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「貴様はここがどういう場所か知っているのか?」


 若い紳士風の男が一人、椅子に腰掛けこちらの様子を伺いながら問いかけてきている。


「ここは何処ですか?あなたは誰ですか?」


 つい口にしてしまったが、率直にここがどこかなんてこっちが聞きたいくらいだった。


「質問に質問を返すのは感心しないな。それに、他人に名を尋ねる時は自分から名乗るものだろう。」


 先ずは状況を整理しよう。


「雷雨から逃れるためにここへ入ってきて、近くにあったソファで寝た所までは覚えていて、それから起きたらここに居た。」


 ここで起きたことはそれで全部だった。ついでに声に出してしまった。


「全く、勝手に入ってきた割には悪びれる様子も無くよく喋るな。」

「つい口にしてしまっただけです。」

「・・・・・まぁいい。私はマリウス。この館の主。そしてお前は何者だ。」

「私はアクサナ。」

「お前はどうやら違うらしいな・・・。人形。」


 また無意識で喋っていたのかしら。と、今度こそ心の中で呟く。しかし、思い当たる節があるわけでもない。考えてもわからない事を考えても仕方ない。ここは素直に尋ねよう。


「そんな事が分かるのですか?」

「お前には反応がなかったからな。」

「反応?」

「この館に近づく人間があれば、直ぐに察知できる。そういう魔法だ。お前にはそれが効かなかった。それに、普通の人間ならこの館を見ただけで気味悪がって決して侵入しようなどとは思わないものだ。お前には恐怖心というものがないのか?」


 恐怖心。それはつまり危険を事前に察知して回避する能力。今回、落雷から逃れるように行動したのは恐らくそういうことなのだろう。そう考えれば―――


「多分、あります。」

「・・・そうか、面白い。」


 一体何が面白かったのか分からなかった。と言うより面白いってなんだろう。


「お前は何をしにこんな雨の中を歩いていたのだ。アクサナよ。」

「私には使命があります―――生まれてこの方ここに来るまでの間の出来事を簡単に説明する。これで何度目だろうか。最早もう慣れたものだ。―――という訳です。」

 

「女王、か。私もその様な噂話を耳にしたが、その話が本当なら・・・しかし、この場合どうすればいいのか・・・・・・」


 なにやら考え込むマリウス。話が全く読めない。特に興味は無いが聞いてみようか。


「何かあるのですか?」

「こっちの話だ。いや、一つ尋ねたいんだが・・・・・」

「なんでしょう。」


 少しの沈黙の間、彼が口を開くのを待つ。


「お前はこの館で死ぬまで過ごすつもりはあるか?」


 意味がわからない。そもそも自分が死ぬというイメージすら湧かない。


「雨が止んだら出発するつもりです。」

「そうか、そうだろうな。・・・今度こそ、これで幕切れか。」


 彼はおもむろに掛けていた椅子から立ち上がり、窓の外を眺め始める。今も絶え間なく地面を叩きつける激しい雨音と雷音は部屋の中にも鳴り響く。この様子では当分止みそうにないだろう。

 朧気な蝋燭の光に浮かび上がる彼の蒼白い横顔と、時折稲光に照らし出されるその後姿のシルエットは、どことなく悲しげに映る。


「これは呪いか、或いは罰か。いや、きっと罪なのだろう。」


 彼は独り言のように呟く。当然ながらその本意は不明だった。


「ここがどういう場所かを知らなかったという事は、私の事を周辺の住民がどう思っているかという事も知らないという事だろう。」


 他人の評価など知った事ではないが。と吐き捨てるように呟きながら振り向いてくるマリウス。と、今度は私に向かって話しかけてくる。


「ここを吸血鬼の館と呼ぶ者がいる。そういう話は聞かなかったのだろう。」


 吸血鬼。血を吸う鬼。私自身が人間ではないように、彼もまたそうではないとでも言うのだろうか。度々起こる外からの強い光と大きな音。雷雨は収まるどころか強さを増したように思えた。


「あなたが吸血鬼だとしても、私をどうにかしようなんて考えない方がいいですよ。血も涙もない機械人形ですよ。」


 この言葉に偽りはない。しかし受け取った方はその言葉を別の意味として理解したようで、何がおかしかったのか、笑っている。


「はっはっは。馬鹿げているが、然し気に入った。まだ諦めるのは早いのかもしれんな。今日はおかしな日だ。おかしな日ついでに君もこの部屋で、もうしばらく休みたまえ。確か、雨が止むまでだったな。それとも、機械人形に休息は必要なかったか。」


 彼はそのまま部屋を出て行ってしまった。きっと私が眠っている間にこの部屋へ連れてきたのは彼のはずだ。彼は私が眠るという事を知っていて言ったんだろう。

 そんな皮肉に若干の不快感を覚えたものの、どうせする事もないし、気持ちを切り替えるためにも朝までもう一眠りしよう。



 朝になってからも昨日から続く激しい雨は朝が訪れても弱まる気配がまるでなかった。窓から見える景色は陰鬱で、時折吹く強風は激しく窓ガラスを揺さぶった。


「暫く足止めを食らう事を覚悟しなきゃならないかしら。」


 しかしそうなると本格的にやる事がない。ただ、座ってじっとしていてもいいのだが。そう思いつつも部屋の中を探索してみる。一見古そうな感じのする家具が数点置いてある。箪笥やベッド、クローゼットに書棚と机。よく見ると最近まで使われていたようにも見える。それとも毎日の掃除がきちんと行き届いているのだろうか。

 目に付いたクローゼットを開けてみると、女物の衣服が数点吊るされている。特に古めかしいような感じはしない。むしろ、まるで昨日まで誰かが使っていたような、そんな気さえする。

 書棚にある本を調べてみる。これらはどれも軽い読み物のようで、詳しく読むほどの時間はないが、念のため、少し中を確認すると、恋愛をテーマにしたものが多く置いてあるようだ。

 その隣にあるのは小さめの机と椅子。その机上には日記帳が置いてある。これもぱらぱらとめくってみると、やはりこの部屋の主は女性のようだ。内容に特に興味があるわけではないが、この館での生活についても何か書いてあるかもしれない。


「最初のページは・・・どうやらここへ来てからつけ始めた日記のようね。」


 上から順に目を通す。


「1355年の4月5日・・・丁度10年前くらいかしら。」


 今日の日付を確認する。これを書き始めた頃も、季節的には今と同じくらいだったようだ。内容は、ここに住まう事となった経緯等が書いてある程度だった。


「他愛のない中身。やっぱり他人の日記なんて読んでも仕方ないわ。でも念のために最後につけたページを見てみましょうか。」


 1365年4月1日?これは――


「これは昨日の日付・・・?」


 突然の大きな鐘の音。

 音が鳴る方へ振り向く。古い時計が鳴っている。時刻は午前6時。ただただ不穏な空気が漂う。何かがおかしい。そんな不安感がよぎる。

 仮に、もし誰かが今、現時点で過ごすであろう部屋があるのなら、その部屋に別の誰かを連れてきて泊めたりはしない。それにこの屋敷にベッドがある部屋がここにしかないなんて到底思えない。

 この館で一体何が起きているのか。昨日まで誰かが居たであろうこの部屋がとてつもなく不気味に思える。この部屋の主は今は一体何処に居るのだろう。重要な手掛かりはやはりこの日記だろうか。

 再び日記に目を落とす。



『1365年4月1日

 今日はとても天気がいい。あの日から数えてちょうど10年の記念すべき日にふさわしい天気だわ。あの方は今日の事をすごく心配していたけれど、私はとってもしあわせな気分。きっとあの日ここに来ていなければ、こんな風に生きていなかった。すべての事に、すべての人に、感謝を。』



 文面だけでは何かが起きたというような事は読み取れなかった。天気がいいということは、午前中にこれを書いたのだろう。忘れかけていたが、昨日は午後から急に天候が悪化したのだ。

 ちょうど10年という事は、ここへ来てからの数日間は日記を書いていなかったという事なのだろうか。

 そして“あの方”が心配していたという事。“あの方”とは恐らくマリウスの事だろう。心配していたというのはどういうことなのだろうか。今、この人物がここに居ないと言う事と、何か関係があるのだろうか。

 昨日彼が言っていた言葉をもう一度考えてみる。


 ―お前はこの館で死ぬまで過ごすつもりはあるか?―


 死ぬまで?死ぬ?まさか、これは考えが飛躍しすぎなのだろうか。どうして彼はこんな事を聞いてきたのだろう。いや、もしかして


「もしかしてこの部屋の主は昨日――」


 扉の開く音。


「何だ、起きていたのか。ノックしても反応が無いから寝ているのかと思ったが。それとも機械人形は立ったまま寝るのか?」


 考え込んで聞こえなかったのだろうか。時計の針はまもなく午前7時へと迫っていた。



 導かれるままにマリウスの後について行く。通されたのは広い食堂。大きなテーブルの上には朝食ののった皿が並べられている。椅子に座るように促され、席に着く。彼は向かい側に着席する。当然ながら機械人形に食事は必要ない。真っ直ぐマリウスを凝視する。


「なんだ?機械人形には食事は必要ないのか?」

「そうです。」


 即座に答える。


「それはいい。食費を気にしなくて済む。」

「そういうあなたは食べないんですか?」


 マリウスの座っている席に朝食は置かれていない。ただ、グラスに入った水があるだけだ。


「私は俗にいう“吸血鬼”の館の主だぞ?卵やベーコンを食べると思ったのか?」


 ちらりと目の前の皿に目をやると、いり卵にベーコンステーキとパンが数個盛り付けられている。

 一瞬、さっきまで考えていた事が頭をよぎる。顔も名前も知らない女性の行方など、どうでもいい事ではあるが、謎な部分が多すぎる。ここは一か八か直接聞いてみようか。しかし言葉選びを慎重に行うべきか。


「この屋敷には一人で住んでいるのですか?」

「私が人の子であるとしたら、一人だ。今はな。」


 人の子?彼は物事をややこしくする物言いをするのが好きなようだ。それと、“今は”という事はやはり誰かが居たということではないか。なんだか色々試されているような気分になる。質問を変えてみよう。


「では、あなたは何を食べるのですか?生きていれば何かを食べなければいけないんでしょう?」

「そうだな、生きていれば何かを食さねばならないだろう。だが、ここでそれを済ませなければならない理由はないだろう。」


 はぐらかされてしまった。とは言え、彼が普段何を食べているかなんて特に知りたくも無い事だった。となると、次の一手を考えなければならない。

 次に聞くべきは――


「あの部屋は誰か別の方の部屋だったのではないですか?」

「この館が建てられてから、もうかなりの時が経つ。お前が最初にあの部屋で過ごしたなんてこともあるまい。」


 そういうことを言ってるのではない。これは私の言い方が悪いのだろうか。と少しだけ自信をなくす。


「いえ、そうではなくて、昨日まで誰かがいたのではないですか?」

「ほう、そこまで感づいていたか。人形と思って侮っていた事は、詫びなければならないな。」


 一呼吸置いた後、彼はまた口を開く。


「昨夜の話の続きだ。お前はこの館で死ぬまで過ごすつもりはあるか?」


 私がそうであるように、彼もまた真っ直ぐ私を見つめている。

 もし、雷が収まっていれば、すぐにでも走り去りたかったが、この部屋からは外の様子がまるでわからない。飛び出して雷に打たれでもしたらそれこそ一巻の終わりである。

 いや、待て、逆にこの質問に受けて立とう。彼の言葉の真意は不明だが、この状況を打破するためにはそれ以外の道は無い。そうと決まれば腹を括ってあの吸血鬼に正面から立ち向かおうではないか。


「あなたが私が死ぬまで何をするのかは知りませんが、仮に私がここに住まうとして、あなたは私よりも永く生きていられますか?もし、あなたが私よりも先に亡くなった場合はその時点で私はここを去りますよ。」


 そもそも、私は吸血鬼の寿命を知らない。自分自身の寿命すら知らないのだ。少なくとも、私の妹機であるラピエルが100年以上稼動しているという実績はあるので、なんとかその程度であれば生きていられるだろう。とはいえ、それを待っている時間は無い。機を見て実力行使なりなんなりで脱出するしか方法は無いだろう。


「自分があと何年生きていられるか等、その様な事がもし知れたとすれば、それほど楽な事はないだろう。しかし・・・」


 言葉を切るマリウス。少し考え込むようなそぶりを見せて続ける。


「いつでも死ぬ準備は出来ている。とでも言うべきかな。お前がこの申し出を断ったら、それがその時だ。という事もはっきりと伝えておこう。」

「あなたの生死を、私が握っていると言うのですか?」

「言い換えるなら、その通りだ。」


 馬鹿げている。私がどうしようが彼には関係ない。昨日、日付的には今日見知ったばかりだというのに。ん?彼にとっては昨日なのか?とはいえ理由を訊いても恐らく言わないだろう。私の質問に答えることは恐らくない。しかし、訊かない訳にもいかない。


「理由を教えてください。どうして私の選択であなたが死ぬ事になるのですか?」

「もう答えを求めるのか?いいだろう、と言いたい所だが、幸いまだ雨は降っている。理由を言うのは天候が回復してからでもいいだろう。それにお前も自分自身でその謎を解いた方が面白いだろう?」


 別に謎を解く事に快感を覚える事はない。と、つい言いそうになったが、彼の提案を呑む事にした。天候が回復するまでの間、特にやる事もないのなら、その事について考えてみようか、と。


「分かりました。それでは、私にこの謎を解くヒントを集める事を許可してください。つまり、この館を自由に調べる許可をください。」

「・・・・・いいだろう。」



 館の中の探索を始める。この館は予想していたよりも大きく、部屋も多いようだ。

 天井の高い廊下は長く薄暗いせいか、その果てがまるで見えない。所々に小さめのシャンデリアがぶら下がっていて、今にも暗闇に吸い込まれていきそうな、か弱く頼りない光を放っている。

 歩けば自分の足音や床の軋む音が不気味にこだまする。耳を澄ましてみてもその様な音が聞こえるばかりで、外で激しく降っているであろう雨音は、ほとんど聞き取れない。

 不気味な廊下に点在する扉。その多くは鍵がかけられているようで開けることはできなかった。首尾よく鍵の掛かっていない扉を見つけたとしても、中は何もない部屋か、或いは倉庫のような部屋ばかりだった。


 探索も行き詰まってきた頃、回廊のような場所に迷い込んだ。

 その壁一面に飾ってあったのは10枚の絵画。それぞれ別の女性を描いたものの様だ。一番近くにあったものをよく見てみる。


「下の方に数字が刻まれてる。どこかで見たような数字・・・・1265・・・1265年?」


 1265年と言えば、世界を揺るがした例の大惨事が起こった年。そして今のこの国が建てられた年。そんな激動の年に描かれた絵画。しかしその意味を考えるのは次の絵画を見てからでも遅くはないだろう。


「1275・・・さっきの絵から丁度10年後に描かれたのかしら。」


 その後も順に確認していくと、1265年以降10年毎、1355年までの間に規則的に描かれた物らしいという事が推察できる。


「この数字が描かれた年を意味しているとすればだけれど。」


 問題はここからだ。それでは一体彼女達に何が起きたと言うのか。一番新しい、10年前に描かれたであろう彼女の着ている服は確かに見覚えがある。あの部屋のクローゼットに納められている物に他ならない。


「ここで手に入る情報はこれだけかしら。」


 1265年を起点にしておよそ100年の間に、ここに居たであろう10人の女性。あの吸血鬼は10年毎に新しい女性を見つけてここへ連れてきて・・・・。

 順当に考えれば、吸血鬼というものは血を吸うのだろう。そして彼女らはそのために此処へ連れてこられたと考えるのが妥当だろう。今朝、彼の食事が食卓に載っていなかった。そこで済ませなければならない理由は無い。と言っていたのは、そういう事だったというのか?仮に食卓の上に女性がのっていたとしたら、それはそれで気分のいいものではないが・・・・・。

 とはいえ、あの日記の内容を顧みても無理矢理ここへ連れて来たという印象は受けなかった。その様な印象操作を行っていたのだろうか。そう考えれば昨日までいたであろう女性が何処へ行ったのかという答も導き出せるのではなかろうか。


「これ以上は直接話を聞くしかないかしら。」


 それにしても考えれば考えるほど気味が悪い。私も機械人形だが、一応女性の姿をしている。その理由は不明だが、この絵画の並びに自分が加わる可能性も、彼への返答しだいではありうる事なのだろうか。


「私の体には血が流れていません・・・・」


 それとも「きっと食べてもおいしくないですよ。」とでも言った方がいいのだろうか・・・。心の声が漏れているのも気にしなかった。


「それがお前の答か?」


 背後から声がして振り返る。


「いつからそこに居たんですか!?」

「いつからだっていいだろう?それとも本当にその質問に答えてほしいのか?」


 一応文法としては質問の形になってはいるが、このような場合、いつから居たのかを答えられても、こっちが困ってしまう。どう反応すればいいのかよくわからない。


「そんなことはどうでもよくて・・・・私に何か用ですか?なんで私がここにいると分かったんですか?」

「一つづつ答えてやろう。用があるのは君のほうだろうから、わざわざ来てやっただけだ。そして君がここに居るのが分かった理由は―――」


 彼は手のひらを開いて見せる。そこに淡い光が集まってくる。


「魔法だ。この館に近づいてくる人間がいれば分かると言っただろう。その応用だ。君は普通の人間とは少し違う。・・・・周波数が違う、みたいなものだ。調整すればこの通り、手に取るように分かる。」


 完全に彼のペースに呑まれている。このまま私の血まで飲み干すつもりなのだろうか。血など通っていないが。


「あなたはもしかして、女性を攫って来ては血を吸っているのですか?」


 単刀直入に聞く。


「物騒な話だが、そういう風に思っている人間も居るだろう。」

「違うと言うのですか?」

「事実は少し違うが、結果として私のせいで彼女らが命を落としたという事は変わりはしない。」

「・・・・そうですか。」

「・・・・・君は、運命を信じるか?」


 運命?一体何の話をしているのかわからない。しかし、私の返事を待つつもりがなかったのか、すぐに彼は続ける。


「私は・・・信じていなかった。それは自分の行動次第で未来なんて変わるものだ、と。将来どうなるかなんてわかってたまるか。それが人知を超えた存在であろうとも、と。」


 そんな話をされても自分には関係ないし、そんな事を考えた事もなかった。


「運命を信じる者に問えば、何をどうするかもすべて神の導きだそうだ。また、そうでないものに問えば、可能性を潰して生きていく必要はない。と説く。・・・・しかし最近私はこう思うのだよ。運命を信じようが信じまいが、それは自分自身を信じるということなのではないか。と。」

「何が言いたいのですか?」

「私はもう一度自分を信じてみようと思う。願わくば、あなたの旅路に御供させてはくれまいか。」


 こんな変人を連れて歩くのはそれこそ危険なのではないかと頭をよぎる。言うなれば人を食う人だ。とはいえ、私はヒトではない。動物でもない。食われる心配はないだろう。それに彼には力がある。その力を貸してくれるというのなら、悪い話ではない。そもそも私は協力者を探さなければならない身なのだ。しかし―――


「あまりに急ですね。どうしてですか?」

「・・・・呪いだ。いや、或いは償いか。」

「なんですか?それ・・・・・。まぁ・・・いいでしょう。私も協力者を探していましたので。」

「ありがとう。」

「しかし、生きて帰れるとも限りません。その辺りはよく覚えておいて下さい。」

「わかっているさ。」



 雨は降り続いていた。まだ時刻は昼の12時を回ったばかりだったが、部屋に戻り今日はもう休もうかと思っていたところで、マリウスが扉を叩いた。


「少し用事を済ませるつもりだが、見てみるか?」

「なんでしょうか。」


 彼はそのまま私の返答を待つことも無く歩いていく。とりあえずそれに付いて行く。広い屋敷の敷地の一角にある一番背の高い塔へ入り、長い螺旋階段を上り切ると屋上にたどり着いた。彼はためらいも無く外に躍り出ると、両手を天に向ける。たちまち雨は止んで雲の切れ目から太陽が顔を覗かせた。


「一体何をしたんですか?」

「弔いだ。」


 私はそれ以上訊くことを諦めた。彼は終始よくわからないままで、私の質問には全く答えてくれない。それに彼の言葉を理解するのは難しい。それは私が人形だからなのだろうか?いつかわかる日が来るのだろうか?


 私は新しい協力者と共に、雨上がりの屋敷を後にした。振り返ると、晴天に輝く雫と共に大きな虹が屋敷をやさしく包み込むように架かっていた。

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