桜、綺麗だろ
月見里学園は幼等部から大学部までを同じ街に創り、初等部より寮を完備し、高等部のみが全寮制となっている学園である。
学園は小高い丘(一部では山とも言われ)にあり、初等部、中等部とだんだんと高い場所に建てられ、高等部が一番高い場所となり天上界(景色が綺麗なことと、行くまでに息が切れてあちら側が見える(苦笑))と言われていた。ちなみに大学部は駅に近い平坦な場所にある。
少し高い地域に建っていることと異常気象のおかげか、月見里学園高等部でも久し振りに新学期を迎える頃まで桜は咲いていた。
時間…ある晴れた金曜の午後
場所…月見里学園高等部男子寮
男子寮の階段を登っているのは、高等部2年の初瀬椎那。染めてはいない茶色の柔らかそうな髪とややきつい目をしている。彼は幼等部からこの学園に在籍し、初等部からずっと生徒会にかかわるという真面目な生徒だった。
ドアを開けると、部屋の中を心地よい風が吹き抜けた。
風が来た方向に視線をむけると、同居人の月桂蓮が気持ちよさげに窓辺に立っていた。黒色の髪が風に揺れ、猫のような目を細めて外を眺めていた。彼は高等部からの編入組で自由奔放な性格のためか、時々、椎那とぶつかることがあった。とはいえ、険悪でもなく、お互い『なんとなく理解できない』と思う関係だった。
それだけならば、いつもの風景。たが、ひとつだけ違っていることがあった。
そう、網戸が開いていたのだ。時折優しい風が桜の花びらを送りこみ、部屋の中にはいくつもの花びらが散っていた。
椎那は無言のまま窓辺まで進み、窓枠に手をかけた。
「帰ってきたら、まず『ただいま』って挨拶しなさいって習わなかった?」
蓮は呆れた表情をする。
「…ただいま」
そう言われて、律儀に挨拶を返す。
「はい、おかえりなさい。まったく、うちの同居人はしょうがないよな」
どちらがしょうがないんだか。椎那は心の中で舌を出しながら、窓枠にかけていた手に力をこめようとした。
「桜、綺麗だろ」
「君の気まぐれで部屋の中を花びらだらけにされたお陰様で、心の底から綺麗だとは言えないのが残念だよ。ちなみに、ここの掃除は蓮がするんだろうね?」
「何言ってるんだよ、今日の当番は椎那だろ?」
この言葉で椎那はキレた。いつだってこの同居人は椎那の予想のナナメ上の行動をとるのだ。まれに、いや、頻繁に自分も巻き込んで。大きくため息をついて窓を閉めようとした瞬間、強い風が彼らの部屋に多くの花びらを送り込んだ。
あまりの花びらの多さと風の強さに椎那は瞳を閉じた。
その時、不思議な声が聞こえたような気がした。




