そのろく
前回までのあらすじ
砂漠で死にそうだったが助かった。
サクラ=アルカディアは地表何十メートルという高さを容易くジャンプしながら、
「これからてめえには、銃撃戦、つまり殺し合いに参加してもらう」
そう言うのだった。
俺にとって、その言葉は刺激的過ぎた。
「……夜の銃撃戦?」
「ここから蹴り落とすぞ」
「こんな高さから言われるとシャレになりません!」
「ならシャレにもならないような下らないことを言うな」
「すみません……」
連れられた場所は、ステレオタイプな軍事基地だった。
今まで(エロ本と更衣室以外は)ただただ砂丘しか眺めていなかったので、これでも新鮮味を感じた。
「俺は何をすればいいんだ?」
「訓練」
そう言うと、彼女は背丈ほどもある銃を軽々と投げてよこした。
「おっと」
俺はおっかなびっくりソレをキャッチする。
「それを使って人を殺す。向こうはこっちの十倍の戦力を持つから、てめえ一人で十人は殺してくれれば十分だ。それじゃ」
「無茶言わんといて!?」
俺の涙交じりの制止も空回り。彼女は煙のようにあっという間に姿を消してしまった。
「というかソレ訓練じゃない! 実戦だろ実戦! 素人にこんなモン扱えるかあああああ!」
「よう少年。調子はどうだい?」
「誰だよおおおお!」
「わしじゃよわし」
「わしじゃあ分かんねえっつうのおお!」
「おぬしその年でボケたか? わしじゃよ、神様じゃよ」
「ああ覚えているとも! 銃使いに相手取るのに十分な武器も寄越さず冷やかすだけ冷やかしてさっさと自分だけ姿をくらました陰険ヒゲジジイだろ!? ああ鮮明に覚えているとも!」
「ちゃんと武器が手に入ってよかったジャン」
「こんな管楽器みたいに複雑な武器が使えるかあああ!」
「構えてみろ」
「は?」
俺が大口を開けている最中に、神様は俺の二つの腕と二つの足を遠隔操作するように、銃の構えのポーズをとらせた。
一瞬だったので、あっけに取られずを得なかった。
「体重を固定してボタンを押せ」
「ボタン?」
この銃はボタン式なのか? 俺は銃には詳しくないのだが。
半信半疑で指をソワソワと動かしてみると、確かにボタンの感触があった。
「ああそうだ。わしが押せと言ったら押せ」
「おう……」
ツルツルとした丸型のボタン。テレビのボタンでもエアコンのボタンでもない。正真正銘、弾丸を発射するためだけのボタンなのだ。
奇妙だ。
「今だ!」
「おらああああああ!」
俺はボタンを押した!
ドドドッドドドッドドドドドドドッド!!!!!
ぐわああああああああやめろおおおおおおがはあああああああああ!!!!…………
目の前にいた味方らしき人員のうち十三人が死亡した!
「げえええええええ何だこの銃!!!?」
「それでバンバンこ・ろ・せ☆」
「いやいやいや良心で心が今にも破裂しそうだわ!!!」
「んちゃあそういうことで~」
ドロン! と大げさな音を立てて神様は消え失せた。
俺は呆然とするしかない。
目の前に広がる死体、血、死体、血……。
時がたてば、こんな砂漠でも彼らは地面に吸収されるのだろうか?
……とりあえず、十人のノルマは達成された。やったー。味方だけど。
サクラ=アルカディアが帰ってきた。
ついてこい、とだけ言ってきたので、俺もわかった、とだけ答えた。
軍事基地がかすんで見えるくらい離れた。
彼女が言う。
「ここがお前のノルマだ」
「目の前に二十人は敵がいるな」
数十メートル空けて対峙している。
「今夜中にやれ」
「職場の書類整理みたいに軽々しく頼むなよ!!」
「てめえが十三人も味方を殺したから、その分ひとりひとりが二倍の量を殺さなければならなくなっただろうが!」
「えええええええ!!? 味方二十六人しかいなかったの!? それに対して敵は二百六十人!? そもそもこれは何の戦いなの!?」
「目的なんて、そんなモンはひとりひとりが決めることだろうが!」
「そんな部活感覚で人殺ししてるのあんたたち! あんたらの精神はどうなってるんだ!」
ツッコミが追い付かない。
「ぱんつに異常な関心を示すてめえの精神の方が異常だろ!」
ごもっとも。
割と真面目に、この世界はどうなっているんだろう。
手がかりが少なすぎる。
突然更衣室にワープしたり。
戦いの目的も個人で決める?
たびたび現れるエロ本。神様。弟(ホモ野郎)。
妹似のサクラ=アルカディア。幼馴染似のカエデ=クロニクル。後輩似のアルジェーヌ・ミラーフェスタ=なんとかさん。
そして『幸福が押し詰められた花』というワード。
謎しかない。謎しかないが……。
とりあえず、今は目の前のことに集中するしかないようだ。
一対二十のバトルが、今、始まろうとしていた。
俺の命が尽きるまでは続いてほしい。
忙しいのでなかなか更新できない……!