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妹×異世界×幼馴染×後輩  作者: 山田健一
8/10

そのはち

前回までのあらすじ


ザコのように死んでいった山田健一。しかし彼はまだ変身を三回残している(嘘)。

 僕は着替える。

 雨が降っていた。

 僕の家には、ある生き物がいる。

 見たところウサギに似ている。

 病気なのかと思うほど白い毛並みをしている。

 僕が、街の中に降りしきる豪雨を恨めしく見ていると、ウサギも僕の傍らにちょこんと座って一緒に雨を眺めた。

 何かと僕の真似をしたがる。

 寂しいのだろうか。

 残念ながら僕もたいして陽気な人間ではないから、彼の寂しさを晴らすことは不可能だ。

 ウサギは寂しいと死んでしまうのだろうか。

 でも、人間の方が、もっともっと寂しさで死んでしまう生き物だと思った。

 妹は、すでに中学へ登校していった。

 僕も、早く行こう。





 雨を防ぐには、傘。

 それをさしながら歩く、F高校への道。

 某T大学へ毎年何十人もの生徒を輩出している。

 いつも心の中を空っぽにして歩く。

 するとあっという間に学校へ着くのだった。




 教室へ着くと、女の子が話しかけてきた。

 名前はアルジェーヌ・ミラーフェスタ。

 イギリスから日本へ来た女の子である。

 同時に僕をクラスメイトとして持つ。

 明るい子だ。人懐っこく、容姿端麗でもある。

 僕は男の子だけれど、不思議と彼女とは馬があう。

 昼休みじゅう、彼女と談笑して過ごした。




 雨はまだ止まない。

 僕は情報を持ち帰らなければならない。

 ふとそう思った。

 情報とは何か、と問われても、情報、としか答えられない。

 生きた情報なら何でもよい。

 むしろ、取捨選択することは許されなかった。

 人は他人とかかわりあって生きているが、とどのつまりそれは情報だ。

 情報さえあれば、人は生きていけるのだろう。小さい身ひとつに収まりきらないほどの、溢れんばかりの情報量さえ保てれば。





 



 よく分からない部活が、この学校にはある。

 人生部。

 部員数、驚異の三人。

 この学校ではただ一人が、ひとつもの部活を発足させることができる。

 人生部という独特の部活を生み出したのは……。

 今僕の目の前にいる、水崎かえでという人だ。

 この部活、活動内容はもちろん、存在意義自体がアバウトの海である。

 活動内容は……人生を、する、みたいな。

 水崎さんがそういうのだから、そういうものと理解するしかない。

 分からない数学の問題の、解答だけを丸暗記している気分だ。




 水崎かえでさんは、僕の一個上の先輩だった。

 人生部の部長。

 ミラーフェスタさんは副部長。

 僕は書記係と会計係と雑用係を受け持っていた。

 女の子ふたりがのんびりくつろいでいる間、僕は部室に備えられた給湯からお茶を生産し、お二方にお届けする。それが僕に定められし運命。

 でも、というか、だからこそ、退屈はしなかった。

 僕の中に情報が蓄積されていくのが分かる。

 充実しているのだ。

 充実は安心を生み、安心は明るさを生み出す。

 かえでさんは立ち上がった。

 おもちゃの銃を持っている。

 なるほど、今日の活動内容は、それか。

 昨日も一昨日もやった。彼女のお気に入りなのだ。

 僕とミラーフェスタさんは微笑しあって、的を用意し始めた。





 ただいま、と僕は形式的に言った。

 妹は先に帰ってきていた。

 妹に、今日中学でどんなことがあったのか、と質問する。

 授業が難しかったとか、体育で疲れた、とか。

 よくある家族の会話風景にすぎないと思いきや、これが僕たちにとって最も重要なタスクだ。

 三十分ほど話した。

 機は熟したといえた。




 僕はベランダに出る。

 ウサギは体積が十倍に太っていた。

 白い毛並みは黒光りし、目は痛いほど充血していた。

 興奮しているのか、寂しいのか分からない。

 たまたま平素はウサギに似ているからそう呼称しているだけで、本当は彼は何者なのだろう。

 その正体は知っているのだが、メカニズムや生態はいまだ理解しがたい。

 凄まじい熱量を発し、今にも暴走しそうな巨体を、僕は眺めた。

 僕はウサギに触れる。




 念を入れた。

 気を一転に集め、その存在を黒く示すように。

 心と心を繋ぐ管が現れ、僕の身体をまさぐった。

 血液を吸うように、僕が保有する情報の水を、いっぱいに汲み上げた。

 それがウサギへと送られる。

 僕はウサギを見た。

 ウサギの見た目は、ノートのようなものに変貌していた。

 しかしよく見ると、深紅の目玉が残っていた。

 不安定なのだ、彼は。

 そして。





 僕――山田真理――は、

 電子の海の奥深くにいる僕の兄に、

 調子はどうだ、

 と囁いた。

そのじゅう

くらいまでで終わると思います……多分。

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