表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵(志望)事件記~青春編~  作者: おくらまつもと
1/5

~第一話~私の進路は探偵志望

私は推理小説に出てくる探偵に憧れていた。

事件が起これば颯爽と登場し邪魔な刑事を差し置いて悪行を働いた犯人の裏の裏を読んで事件をスパッと解決。

事件が起こらないときは解決した事件を小説として書き記す。

誰にも、何ものにも縛られない悠々自適な日々を過ごせたらいいな~っと悩み考えながら学習机のイスに背を預けて昼食のメロンパンを

はむはむと食べていた。

梅雨も明けてそろそろ私達は高校生活最後の夏休みを迎えようとしている。

夏休みという単語は老若男女だれもが浮かれる言葉だと思うのは間違えもはなはだしい。

現に私の心はいつ雨が降ってもおかしくないような雲模様が続いており太陽が一向に顔をださない。

ようするにメランコリックなのである。

原因ははっきりと分かっているのだ。

昨日、お昼休みに行われた教師との進路に関する面談で

先ほど述べたことを教師の徳田先生に話したらこめかみをカリカリ掻きながらため息交じりにつぶやく。

徳田先生「とりあえず大学に進学ということにしておきなさい」

私は雲ひとつない空を見ながらケロリとした顔で言った。

「そんなとりあえずなんかで進路を決めたくないなぁ」

徳田先生はこめかみをひくひくさせながら目の前の進路調査用プリントにペンでガリガリと私との面談内容を書き記す。

徳田先生、そんなに筆圧に力をこめるとペン折れちゃうよ。

まぁ、高校生活三年目の7月だというのにまだ、進路を決められない私へのイライラは分かるけどさ。

「もっとクールに行きましょう」

ガリッとした音とともにプラスチック製のペンにひびが入った。

結局再面談をするという形でこの場は幕を閉じたが徳田先生は終始唇を噛み締めていたと思う。

せっかくの昼食時だというのにこんな気持ちで食べているのだからメロンパンのサクサク感を楽しむこともできない。

「ねぇ、きょーあんた進路どうすんの?」

私は対面にいるアップルティーの蜜をストローでちゅうちゅう吸っている幼馴染に問うてみた。

京香「んー、進学するって前言ったでしょ」

「それで?その先は?」

京香「教師になるの、そして小学校の先生になるわ」

「マジか、大学進学という進路目標だけでなくそんな具体的な夢を持ってるんだ」

京香「昔からね」

なんだ、この幼馴染は。

いつも、ふたりで花の女子高生活にあぐらをかきながらのんべんだらりとした日々を過ごしてきたと思っていたがこんな

野望を持ち合わせていたとは思いもしなかった。

幼馴染は新発売のアップルティーのパッケージが気になっているようだ。

京香「あなた、まだ決まってないの?」

私に一瞥も顔を向けずに私の憂鬱な心に土足で踏み込みこんな質問をしてきやがった。

「一応、探偵的なものにはなりたいかなー」

京香「へぇー」

この幼馴染は私の進路よりアップルティーの成分表の方が遥かに興味があるらしい。

京香「ねぇ、これって単にパッケージのデザインが変わっただけじゃないかしら、まったく消費者をバカにしてるわね」

京香は朝、学校に来る前にコンビニで新発売店長おすすめとポップに書かれたアップルティー(他のより少し高い)を手に持ちながらボヤいた。

お昼に試飲するため、温くならないように自前のペットボトルホルダーに紙パックのアップルティーを入れて、さらにご丁寧に保冷剤を敷き詰めて大事に保管していたみたいだ。

お昼の為にそこまで大切にしていたにもかかわらずアップルティーの味は京香の舌を満足させるには至らなかったらしい。

……外見が変われば中身も一味違った印象になるんじゃない?

「カキ氷のシロップなんかは色が違うだけで味は全部一緒らしいけどやっぱり少し違った味がしない?」

京香「そのカキ氷ってあなたと去年の夏にお祭りで食べたあれのことかしら?いちご味を頼んだのに全然いちごの味がしないし」

京香「赤い絵の具をぶっかけただけの雪を出されたのかと思ったわ」

去年の夏に京香と一緒に近所の神社に行った。その日も最高気温が30℃を超える真夏日でその時に私がカキ氷を買うと、それに京香が興味を示した。

聞いたらカキ氷なるものを食べたことがないという事で一緒に食べることにしたのだが一口食べた瞬間に京香の眉間にしわが寄ったのを覚えている。

京香「二度とあんな得体の知れないものを私に食べさせないでよね」

私がいままでおいしいっていいながら食べてたのってあんたからしてみれば黄色い絵の具の乗った雪ってことか……

それでも文句を言いながら完食してたくせに。

この、きょーと呼ばれる幼馴染は西園寺京香といい、私とは保育園からの仲なのだ。

黒髪を背中まで垂らし、目鼻立ちも凛としている。

私とは対称的に普段は物静かでなにがあっても涼しい顔をしてる。

又、父親はどっかの社長で私の家が物置かと感じるほどの大きな住まいを持っているため、

周りからはクールなお嬢様という印象をもたれているがそんなことはない。

二人っきりのときはこうやって中身のない話をし、口も悪くなる。

京香「とりあえず、あなた、このままいったら大学に行く可能性が高いんだから今日もあなたの家で勉強会するわよ」

「えー」

京香「えーって私が親切心で言ってるのになんで嫌がってるのよ、部活も終わったんだから少しでもいい大学にいく為に勉強するのよ」

「……だってー」

あんたに見てもらうと一問ごとになんでこんな簡単なものができないのかしら……とか、あなたホントに高校生なの?……とかの罵倒の落雷が振ってくる。

京香「こんなに美人でやさしくて親切な美人家庭教師なんて他にいないわよ。それに無料なんだからね」

こいつ今、自分のことを美人っていいやがったな、しかも二回も……

「むー」

まぁ、一人で勉強したとしても二問目あたりで挫折して小説の続きを読むのは目に見えているし、その後に今度は母親の小言を言われるよりはマシかなぁと考えながら

渋々了承し、この昼食会は幕を閉じた。

夕方、放課後を告げるチャイムが鳴ると生徒達は一斉に帰宅の準備を始める。

家までは学校を出て電車で3駅乗り自宅の最寄駅に付くとそこから10分程歩いたところにある。

きょー「あなたねぇ、いくら部活があったからって勉強をおろそかにしすぎよ」

まぁ、部活に入っていなくても私は勉強をしなかったであろう。

私は子供の時から地元の市民体育館で空手をやっていたこともあり、

なし崩し的に入った空手を惰性でこの年まで行っていた。

その部活動も学校生活終盤に入ると終わりを向かえ、いよいよ生徒達は社会に向けて、それぞれの進路を目指していく。

進学か就職、それ以外にも、夢を追いかける為にフリーターになる者や専門学校に進む者もいる。

又、大学に進学する者にもこの残りの学校生活をどのように過ごすかは個々によって様々である。

少しでも上の大学に行く為に勉強する者や推薦で大学に進むので残りの学校生活をバイトに費やす者。今の学力で

大学に進むため程々に勉強しながら残りの高校生活を楽しむ者。

私なんかは京香がいなければ残りの高校生活ものんべんだらりと過ごそうと思っていたのだが京香がそれを許さなかった。

そんなわけで私の進路上に職業、探偵というマスが出ない限りは京香大先生の罵詈雑言を浴びながらの受験勉強をし続けなければいけなくなった。


そんな日常がここ一ヶ月程続いている。

……のだがそんなある日、私に小さな事件が舞い降りてきた。

それは晴天の霹靂というにはいささか壮大すぎるが私が探偵として解決した立派な事件である。

私はそう思いたい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ