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第6話  疑似体験

芋餅を作る前日の話のことだ。


「う・・ん」

カホはいつものようにリオンの部屋の2人分はある広さのベッドに入り、就寝していた。

眠りに入った途端、体が火照り暑くて寝返りを何度もうった。

(何だろう。体がどうにかなりそうなくらい)

体中がとにかく暑い。

急激に力が体に加わり気を失うようにベッドに体が沈み、次に目覚めると

どこか別の天井が見える。

(あれ?元の世界?)

はっきりと映らず、ぼんやりとした視界。


『あれ?』

目の前には黒髪の男性の姿が・・。

「リオン、1度しか言わない。最初で最後だ」

「うん」


(自分なのに、自分の声で自分でない意志が答えている)

男性はイケメンというよりは、男らしい顔だ。女性が好きそうな逞しさ。

声もかなりキュンとくる。瞳は蒼くて、神秘的な感じがする。

凄く間近に感じる顔の位置。

『えーと、どういうことなんだろう?』


裸の男が覆いかぶさってくる気配に、茫然とする。

「フォル・・」

自分の声かと思うほど甘い囁きで相手を呼び、白い両腕が相手の首へと回される行動に目を見張り

我に返る。

(今のって、いわゆる年齢制限の行い?)

「うそよ。夢だよ」

自分の体が勝手に動き、自分の聞きなれた声が甘く、自分ではありえない姿態に

かなりショックだ。





目を開けると、元のリオンの部屋のベッドの上。

(今の何。予知夢?それとも・・・今本当の私の体がピンチ?リオンが私の体でしようとしてること?)

汗をたっぷり掻いたことで起き上がり、喉の渇きも覚え

常備されている飲み水のポットが置いてあるテーブルまでよろよろと歩き、

コップに水を注いでゴキュッと喉を鳴らして水を飲みこんだ。


「はあ」


大きく息を吐き、明日の学校のことが頭を巡り、汗でべたべたするパジャマを脱ぎ椅子に掛けると

箪笥に掛けられているもう1枚のパジャマを取り出し着替える。

重い足取りで、再度ベッドへ潜り込んだ。

(夢だよ、夢。明日も学校あるし、明日考えよう)


この日の夜の出来事は、後に衝撃の事実として対峙することになる。






次の日。いつもの朝。

(昨日の夢は、ただの夢よ)

生々しい夢だっただけに、まだショックは大きい。

それでもお腹は空くわけで、常備された水を洗顔用の桶に入れて顔を洗う。

いつの間にか背後に立っていた侍女は、タオルを渡してくれて顔を拭く。

(いつもタイミングがいい頃に来るんだよな、侍女さん)

「おはようございます、カホ様」

「おはようございます、いつもグッドタイミングで、グッジョブですね」

笑顔で答えると、侍女は首を傾げた。

「ぐ?たい・・?ぐ?・・じょ?」

「いい仕事してますねという意味よ」

「はあ・・・不思議な言葉ですね」


(英語は意味通じないのね。ま、異世界だから仕方がないよね)

いろいろ試したものの、日常語として会話がスムーズに出来たのは、日本語のみだった。





「おはようございます、カホ様」

朝食が終わる頃、侍女と入れ替わりに執事が食堂に入ってくる。

「おはようございます」

「どうしました?気分でも優れないですか?」

「ええ、まあ。夢見が悪くて」

「それは、昨夜は残念なことです。夢は所詮夢です。現実を楽しんでください」

執事はいつものようにお弁当の袋をカホに手渡した。

「今日は、良い日であるように」

こちらの世界での元気づけのまじないを施してくれる。

「有難うございます」

丁寧に頭を下げると、「これが本物のリオン様であれば、本当に改心したのだと喜ぶところです」

と残念だと愚痴を吐き出す執事に侍女が頷く。


「余程リオンは、皆さんの手を焼かせるお子さんだったようね」

「本当です。両親亡きことで、私どもは甘やかせて育ててしまったこと悔いています。

ですが、カホ様のお蔭でリオン様の姿で私どもの理想の姿が見られて、実は感動していたりします」

「・・・・・。やっぱり、元に戻らなくてもいいとか思ってるでしょ」

可愛らしい天使のような姿のリオンが、カホのように真面目に努力し、我儘を言わないことが

彼らは理想としている。リオン本人が聞いたら泣き出すかもしれない、自分の家の人たちの願望。


「・・・・。戻ってくださっても問題はないです。ただ、以前のリオン様ではなく今のようなリオン様でしたら、大歓迎」

「・・・、あ、そう」

(リオン、物凄く我儘だったということがよく分かるよ。キッチンでも最初は警戒されたもの)



「さて、行ってきます」

気を取り直して、カホは元気よく屋敷を出た。






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