第7話 リオンの見解
「随分可愛い天使が迷子なんだな」
これはリオンの過去。
まだ恋も知らない今から2年も前の話。
「綺麗な顔してやがる」
叔父に着替えを届けるところで、後少しで城の門が見えるというところ。
目の前には、気持ち悪いくらいの大男に呼び止められる。
ニヤニヤと口をだらしなくしている骨ばった男が道を塞ぐ。
その背後には、剣を肩に乗せて笑っている筋肉男。
壁際に追い詰められながら
ああ、自分はまた性の対象として狙われているのだと悟った。
その当時、リオンは3歳で両親を戦争で亡くし、叔父と養子縁組し養子になって25年の時だ。
母親に似た少年は、常に女性と間違えられるほどの可愛らしい容姿。
これで男だと言われても、大抵相手は信じはしない。
この天使のような容姿のせいで何度か襲われることはしばしば。
そのことも叔父は心配し、彼に魔術を学ばせた。
自分を襲う敵を蹴散らせる強い力を持つために。
それでも恐怖心が先にくると、中々呪文が唱えられない。
「ぎゃあ」
「うわあ」
そんな壁際に追いやられて窮地のところへ、黒髪の男が颯爽と現れ
彼を誘拐しようとした者達を一網打尽にした。
彼には救世主。惚れてしまうには十分な圧倒的な力と男らしい顔。
ノーマルな彼の意識は虜になった。
「好きなんです」
彼が何者なのかを調べると、魔術師であり騎士でもあり、数々の伝説を作っているという
有名な男。容姿は男女が好くだろう男らしい顔。
叔父の仕事仲間でもあり、放浪していることが多く、王から勅命の仕事が入ると
戻ってくるという謎が多い人物だった。
あちこち旅をしているせいか、あちこちの国の街や村にも彼を慕う男女が多い。
そんな男が城に戻ると聞きつける度に、何度も告白した。
「バーシスとレナンの養い子か。俺は美人系で同じ歳前後の男女が好みだ。悪いが、お子様で可愛い系は却下」
現在30歳のリオンだが、この世界で30歳はまだまだ少年。カホの世界では13歳位の見た目。
誰もがフォルティーに告白する姿が、親に子供が好きだと言っている姿にしかうつらない。
恋愛ごとだとは誰も思わないだろう。
随分とはっきりときつい言い方で何度もお断りされた。
だが、そんなことでは負けないと、彼は学習に力を入れ研究し・・・。
「パパ(レナンのこと)僕は、どうしてもフォルティー様の好きな容姿と体を手に入れたい」
「リオン。大人になれば、君も綺麗になるよ」
「今じゃなきゃ、フォルティーは他の誰かに盗られちゃうよ」
「リオン。彼とは歳の差が・・」
「僕は彼のもっとも好みの体と顔を手に入れてやる」
その後、リオンは実験をする前に国へ戻ってきていた彼に何度目かの告白をするが玉砕。
屋敷に戻り、研究室へこもると、今までの理論をまとめ、異世界召喚する決意をした。
「必ずフォルティーが好きな容姿と体を手に入れてやる」
その執念は、魔法陣を素早く描き、長い呪文を唱えさせた。
一か八かで、成功するかは全く自信はなかった。
だが、恋する男の火事場の馬鹿力としか思えない行動。
魔法陣の中間に光の球が現れ、それが徐々に大きくなって大きな音と共に女性が現れた。
「ぼ、僕、成功したんだ」
美人と言えば美人の部類に入るだろう。凄い美人ではない。スタイルはまずまず。
フォルティーが好みそうな女性だ。
彼女はリオンに何か言ってくるが、会話する時間すら惜しい。
「協力お願いします」
リオンは、自分の恋の成就の為に、過去の文献にあった魂の入れ替えの呪文を唱えてしまう。
「あ・・」
リオンが目覚めた時、辺りは薄暗くこれから1日が始まる朝だった。
魔法陣の上で、上体を起こすと目の前に天使の容姿をした自分の体が横たわっている。
「いっつ」
(体がだるい。頭も痛い。これが魂の入れ替え・・・)
しみじみと女性の体を実感する。
異世界の服装から覗く胸元。白い肌。大人の女性の体。
夢見たフォルティーの言っていた大人の女性。ほお・・と、ため息を吐くが・・
「ダメだ。力が出ない。魔力の使い過ぎだ」
ぐったりとした体は指一本動かせず、丸1日彼はそのまま眠りについた。
次に目を覚ました時、部屋はそのまま。まだ誰にも気づかれていない。
「よかった・・」
憧れの体を両腕で抱きしめる。
リオンは女性になった体を使い、フォルティーの元へ行くことしか考えていなかった。
「しまった。この異世界の服ではまずい。侍女の服を失敬するか。
女性に何が必要かも知識がなかった。うう・・・この日の為に召喚しか学んでなかった僕は
抜けている・・・」
自分で自分を叱責しながら、必要だと思うものを皮袋に詰めていく。
「馬は自分の馬で・・。今日は、確か城にいたはずだから待ち伏せしかないか。」
いろいろ考えて馬に荷物を括り付けたところで、叔父に見つかった。
彼は2日姿を見せず、行方が分からないリオンについて執事から連絡があり
急きょ仕事を休み、屋敷に戻ってきていたところだった。
「誰だ、君は」
自分の養子の所有している馬に、荷物を乗せている怪しい美人な女性。
女性だとしても盗みは許さない。そんな気持ちで近寄り
「僕だよ、パパ」
「?・・・その雰囲気はリオン?」
「そうだよ。僕、召喚と魂の入れ替えに成功したんだ」
「何?以前言っていた。好きな容姿と体を手に入れるという話か?」
何度も養い親の自分に言っていた願望の話。
「そうだよ」
「成功したのか?」
「そう。僕、こんなに上手くいくとは思わなかった」
「それじゃあ、お前の本当の体は?」
「今、僕の研究室で倒れてる。パパ、後をお願いするよ」
「ちょっと待て。行先だけでも」
馬に跨ったところで、レナンが馬の手綱を掴んで阻止。
馬が少し暴れるが、レナンの上手い手腕で直ぐに馬は落ち着く。
「決まってる。フォルティー様のところ。今、城に戻ってるはずだから行ってくる」
「待て」
「パパ、止めても無駄だよ。僕はこの体で押しかけ女房するから」
「うわ」
実の叔父に魔術を使い手を離させると、そのまま走り去って行った。
後に残されたレナンは、茫然だった。
姉に生き写しの美少年が、別の顔をした女性になったのだ。
慌てて研究室に入ると、見慣れた少年の体が横たわっている。
死んでいるのかと慌てて上体をゆっくり起こすが、目を開くことはない。
心配で胸辺りに顔を寄せ、耳を澄ますとスースーと息だけはしている。
生きている証だ。
「生きている・・。よかった」
そんな叔父と自分の体については頭になく、リオンは屋敷から飛ばしていた馬から降りると、
城の門辺りで目的の彼が出てくるのを待つことにした。
昼から出て来たので、かなり待ったと思う。
すっかり辺りが薄暗くなったところで、門から騎士達が出てくる。
馬で帰宅する者、そのまま独身寮へ戻る者の中に、旅支度をした騎士が目に入る。
「あれだ」
馬をその場で待機させ、真っ直ぐに彼に向かい飛びつく。
彼は驚いて、リオンの体を受け止めてはくれるが、リオンとは知らず
謎の女性に抱きつかれてかなり困惑していた。
「誰だ、お前」
「へへへ、僕女になったんだよ。フォルティー様」
「何?」
「貴方の子供だって産める」
抱きつかれて、フォルティーは女性の顔を無理矢理自分に向けさせ、その顔に驚いた。
「お前、言葉づかいはレナンの養い子のようだが・・この顔は?」
「ふふ。フォルティー様が好きな顔と体を手にいれたんだ」
もはや狂っているとしか思えない少年の言葉に、フォルティーは息を呑んだ。
そのやりとりは、数人の門番や兵士に見られていた。
数時間後に、養い親であるバーシスの耳に入ることになる。