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「次に向かう場所を決めます。」


 それは清々しい朝にふさわしい新しい目的地を決める会議を始める号令のつもりだった。


「私は何処へでもついていくだけだ。」

「右に同じくー。」


 これでは会議にならない。彼女の気持ちとは裏腹に、二人共議論をする姿勢がまるでない。それでも彼女はこの会議を前に進めようとする。


「目的地を決める前に現状を整理します。」

「異議なし。」

「いぎなーし。」

「私達の当面の目的は各地にビーコンを設置することです。その中の一つは設置が完了しました。しかし次のビーコンを設置するのは、少しでも離れた場所へ設置することが推奨されています。そこで次は大陸の反対側へ向かおうと思います。」

「異議なし。」

「いぎなーし。」

「・・・えっと、そこで具体的な話になるのですが、どこを通って行くのがいいでしょうか。」

「異議なし。」

「いぎなーし。」

「・・・・・・・・」

「どうした?続けてくれていいぞ。」

「いぎなーし。」

「さっきからなんなんですかその態度は!二人とも真面目にやってくださーい!」

「やれやれ、・・・君がもう意見するなと言ったのではないか。主導権を取りたいのだろう?どうにでもすればいい。」

「そういうつもりで言った訳ではないのです・・・。」

「どういうつもりだったのかは知らん。私はそういう受け止め方をしたまでだ。」

「私は、・・・・対等に話し合いがしたいだけなのです。」

「・・・・・いいだろう。では、この前のように意見が割れた時はどうする?また自分の意見を押し通すつもりなのか?」

「押し通すというものでもないですが、決めないという選択は基本的に存在しませんので、その時々で適切な方を支持するしかないと思います。」

「ふむ、では今回は君が議長ということで話し合いをしようではないか。」

「わかりました。」

「いぎなーし。」


「では改めて、今後の目的地を設定します。それは一つ目のビーコンからはある程度離れた位置へ置くようにと言う指示がありました。それを踏まえまして、この大陸の反対側を目指すというのはいかがでしょうか。」

「議長、幾つか質問があるのだが・・・・」

「なんでしょう。」

「この任務は時間に縛られている。私の知る限りでは大陸の反対側に行くとなるとかなりの長距離移動となるだろう。そしてそれには相応の時間が掛かるものだ。その事についてはどう考えている?」

「え、歩いては行けないのですか?」

「それではかなり時間が掛かってしまうと言っているんだ。他の移動手段に心当たりがあるのか?」

「どうなんでしょうね。あまり考えていませんでした。」

「全く君は・・・。まぁいい問題はここからだ。移動手段を選ぶにあたって、難しい点が幾つかある。先ずは船で行く場合。君も知っているだろう、この辺りで一番大きな港を。」

「ええと、ああ!アラマントの港ですね。」

「そうだ。あそこの事情は混み合っているのも知っているな。問題をややこしくしているのは我々が税金を支払わずに出てきたせいとも言えるが、・・・ほとぼりが冷めるまで暫らくは近寄らない方が無難だろう。そして運が悪い事にあそこ以外からは定期船が出ていない。」

「つまり不可能ということですか?」

「いや、結論から言えば金さえ払えば済む話ではある。あそこの連中はそれさえあればにこやかなものなのは知っているだろう?しかし必要になるのは相当な額に上るだろうがな。」

「そうですか・・・。他に方法はありますか?」

「道はまだある。これは最近開通した新しいルートなのだが、鉄のレールの上を走る故に鉄道と呼ばれている。」

「そんなものが存在するのですか。」

「ああ。なんでも魔法の力を動力にした機関らしいが、伝え聞いただけで詳細は不明だ。しかしこれを使えば一週間も経たずして大陸の西側に辿り着けるようだ。」

「それで行きましょう!魔法の力で動くなんて親近感がわきます。」

「まぁ待て、これにも問題がある。新しさ故にそのチケットを手に入れる事が非常に難しい。物珍しさに加えて運行される本数もまだ少ないからな。人気が集中するのも無理はないが、通常の手段で手にしようとすれば順番待ちは数ヶ月に及ぶだろう。とは言え直ぐに乗りたいなら不可能ではないが・・・・」

「お金ですか?」

「ご明察。」

「ではやはりこの案を実行に移すのは難しいですね。」

「今のままではな。さらに言うと実際の問題はもっと深刻だ。」

「どういうことです?」

「差し当たって手持ちが尽きかけている。宿もタダではない。人数が増えればそれだけ出費もかさむ。そして新しい銃を手に入れる為にまた飛んでいくというわけだ。この少年も手持ち無沙汰だしな。」

「どうにかなりそうですか?」

「ああ、そこで提案なんだが、この街で一稼ぎしようと考えている。昨日のうちに情報を仕入れておいた。内容は鉱山にまつわる事だが・・・・・・追って話そう。もうすぐ約束の時間になる。取り敢えず出発しよう。」



 ここはそれなりに栄えた街のようで、朝早い時間であるにもかかわらず既に街並みは活気に満ち溢れている様に見えた。


 鉄の街と呼ばれるほど鉄鋼業が盛んなこの街は、古くは鉱物資源によって発展した事で有名だ。近郊に多数存在する鉱脈。それを掘り出す鉱山での雇用は人工の増加に繋がり、人口の増加は多様性を生んだ。初めは鉄くさく埃っぽかったこの通りも、今では色々な文化を吸収し、色彩豊かな街としての側面を持つようになった。また、腕の良い職人が挙って集まるようになり、周辺の豊富な鉱物資源の恩恵も相まって、様々な工業的、工芸的、芸術的な品々が作られ、産業の街としても発展した。よって街には彫刻や彫金の店も多い。


 しかしどんな場所にも問題は付き物で、この街の場合はその基盤に関係のある事だった。

 かつては潤沢に存在した各種金属貴金属、その他希少鉱物までもその殆どが採り尽くされ、新たな鉱脈を探して地下へ地下へと掘り進んだ結果、地盤も穴だらけになり、いたる所で崩落が起こってしまった。


 盤石だった街も文字通り地盤から揺らぎ、街全体に暗い影を落としていた。そんな中、さらなる多様性と発展を求め、各地から様々な様式を取り入れようと、構築されたのがレールウェイであり、その完成に沸く街は「新生鉄の街」として息を吹き返しつつあった。街は新しい顔を持ち始めた。



「この街の歴史を簡単に纏めると、かつては鉄により栄え、今では多種多様な、“ものづくりの街”として知られている。ということだ。先ほど話した鉄道もこの街から発着している。」

「鉄の街かぁ、なんか強そうだね。」

「少年は別に付いて来なくてもいいのだぞ。安全ではないだろうし武器もないのだろう。」

「山は得意だからだいじょぶだって。なにかあったらすぐに帰れるでしょ。」

「どうだろうな。」

「話は変わりますが、仕事の約束していたという事は今日の予定は既に決まっていたということですよね?それなのに“提案”をしたのですか?もし私がすぐにこの街を出発すると言ったらどうするつもりだったのですか?」

「その疑問はもっともだ。既に予定が決まっていたのは事実だ。・・・しかしどう転んでも避けられない問題だった事に変わりはない。適当な理由をつけて時間を作り、仕事はこなしていただろう。例えば『一日くらい街を見て回ればいい。』などと言ってな。」

「はぁ・・・まぁいいです。それで、今は何処へ向かっているのですか?」

「鉱山の管理者の所だ。正式に仕事を請け負う旨を伝える。」


 市街地から少し離れた場所。この近辺は明らかに寂れているという印象を受けた。建物はボロボロで道もあまり整備されていない。そんな閑散とした通りの、数ある建物の中でも特に古ぼけた小屋。彼はその前で足を止めた。そして少し見上げるように小屋の外観を眺めた。古めかしい小屋はその中に人が居るとは思えないほど静まりかえっていたが、彼は数秒後には扉を叩いていた。

 これまた数秒の後に小屋の中から僅かに音が聞こえ、一人の中年男性が顔を覗かせた。だるそうな瞳は三人の姿を映し出していた。


「あぁ、君か。ん?その二人は・・・・はぁ、女子供を連れて来るような仕事ではないんだが。」

「その二人はそこいらの女子供と違って腕が立つ。問題ないだろう。」

「何かあっても責任は取らんぞ・・・まぁいい。入れ。」


 部屋の中は外見と同じく小汚い印象だ。ゴミや埃が部屋のいたる所に溜まっている。机の上に乱雑に積み上げられた書類の塔は少しでもバランスを失うと崩壊してしまいそうだった。その机の前の古ぼけた椅子に、ドカンと腰を下ろした中年男。その重みで椅子が軋み、まるで悲鳴のように聞こえた。


「内容は昨日話した通りだ。後は・・・・おい。」

「およびっすか?」


 中年男の呼びかけに答えて現れたのはひょろっとした若い男だった。彼は適当に三人に会釈すると中年男の隣まで近づいた。


「案内してやれ。」

「うっす。」


 それだけの会話で小屋から追い出されてしまった。次いで男は口を開く。


「えっと、今日はよろしくっす。細かい内容も少し話した方がいいっすか?」

「ああ。頼む。実は昨夜あの男は泥酔していたせいで詳細はまだ聞いていない。」

「やっぱそっすか。今朝も頭が痛いとか何とか言ってたっす。じゃあ、説明するっす。これから行くのはうちで管理している古い坑道なんすが、そこは今でも金が出るって言ってまた掘り直している場所がありまして。そんでもってその坑道が古い坑道と繋がっちまったんっす。そんでそこを住処にしていた魔物が流れ込んで現場は大変な騒ぎになっちまったって感じっす。」

「仕事とは魔物退治の仕事だったのですか。」

「げー。また魔物かー。」

「嫌なら来なくてもいいが。」

「行くよ!」

「あそこの入り口から入るっす。中は迷宮のように入り組んでるっす。はぐれないようについてくるっす。」


 岩肌にぽっかりと開いた穴の中は、ぼんやりとしたオレンジ色の光を放つライトが所々にぶら下がっているものの、真っ暗で奥の方はまるで見えない。案内役の男と共に吸い込まれるようにその中へと入っていく。埃っぽい空気が少しだけ冷ややかに彼らを迎え入れる。


「足元に注意するっす。」

「暗くて何も見えないや。」

「少し経てば目が慣れてくるっす。」

「しかし本当に暗いな。ライトは持っていないのか?」

「慣れれば問題ないっす。逆にあまり明るくしすぎるのは危険っす。急激な変化はどっちにしても避けるべきっす。」


 どれくらい歩いただろう。坑道に入って一時間ほどは歩いている。既に目は慣れた。今では壁面の岩の凹凸もよく判る。その凹凸も場所によって凸凹が多い所と滑らかな場所があることに気が付いた。気が付いたが気に留めることでもないだろう。


「あの、入ってからだいぶ歩いたと思うんですけど、まだ着かないのですか?」

「まだ半分も来てないっすよ。最初に言ったように坑道は迷宮になってるっす。間違っても好き勝手に歩かないようにするっす。」

「はい。もしはぐれたら二度と外には出られないような気がします。」

「うぅーどこまでいくんだろう・・・。疲れてきたよ。」

「離れないようについて来て下さい。」

「しかし、魔物が出てきたというのなら相応に被害があったのではないのか?」

「ええ・・・。ここだけの話、この事件は公になっていないっす。街のすぐ傍に、地下とは言え大量の魔物が潜んでいたなんて、こんなこと公になったらこの街には誰も寄り付かなくなって終わりっす。そう考えた社長が世間にばれないようにこの問題を解決しようとして、魔物の退治できる旅人を探していたっす。」

「なるほど。住民に解決を仰ぐ訳にはいかなかったということか。しかしこんな大事件を隠していたと知れればそれこそただでは済まないのではないか?」

「どっちみちこんな事が露呈した時点でうちの会社もこの街の経済も御仕舞いっす。だったら秘密裏になんとかしたいらしいっす。」

「やけに話が早いと思ったらそういう裏があったのか。しかしそんな事私たちに言ってしまって大丈夫なのか?」

「むしろ知らずに言いふらされる方が困るっす。報酬は十分に払うっす。それでなんとかお願いしやっす。」

「成程。」

「少し質問してもいいですか?魔物の群れが出現したとなると、その規模がどれほどのものなのか知りたいのですが、何か知っていますか?」

「そうっすね・・・暗闇に蠢く何かを見つけて、それが異形の者だと気が付いた瞬間には走っていたっすから・・・詳しい事は分からないっす。でも、自分以外の人間が生きて出て来れなかった所を見ると、かなりの大群だったと思えるっす。」

「と言う事は、あなたはその現場に居合わせていたのですか。」

「そうっす。唯一の生存者っす。そして今はその案内人っす。」

「それにしても・・・・・!?」


 地盤が大きく揺れている。大きな振動が収まって尚、細かい振動が感じ取れる。少しだが空気が流れているようで、同時に土埃を含んだような臭いもする。


「今の音は何ですか?」

「おそらくどこかが落盤したっす。この辺りはかなり古い坑道っす。特に近代化前に掘られている箇所は崩落の危険性が高いっす。なるべく避けて通るようにしているっすが、注意して進むっす。」

「どうして古い坑道を未だに使っているのですか?」

「それはっすね、最近の採掘量は昔に比べて少なくなったっす。でも、技術は進歩してるっす。新しい技術なら、昔は掘れなかった場所や、掘っても採算が会わなかった場所で掘る事が出来るようになってきたっす。そのせいで既に入り組んでいたトンネルがより細かく、より複雑になったんすけどね。」

「そしてそういう場所を好む魔物が住み着いてしまったと。」

「そういうことっす。」

「しかし、もうかなり歩いたと思うのですけど、魔物の姿が見当たりませんね。本当に居るのですか?」

「それは言っちゃダメっす。言うと魔物が出てくるっす。そんでジンクスから言うとあっしからやられちまうっす。」

「それこそ言っちゃダメな気がしますが・・・。それにあなたが居なくなったら私たちも外に出るのはほぼ不可能です。」

「ははは、冗談っすよ。でも、そろそろ気を付けなければいけないってのは本当っす。事故があった場所はもうすぐそこっす。」


 彼の言う事故が起こった場所へ近づいてきている事はわかった。既に嫌な臭いがしている。鉄のような臭い。足元が湿っている気がする。壁面が今までより暗い色をしているせいでよくわからないが、もし明るかったらもっと凄惨な現場を目撃してしまっていたのだろうか。

 しかしなぜか案内をしている彼は、その現場の状況に対して少し無関心なように見えた。

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