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 レールウェイ。それは大陸の反対側にまで通ずる一本の道。彼女らはその道を瞳に映し立っていた。その鉄の道の上に堂々と横たわる車両は大陸に物流の新時代をもたらす事が約束されている。今居るこの施設はそれらの車両に乗り降りするための場所で、その人気を表すように周りには沢山の乗客達が行き交っている。


 係員に導かれ、その入り口へと足を踏み入れた。内装は豪華絢爛というわけでもないが、高級感のある空間となっていた。所々を芸術的な彫刻で飾り付けられ、腕のいい職人が携わった事が窺える。まるで高級なホテルのような車内は、成程人気があるのも頷ける。そんな印象だ。


「間もなく発車致します。それまで暫く御寛ぎ下さい。」


 案内されたのは最後尾の車両だ。ここは特別な部屋でスイートルームと呼ばれているらしい。大きな部屋といくつかの個室に分かれていて、それらの部屋を全て合わせたものがこの列車の一番高価な部屋だった。


「しかしまぁ、こんな大層な部屋を用意して下さるとはなんとも有り難い事だ。」

「シャワーも付いてるじゃないですか!いい所です!」

「それにしてもこんな部屋使わせてもらってもいいのかな・・・。」

「ここへ案内されたのだからいいのだろう。勿論、辞退しても良かったのだがな。」

「せ、せっかくだし、広い部屋の方がいいよ!来る途中に見た小部屋は殆どベッドに占拠されてたし。」

「何にしても一週間ほどの長旅になるからな。尤も、我々の旅から言えば、その一部に過ぎない話だが。」



 そう。私たちの旅はまだ終わらない。まだ目的を果たしていない。そして、少しずつではあったものの、前に進んでいるという実感がある。森の中の研究所で目覚めた時には、こんな風になるなんて思ってもいなかった。あれから色々あって共に旅をする友人も増え、今度はもっと遠くへ行こうとしているのだ。今までも感じてはいたが、こんなに高揚感を抱いた事は無かった様に思う。

 出発するまでもう少し時間があるようだ。椅子に腰掛け、窓の外を眺めると、プラットホームを歩く人々が見える。彼らは何処かへ行くのだろうか。それとも何処かから此処へ来たのだろうか。彼らの素性も、考えも、私は知らない。知り得る事など出来ない。だから想像する。外見から、行動から、彼らが何をして何をするのかを・・・。別にそれがどうにかなるというものでもない。単純に自分じゃない存在について考えているに過ぎない。自分の事もわからないのに他人の事がわかる訳がない?そう。でも、他人の事を想像して受け入れる事で、自分の事も少しは判るんじゃないか。なんて・・・今思っただけの話。

 私は機械の体と、人工知能を持っている存在だというのはわかっている。でも、それ以上に一人の人間として生きている。体や知能が作り物だったとしても、それがそれで自分なのだと思うようになってきた。それ以上のことはわからないけど、今はそれでいいと思っている。

 列車が動き出した。ゆっくりと、少しずつ速度を上げていく列車と、それと同じ速度で流れていく景色。どちらが本物なのだろうか?外には笑って手を振り見送る人。今にも涙が零れそうな人。駆けて別れを惜しむ人。様々な人々が見えた。彼らと私は違う。根本から。でも、恐らく私が彼らの立場だったとしたら、彼らのように泣き笑いするのだろう。いや、する事ができるのだろうか?流れていく景色と共に、彼らも流されていく。他人事ながら、これが別離なんだと感じた。

 この後の事はまだはっきりと決まっているわけではない。きっと手元にもう二つあるビーコンを前回よろしく高い場所に設置するのだろう。その程度の事を考えながら流れる景色を眺めている。徐々に速度を増していく車体は、歩きや馬車なんかとは比べ物にならないほどのスピードになってきている。それと、足元からガタガタと伝わる振動も、きっとその速度を物語る上で欠かせない要素なのだろう。椅子が高性能だからなのだろうか、足の裏からしかその振動を感じる事が出来なかったが、その感触は新鮮なものだった。

 今はもうやる事もないし、そろそろシャワーでも浴びようかしら。



 あの場所で何が起きていたのか。それをもう少し考えてみようと思う。あの後、続々と現れた例の刑事の部下達は一斉に奴らを包囲し、瞬く間に彼らを無力化し、また、一人残らず逮捕した。統率の取れた集団はもとより、その指揮を執った彼の刑事の手腕も感服の一言に尽きる。

 しかし問題はその後だった。奴らはあの像の前に祭壇を築き、あろうことかそこで儀式と称しておぞましい行為を働いていた。その場所で多くの人間が殺害されていたのは確かな事実だ。しかしそれは単に殺人と一括りにすることは出来ない類のものだった。それは禍々しく悪質で陰湿で冒涜的な行為。信じがたいことに奴らはそこで殺した人間を・・・。いや、これ以上はもういいだろう。兎に角、そいつらのやった事は許される行為ではない。単純に腹が減っていたわけではないだろう。奴らはそれを楽しんでいたようにも見えた。こんな悪趣味なことはないし、そのせいで何年も前から何人も何十人も犠牲になっているなんて考えただけでも虫唾が走る。まぁ、あまり他人の事を言えた義理じゃないが。

 奴らの処分については、法が裁いてくれるのだろう。ついでにあの事務所に居た太い野郎もその中に居た。思った通りあいつが主犯格だった事が翌日の聴取で判明した。しかし、あの竜人の言葉で書かれたメモについては一切口を割らなかったらしい。この一件にはまだ謎が残っているとも言えた。それらの謎も今後の捜査で明るみに出る事を祈るとしよう。

 一方で、不完全ながらも主犯と実行犯とその現場を押さえる事に成功したという功績は高く評価された。我々が直面していた懐の寂しさを伴う問題もその褒賞金で賑わった上に、この列車のチケットまで貰えたというのは、我ながら予想以上の働きと閃きだったと拍手を送りたい気分だ。その働きぶりに、あの刑事が私と共に働きたいから街に留まってくれ等と言ってきた。無理も無い。あのような捜査をすれば、泥棒だろうが殺人だろうがどんな犯罪行為も看破出来る。とは言え、それを引き受ける義理も時間も無いからな。純粋に少しだけ悪い事をした気分だったのは確かだ。

 あの魔法を編み出したのはもう当分昔の話だが、今でも使っているという事はやはり便利な魔法なのだろう。過去にはあの魔法で色々な難事件を解決した事があったな。最初にあの魔法を使った事件の事はよく憶えている。それはまだこんな体になる前の話だ。あの頃の私は断固として悪を許さないという情熱に燃えていた。今でこそ犯罪の多い街になってしまったが、その当時はそこまででも無かったのだ。そう、自分が生まれ育った街から犯罪をなくす事ができると本気で思っていた。全くお笑い噺だがな。

 あれは、一言で言うなら盗難事件だった。その店の主は莫大な資産を抱えていた。そいつは商売とは別に金貸しもをしていて、その資産から顧客に貸す代わりに、一定額の手数料を取るというものだったと記憶している。特に悪どい稼ぎ方をしているという訳ではなかったが、如何に治安のいい場所であったとしても金のある場所には、同時に犯罪の臭いもするものだ。それを知っていたその男は普段から厳重に警戒し、相応に関わる人間にも注意を払っていた。そんな中起こったあの事件は完璧に計画されていて痕跡は何もなく、容疑者すら絞れぬままに時間だけが過ぎていこうとしていた。私があの魔法を作り出していなければ、間違いなく迷宮入りしていただろう。とはいえ、それが実際に証拠として機能するようになるまでには相当な時間が掛かったものだ。その後も私は協力を惜しむことなくあの街のありとあらゆる犯罪を捜査した。今となってはその頃に培った勘みたいなものも役に立っているのだから、全く無駄だったなんて事は無かったとも言えるのだろう。

 さて、そろそろ車窓に流れ行く景色を見るのにも飽きてきたな・・・。しかしこの調子だと一週間何をして過ごせばいいのやら・・・・。そうだ、久しぶりに新しい魔法でも作ってみるか。



 アクサナは窓の外を楽しそうに眺めている。マリウスは自室に篭ったきり出てこない。僕は何をしたらいいのだろう。広い部屋に置いてあるかっこいい形の椅子に座りたい気分も無くはないけど、何となく床に腰を下ろしている。下から感じる振動が不安定な心を落ち着かせてくれている。そんな気がする。

 どれくらい時間が経ったのだろうか。いつの間にかうとうとしていて気が付かなかったけど、外を眺めるともう太陽が傾いてきている。少し暑い。窓を開けてみようか。ガラガラと音を立てて開いた窓は、少し開いた所でぴくりとも動かなくなった。転落防止のためなのか、あまり大きくは開かない構造になっているみたいだった。それでも、外から入ってくる風は心地よくて、まるで空を飛んでいる気分だ。いや、現実に空を飛べる身としては、そこまで感動的なシーンじゃない。でも、本当は自分はそんなのじゃなくて、何も持っていなかったはずだった。そう。そもそも僕は人間の父親と人間の母親から産まれた人間の子供だったらしい。

 それを知ったのはほんの少し前の事だった。いや、あれから何百年も経っているのだっけ。まぁよく覚えていないって言うのも本当の事だけど。今思い出せるのは、その時苦しかった事と、自分は竜人族じゃないっていう絶望感だけだ。

 今もそうだけど、きっと心の修復に時間が必要だったんだと思う。現実を受け入れる時間が。あの頃は毎晩泣いて過ごしていたっけ。泣きたいのは今も変わらないけど。あの夜の事は朧げに覚えている。あれは雪解けも近い頃だった。真夜中に目が覚めてそれからなかなか寝付けなくてベッドから出た。それでもなんだか落ち着かなくて、父さんも母さんも眠っていたから起こさないように外へ出たんだ。珍しく雲一つ無い空にぽっかりと浮かんだ月は、とても近くにあったような気がして手を伸ばしてみたけどやっぱりだめだった。そんな月夜になんだか胸騒ぎがしたんだ。もしかしたらこのまま取り返しの付かない事になるんじゃないかって。

 寒かったけど、帰ろうという気にはならなかった。すると、山の下のほうから何か音が聞こえたんだ。なんだか大きな音だった。雪崩が起きないか心配だったけど、気になって見に行く事にしたんだ。暫く歩いた所にそれはあった。一人の男の人がうずくまっていた。近づいて触れてみるともう冷たくなっていた。だけどなぜかその時は怖くなかった。近くには馬の蹄の跡があったから、多分落馬してどこかを打ったんだと思う。それか寒かったからそれで亡くなったか。まぁどっちでも同じだった。とにかく気になっていたのは、大事そうに抱えられた黒い本だった。それが目に入った瞬間から興味が湧いてきていた。その時はそれ以外の事は本当にどうでも良かったような気がしたんだ。多分それがあったから恐怖心もなにも無かったんだと、今ならそう思える。

 今は自分の力で空を飛ぶ事が出来る。風を顔面に感じながらそれを思い出していた。そして、そのことに対してもう後悔はしていない。その代償がこの孤独だったとしても。僕は空を飛べる。その事実はそれらの色々な事を補って余りある事だと思う。だって、普通の人ならこの列車ですら感動するのでしょ?僕は既にその先に居るから。気分は少し楽になった。もうあのかっこいい椅子に座ってもいいかな。


 椅子に座り直して思い出したのは昨日の出来事だ。あの洞窟で起きていた事はよく判らなかったけど、あまり見て気持ちのいいものではないという事だけは判った。そのことに関しては、あのおっさんが守ってくれたということも判った。これは今までに経験した事の無い事だった。誰とも知らない名前も知らないおっさんが、嫌なものを見なくてもいいと、その必要は無いと言ってくれたのだから。

 あのおっさんの言葉を思い出す。『選択を間違えるという事は無い。それはその結果を受け止め切れていないだけだ。』確かこんな感じだったっけ。難しい事を色々と考えようとしたけれど、結局何がわかったかなんてわからないものだった。一つだけ言える事があるとしたら、それは僕の意思であって僕の生き方だって事だろう。

 もっと他人を信用していけばいい。心の向くままに考えればいい。そもそも誰かに騙されたりしたわけじゃない。仮に騙されたとしても、その時はその時に考えればいいってだけの話でしょ。確かに嫌な事はあったし、これからも色々あるだろう。でも、それを誰かのせいにするのは間違っているっていう意味と捉えれば、納得のいく言葉だった。結局何をどうして思い詰めていたのかなんて忘れてしまった。

 うん。そろそろ窓を閉めても良さそうかな。

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