そのご
前回までのあらすじ
常人の四倍の跳躍をする女の子と出会った。
「こ、これは……!?」
ポッケの中に入っている妹の靴下。
入れた覚えはこれっぽっちも無かった。
かつては自分たちの家の中で、目が腐るほど……いや目が浄化するほど見てきた妹の靴下。
今だけは、何やら異形のオブジェクトのように思えた。
ついさっきの記憶をよみがえらせる。
サクラ=なんとかって人は、片方だけ靴下をはいていなかった。
今手元にあるモノと記憶とを統合してみると、全く違和感のない映像になった。
関係無いハズが無い。
つながりを感じるのはそれだけではない。
名前だってそうだ。
俺の妹の名前は「山田さくら」である。
対してさっきの少女の名前は……。
……何なんだ? この世界は。
「死ぬんですが」
万歩計がカンストしてオーバーフロー起こすくらいは歩いたと思うのだが、背景はひとつも変わらない。
この砂漠に終わりはないのだろうか……。
「熱気ムンムン。喉カラカラ。お腹ペコペコ。こりゃあ……詰みですわ」
もしこの世界で死んだらどうなるんだろう。
「クソ……。何なんだこの世界は……。俺なんか悪いことしたか? ただ単に妹が風呂に入っている時に脱ぎ捨てられた衣類で顔を包んでいただけなのに……。畜生! 何で俺だけこの世界に飛ばされてんだよ……!」
俺はありったけの唾と空気を吐き出すように叫んだ!
「誰にだって……! 誰にだって! 妹の! 下着に! 体を突っ込みたくなる……欲求が! あるはずだろおおおおおおおおおお!?」
「あるかああああああああ!!」
「ぎゃあああああああああああああ!?」
太陽の光を背にして、靴底を俺に向けて一直線に降ってきたのは……。
「わが妹!?」
「サクラ=アルカディアだ……」
さっきのマントの人か。
「めっちゃ痛いぞ」
「そりゃそのつもりでこっちは降ってきたからな」
「こっちはもう体力が残り少ないんだ。何か恵みを与えるべきシチュエーションだろ、普通」
「それがモノを頼むヤツの態度かよ」
「……このように広大で、道しるべの一つも、舗装された道の一本も見つけることが……」
「あーはいはいはいはいはいはい。もう何も言うな。鬱陶しい」
少女……サクラ=アルカディアは、少しオーバーなくらい呆れたように言い捨てると。
「掴まれ」
そう言ってきた。
「掴まれって……胸に?」
「殺すぞ」
「何でだよ! 女が男に掴まれって言ったら、まずそれを連想するのが普通でしょ!?」
「んなわけあるか! そんな下劣なヤツはてめえだけだ!」
「そうは言うけどな! お前、片方だけ生足とかどういうつつもりだよ! 何か下劣な考えでも持ってんだろ!」
「何でそうなる! そもそもこれはお前が……」
彼女はそこまで言ったが、いかんいかんと首を振ってから。
「とにかく掴まれっつーの」
「えー。今何をお隠しになったんですか~?」
「何でもねえ! あと二秒以内に掴まらなかったら殺すからな」
「はいすみません」
十倍増しの殺気あふれる目線を受けたので、脊髄反射的に首肯した。
そして、仕方なく腕に掴まらせてもらった。
だがこれはこれでよい。
「行くぞ」
「すげえ……」
彼女は超人そのモノだった。
常人の四倍の跳躍を繰り返し、常人の四十倍のスピードで移動する。
「どこに向かっているんだ?」
聞いてみたが、返事が無い。
まあ、なんだかんだで非常にイイヤツのようだし、どこか安全な場所へ連れてってくれるのだろう。
信用することにした。
「なあ、この前言っていた、『幸福が押し詰められた花』って何なんだよ?」
またもや無言。
前に同じ質問をした時も、知らないと答えたのだから、同じ質問を繰り返すことに意味などなかったが。
「俺、昔どこかで聞いたことがあるような気がするんだけど」
そう言ってみると。
「……本当か?」
跳躍を反復させながら、耳を傾けてきた。
「期待するなよ。記憶の奥側に、そんな名前を聞いたことがあったような無かったような……っていうレベルの記憶があるか無いかって感じだからな」
「それでもいい。知っていることは残らず絞り出して教えろ」
「……いや、だから、本当に聞いたことがあるってレベルで、それ以外に何も知らないというか……」
「はあ? 期待させといて何だよそれ?」
だから期待するなと言ったのだが……。
「俺が元いた世界で聞いたことがある。それだけだ」
「なるほどな……」
「さて、俺が情報を提供してやったんだから、お前も情報を提供しろ。俺たちは今、どこへ向かっているんだ?」
少女は……。
「ふん。狡猾なヤツだな。……まあいい。役に立つかどうかは甚だ疑問だが、一応花に関する情報も手に入ったしな……」
そう言うと……。
不敵な笑みを浮かべて、衝撃的なことを言うのだった。
「これからてめえには、銃撃戦、つまり殺し合いに参加してもらう」
続く!
前回「続く」って書くの忘れてました。
まだ続きます。