは口を半開きにしてバカ面してるけど」

してないよ。してません。してないよね?

京香「考え事をしてる時は口をへの字にして髪の毛をかくクセがあるのよね」

へ~それは知らなかった。

京香「あなた、隠し事とか向いてないわね。すぐ顔に出るから」

京香「ちょっと探偵には向いてなさそうね~」

京香「ほら、探偵小説って何かに気がついても、もったいぶって最後の方まで隠してるでしょ」

そう思ってるんだったらあんたに探偵小説は向いてないよ。

京香「そんなんじゃ、小説に出てくるお邪魔な刑事に手柄を持ってかれちゃうわね」

一呼吸置いて京香が珍しく真剣な顔をした。

京香「何考えてたの?」

京香なりに気遣ってくれてるらしい。

「いやぁ、別に大したことじゃないよ」

京香「まぁ、言いたくないこともあるわよね」

ふぅ……

なんか、ちょっと、こっちが気使ってるな~。そんな自分が少し嫌だった。

今日は母がこの時間からパートに出ているため私は持っていた鍵を使って家に入った。

京香と今日も受験勉強に励んでいると京香が壁時計をチラッと見た後、珍しくこんな事を言い出した。

京香「さて、今日は生き抜きがてら映画でも見ようかしら」

そう言って京香がカバンから一枚のDVDを取り出した。

「これって、私が見たかったコナン・ドイル原作の新作映画じゃん」

まだ、レンタルされてもない新作のDVDなので購入しなければ見ることが出来ないものだ。

春に上映されていたもので映画館で見ても良かったのだが高校最後の空手大会に向けて地獄の猛練習を行っていた私は上映最終日まで見る事がついに叶わなかった。

京香「いつも頑張っているあなたに私からのささやかなプレゼントよ」

「私にプレゼント……いったい何を企んでるんだ……お金なら2000円くらいしかないよ」

京香「何か企んでないとあんたにやさしくしちゃダメなの?」

京香「で、見るの?見ないの?見ないならさっさとその問題解いちゃいなさいよ」

「見ます、見ます。あー京香様はすばらしい親友です」

京香「最初からそういいなさいよ」

京香「私も初めて見るから楽しみ」

映画を見ているといつもどおりの時間に今度はこうたが帰ってきた。

「お姉ちゃんただいま」

京香「あら、こう君おじゃましてます」

京香「今、お姉ちゃん映画に夢中になってるから遊んであげられないみたい、ごめんなさいね」

こうた「え、いいよ、あ、きょーお姉ちゃん又宿題見て欲しいんだけど」

京香「うん、いいわよ、でも、先にお風呂に入っておかないと、また、お姉ちゃんに怒られるわよ」

こうたは今日、体育がなかったから私服だったが、この暑い中を20分かけて徒歩で帰宅している間にすっかり汗まみれになっていた。

こうた「うん、分かった」

京香「んーいつみても可愛いわね」

そんなやり取りがあった気がする。映画に集中したいからちょっと静かにしててほしい。

テレビの中では、探偵が徹底的な証拠である杯から毒のトリックを暴いたところが写っている。

その時、スッと京香が立ち上がった。

京香「これから良い所だからその前にトイレ」

京香が部屋から出て行くのと同時に映画では犯人と探偵がとうとう対峙した。

不敵な笑みを浮かべる犯人に対して次々と犯人が仕掛けたトリックを暴いていく探偵。


「いや~小説は見てたけど映画もいいもんだね~」

映画のエンディングが流れる頃にはこうたが帰って来てから30分程経っていたそうだ。

京香「小説見たんだったら結末分かってるじゃない?面白いの?」

「もちろん」

この作品を映画化したアドレー・リッキー監督はコナン・ドイルの大ファンである。

小説のいいところを活かしつつ、探偵や犯人の心理描写をうまく映像にしている。

主人公の探偵が今までに起きたことを一つずつ整理しながら推理していく所なんて

小説だったら全部文章だけだからあまり気にならないけど映像にしちゃうとずっとセリフセリフで聞いていなきゃいけない

でしょ?でもアドレー監督はうまく小道具を使いつつ、かっこよく映像で飽きさせない工夫をしていたり。

背景にもふんだんにCGを使いつつ、セットも椅子一つにしてもちゃんとベーカー街の町並みを再現しようとしている。

もちろん莫大なお金はかかるがこだわるのとこだわらないのでは重みが全然違ったりする。

冒頭の5分間で探偵と助手が歩きながら世間話とか今の政治情勢とかを話してる時にロンドンのベーカー街の町並みが

移るんだけどそれがものすごい緻密なの。

私は実際見たことないけど、小説を見たときに、ああ、こんな感じの街なんだって想像していたものと同じだったんだ。

これって凄いことだよ

しかも役者選びにも一切の妥協を許さない。登場人物にハマる人がいれば無名でも、

新人でもお構いなしに起用してしまう。

特に主人公の探偵がよく食べに行くお店の―

って聞いてるの京香?

京香「聞いてるわよ。監督がコナン・ドイルの大ファンなんでしょ?」

序盤の一文だけじゃんか。

京香は私の映画語りは早々に離脱し、こうたの宿題のプリントを眺めていた。

京香「うん、うん、昨日、分からなかった所がちゃんと出来てて応用まで正解ね」

京香「こう君、すごいすごい」

京香はこうたの勉強を見ていたらしい。

京香「ふぅ……映画も終わったことだし今日は早めに帰るわね」

「ん?そうなの?」

めずらしいな、ここんところずっと勉強会という名の精神的拷問は20時過ぎまで続くのだが、

今日はまだ18時にもなってない。

京香「……ちょっと用事があってね……」

京香「こう君もごめんなさいね、途中なのに」

こうた「んーん、僕、一人でもがんばってみるよ、きょーお姉ちゃんありがとう」

京香「そう?偉いわね」

そう言うと京香は立ち上がる。

「ふーん」

なんか触れてくれるなオーラを出してる……これって、噂の彼氏の事か?

京香が帰ったがこうたは私の部屋で残りの宿題を黙々と解いていく。

こいつも勉強が好きなのか?私が小学生の頃なんて宿題をやった記憶ないんだが……

こうた「そりゃ~勉強なんて嫌いだよ、ゲームしたいし」

こうた「でも、お姉ちゃんを見てると今のうちに勉強しておかないといけないのかな~なんて思ったり」

「そりゃ~どういう意味だ?こら」

こいつ、私を反面教師にしている。

とりあえずひとしきり頬をこねくり回しておいた。

この時間ではまだ母親はパートに出ているため、晩御飯にはありつけないし……

ましてや勉強なんてする気も起きないしな~

はぁ……とりあえず風呂でも入ってくるか……


私は脱衣所で衣服を脱いでいる時にふと昨日の夜の事を思い出した。

そうだね~、母親も私たち二人の学費と生活費を稼ぐためにパートに出ているんだから少しでも迷惑をかけないようにきちんと服とか

下着を言われたとおりに表にしておかなきゃね~

そういえば、こうたはちゃんとやってるかな?

こうたの服が入っているであろう洗濯機を覗いた。

すると、洗濯機の中に入っているものの中に大きな違和感を感じた。

ん?新品のボクサーパンツ?

私は髪をかきだした。


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