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5.薬草採取


 部屋を移動してからの話はさくさくと進む。

 こちらが本来のお仕事中のアーシアさんの対応なのだろう。

 説明は簡潔にして明瞭で、ぼんやり聞いているだけでも頭に入ってくる。


「異世界から来たことは、ギルドへの報告以外では、あまり言わないほうがいいですね」


 との助言を受けた。

 どうやら異世界から来たという人は過去から現在まで何人もいるが、あまり良い印象は持たれていないようだ。

 少なくない割合で異世界人はこちらの世界に混乱を招いているとのこと。

 技術を秘匿して富を独占したり、独自の価値観で地域のルールの隙や粗を狙った活動を取ったり、異性を奴隷として何人もはべらせていたりと、各地で社会的秩序を崩す行動を取るイメージが強いらしい。

 こちらの世界とやんわり融和していくといった者もいるにはいるが、そちらは少数なようだ。


 ※奴隷制度はありません。実際に奴隷として売買を行うと罰則があたえられます

 ※異世界人への不当な差別は国家法で禁止されています

 ※報告をしていない異世界人の方は最寄りのギルドか国家施設にご連絡ください。義務ではありませんが特別な措置が行われます



「目立ち過ぎないこと、急な改革を行おうとしないことがよいと思います」


「わかりました」


 俺のように自己申告してくるタイプは珍しいが、隠していても一部の地方や街だけが異様に発展しているのを見ると大体そのせいだという。

 今回は早めに申請があったので余計な疑念は持たれずに済むだろうとのことだ。


「それで、元の世界に帰る方法はあるんですか?」


「帰る方法ですか? こちらにある資料だけですと判りかねます。ギルド本部に問い合わせてみないと細かなことはわかりません」


「じゃあ、確認をお願いしてもいいですか?」


「承りました」




 ギルドの保護によって一年間は──条件付きであるが住居を無料で貸してもらえることになった。

 その一年間でこちらの世界を学んでくれということでもあるらしい。


 条件とは、ギルドとしては受理したが誰も赴かない不人気依頼への派遣や、人手不足の依頼へのヘルプである。

 今回俺が受けた「清掃」は賃金も安く、そうした不人気依頼として処理される寸前だった。

 折角ギルドに手数料を払って依頼を出したのに引き受けてもらえない、なんてことが多くなってしまえば信用問題にも関わる。

 そういった事態を防ぐためのシステムであるようだ。

 なお、頂ける報酬金は保護費用としてギルドに流れるために本来の報酬額よりは低めになっている。





「ここだな」


 指定された場所には同じ造りに見える木の小屋が幾つも立ち並んでいた。

 俺の他にもギルドの特別措置を受けている人がいるのだろうか。

 部屋の中はレイアさんの長屋よりも小奇麗に整っているのが嬉しい。

 藁はもう見当たらない。




 部屋を確認した俺はすぐに街の外へと向かう。

 早速のご依頼である『解毒草収集』をこなすためだ。


 依頼主のゴーウッド商会は個人依頼ではないため、特に挨拶や確認などは必要がないようだ。

 集めた解毒草をギルドに持っていけば後のことはやってくれると。


 三時間ほど歩くと言われていた草原が見えてきた。

 郊外にあたるこの辺りであれば解毒草が生えているという。


 ※実際には馬車で移動していただいております

 ※薬草など有用な植物の群生地は私有地で栽培しているものです。無断で採取することは違法行為となります

 ※ギルド依頼や任務以外での大量採取は植物の生態系を崩す恐れがあります

 ※事前に特別な許可を得ております



 ちなみに薬草も同じ場所で採集できるようだ。

 ただし薬草に比べると解毒草は探す手間と根から掘り出す手間がかかる、そして手間の割りには安い仕事であるので不人気依頼となっているらしい。


 草むらは一見すると雑草が茂っているようにしか見えない。

 だがしかし、どこにあるのだろう? と真慧眼が発動されてみれば解毒草がちらほらと発見できた。

 確かにこれでは、普通に探すのは面倒であろう。


【ツノトウシ草 …… 根に簡単な解毒効果がある。価格も手ごろでもっともポピュラーな解毒草】


 根っこに価値があるので、採取は丁寧にお願いしますとアーシアさんから仰せつかっている。

 周囲の硬くなった土を鍬か鋤で掘り返せれば楽なのだが、それで根を傷つけてしまう人が多いようだ。

 そのために採取は素手と決まっている。


 地面を撫でて感触を確かめる。

 この土壌を指で掘り返すのは、難有りだろう……。



「……天統(てんとう)流弐式、刺指連崩」


 硬度の高い大地に何本かの指が突き刺さる。


 まさか土掘りに武術を使うことになるとは……修業中の山籠もりではよくやっていたことだ。

 そうしなければ生きていけなかった、それだけのことである。


 ※熟練者がスコップを使用して掘っております。役者さんの指は無事です



 ※この後暴力的な表現が入りますので一部表現を伏せております




 本来は相手の□■や□■を狙い、□■□■から□■□■するものだ。

 指を二本揃えて突き刺せば□■□■を破壊することも可能だろう。

 やったことはないが。


 ほどよく土を崩しながらゆっくりと引き抜く。

 引き抜いた解毒草の根から土や絡み合った雑草の根を落としていく。

 見た目は大きなエシャロットのようで、このままでも食べれそうだ。


 同じ要領で作業を続ける。

 言われているのは30本だ、簡単に終わるであろう。


 ……。


 ……。


 実に楽観的な見方であった。

 10本目までは容易く発見することができた解毒草は、それ以降はなぜか見つかりにくいものと化した。

 現在19本目を探しているわけだが、見回してもさっぱり見当たらない。

 もうこの辺りでは抜き尽くしてしまったのかもしれないし移動すべきだろう。


 ※都合により見当たらなくなっておりますが、本来はそこまで群生数が少ないものではありません



 言われていた棲息域から更に十数分。

 見つけては抜き、見つけては抜きを繰り返して進む。

 これで残りは7本だけだ。


 すると地を覆っていた緑は消えて、突然岩肌へと変化した。

 どうやらこの辺りまでが探せる範囲みたいだ──と、思ったのだが。


「あれ? あっちにあるじゃんか」


 ごつごつとした岩肌の大地にも、離れた場所で点々と草が生えている。

 これならもう少し足をのばしても大丈夫そうだ。


 場所が岩の隙間ということもあって、先ほどまでのように簡単には抜けない。

 より的確に、砂利や石で根を切ってしまわないように気をつけなければ。




「グルルル……」



 残りがあと3本となったところで奇妙な声に意識を戻された。

 近くに来られるまで気がつけなかったのは手痛いものだ。


 数メートル先には俺を狙っていると思わしき黒い獣がいる。

 虎か? 狼か? 四足歩行の何かであるのは正面からでもわかるのだが。


 ※こちらの豹は安全面と動物愛護を考慮してCGです



【灰色山豹 …… 平原に生息する(ひょう)。極めて獰猛、許可不要の狩猟対象。毛皮は日常品にも用いられる】


 なるほど。


 じりじりと近寄ってくる豹は岩の陰に隠れていたのか、三匹にまで増えている。

 一匹が正面、一匹が退路を塞いで、最後の一匹が追い立てる役、といったところだろう。


 間合いに入った一匹の豹が俺へと飛び掛かってくる。

 あの大きな口にある牙で噛まれたらさすがに痛いと思う。



 ※この後暴力的・グロテスクな表現が入りますので一部表現を伏せております



 なので仕方がないが、食う為以外の□■をせざるえない。

 身を守るためだ。あと毛皮とやらに興味が出た。


 跳ねてきた豹の顎に□■を叩き込む。

 顎からの衝撃は豹の口を閉ざすだけでは勢いが死なず、そのまま豹の脳を大きく揺さぶる。

 カウンターを入れられた豹は空中を何度も回転しながら元いた位置へと落下した。


 天統(てんとう)流一式、拳翔円。


 構えを取らない体勢からそのまま手に重さを能えて振り上げる、天統流の簡易アッパーカットだ。

 上から襲われることなど滅多にないが熊のような大型の野生動物相手には便利である。


 もう一匹は走り込んでから噛みつきたいようだ。

 だがこれは普通に避けてから□■に□■□■□■を入れて一撃で対処する。

 残った最後の一匹は戦意を喪失したようで、唸りながら去っていってしまった。

 特に用事があるわけでもないし追う必要はないな。


「……」


 返り討ちにしてからでこいつに申し訳ないが、大きすぎて持って帰るのは案外だるい。

 持って帰るのは一匹だけにしておこう。




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