第4話 学校
学校の手続きが終わったと執事が知らせを持ってカホの部屋にやってきた。
今までリオンが通っていた学校から、初歩を教えていることとレベルが不安定な者達が通う学校。
「こちらがその制服です。お屋敷から歩いて15分です。明日から編入出来ます」
執事が手渡す制服をカホは受け取り、早速広げてみる。
男の子用なので、紺色のズボンに白のシャツ、ジャケットは腰までで、中に燕尾服のような薄手のジャケットを着るようだ。その上には紺色のマント。
「へえ、ファンタジーって感じの制服ね。マントがある。これ、内側にポケット作りたいな」
(ああ、凄いファンタジーらしい。周囲は現代と変わらない服装だけど、この屋敷を出ると
やはり不思議な世界だわ。屋敷から見える街並みは、昔のヨーロッパ。歩いている人は、女性はワンピースの長いバージョン着てるし、靴は革靴が主流なんだ)
気落ちしつつ趣味と実益に没頭していたカホは、少しづつ周囲に慣れるように気をつけている。
泣いて過ごしても仕方がないから、今を楽しみ、半年後には元に戻れる可能性を信じていくことに
決めたのだ。
袖を通して喜んでいるカホに、侍女達も喜んでいる。
「カホ様、少しでも魔術が使えるようになると生活が便利ですよ」
侍女達は、それほど魔力が強くないのか、普段は使わないが
それなりにいざという時使える。
「うん、そう思う。私の世界では魔法とかないもの。使えたらいろいろ便利そうね」
当日。
気持ちのよいくらいの朝。執事から弁当(サンドイッチと瓶に入った飲み物)を受け取ると
地図を受け取り学校へ向かう。初日は送るというレナン達には断わり、街並みを見学することと
道を覚えることにしたのだ。
可愛らしい容姿なので、いつものリオンと違い魔術が使えないカホは襲われる心配があるので、
実は門に入るまでは背後に執事がつけていたことは秘密だ。
屋敷は、王都より少し端側にあるが、周辺は隊長やそれに近いクラスの屋敷ばかり。
今住んでいる地区は貴族ばかりだということが、ここ数日で分かった。
(レナンさん達も貴族なんだ)
目的地は、庶民一般人が多くいる街中にある。執事が言うように15分歩いたところで学校の門が見えた。
大きな門の前には門番が立っていた。
「え~と。貴方は編入されたリオン・ラセンティス君だね」
門番の横には、教会の神父を思わせる格好の白髪交じりの男性が立っていて、リオンの姿のカホを見つけると、声を掛けてきた。
「あ、はい」
「大変だったそうだね。休暇の期間に記憶を失ったと聞いています。魔術のことも忘れているとか。
早く思い出すといいですね。君は以前通っていた学校ではかなり優秀な生徒だと聞いています。
忘れてしまったとは、もったいない話です。貴方の担任のベルディオ先生から話しは伺っています。
こちらの学校では、私達も協力しますので頑張ってください」
優しい言葉を掛けられ、本当は基礎すら知らないカホは、申し訳なくなる。
(うう、本当のリオンでなくすみません。でも、そのリオンのせいなので許してください)
門を通り抜けると庭園があり、校舎が何棟か見える。木々もあり自然と一体になった学校だ。
(凄い。初歩の初歩を教える学校って、聞いてたけど広い。大学のイメージだわ。レンガで作られている校舎とか木の校舎とか風情があるわ)
感激しながら歩いていくと、途中職員室へ寄り、担任と顔合わせし、教室へ行く話しになった。
「それでは、後は先生に任せますね。」
「はい、ボドュー校長」
「ええ~。校長先生なんですか?」
「知らなかったのか?」
「はい。すみません。有難うございました」
「ははは。それでは、またね。リオン君」
門から話をしていた男性が、実は校長先生だと知って、慌ててお礼を言って分かれた。
(まさか、この白髪交じりのおじさんが校長先生だったなんて、つゆ知らず)
「俺は担任のリューシュ・シンだ。よろしくな」
「リオン・ラセンティスです。よろしくお願いします」
茶髪イケメン先生と握手して、教室へ向かった。
(茶髪なんだけど、外人顔で、目は蒼色か。いろいろな人間がいるなあ)
ガラッと扉を開けると、大学の講義室のような部屋。
1クラス年齢も様々で、25人程。
「席につけよ。新しい生徒を紹介する。リオン・ラセンティス君だ。学習に関して記憶喪失なところがある為、そこのところは協力してくれ。仲間として、仲良くすること。」
それだけを黒板前で紹介をすると、カホに向かい挨拶するよう促した。
「あ・・と。リオン・ラセンティスです。よろしくお願いします」
頭を下げると、「よろしく」と何人かに言われて一番後ろの席についた。
早速、今日の授業内容が黒板に書かれ、授業が始まった。
この学校は、魔術があるかないか、もしくは微妙、不安定な者が集まっている。
だから年齢も様々。
幼児年齢から大人まで。
カホのクラスは、同じ世代の子供達が25人集められていた。
「リオン。俺はバラス・ラディーだ」
「私は、ユーラ・ケレン」
席に近い子供達が自己紹介して、仲間に入れてくれた。
「あ、魔術忘れてしまって迷惑掛けるけど、よろしく」
カホが笑うと、周囲も笑ってくれた。
「大変だな。せっかく何年も掛けて魔術を取得したのに、大掛かりな魔術使って記憶喪失になるなんて」
「本当。もったいない。でも、ここで頑張ればいいよ」
「うん。有難う」
早速出来た友達と打ち解け、カホには未知の世界である
初歩の魔術の使い方や文字、魔法の呪文を少しづつ覚えていくことにした。
魔法の実践の授業では、グランドに出て実際に呪文を言いながら魔力を使う。
皆が上手くいったりそうでなかったりと四苦八苦している中
見ていたカホは呪文も暗記出来ずにいた。
(TVや小説のように、口を動かして思い通りになるとか、指を一本出して思い浮かべると
出来ないものなのかしら?呪文が面倒だなあ)
物を動かす呪文を習い、目の前の箒を浮かべる子供達の中、カホはひとさし指を箒に向けて
「浮かべ」と小さく口にしてみた。
(TVや小説のようには、無理かな?)
動かない前提で試してみた。
「ええっ?」
箒が浮かび、自分のひとさし指辺りで止まる。
それをクラスの全員が息を飲んで見守った。
(呪文なしで、浮かんだ)
「どういうことなんだろ・・」
出来てしまった本人が一番驚いた。
「凄い。もう覚えちゃったんだ」
ひとりが憧れの眼差しで見てきた。
「う~ん・・。少し思い出したのかも」
慌てて言いつくろうが
「そうなんだ。もともと凄い人なんでしょ。羨ましいな」
元々、リオンは有名な学校でハイクラスの人間。忘れてしまった魔術を思い出す為に来ているということで少し距離を取られていることをようやく理解した。
(せっかく仲良くなれたのに、距離を置かれたら困るわ)
慌てて、出来ない生徒や不安定な生徒にコツを教える側に徹し、少しづつ距離を縮めた。
「頭の中でイメージしながら、呪文を言ってみて」
カホがゆっくりとタイミングを教えると、生徒たちも少しづつレベルが上がった。
「リオン。これから俺のアシスタントにどうだ?」
先生がすっかり感心している。
「いえ。まだこれから思い出さないといけないので」
「はははは。そうか、残念」
一緒にお昼を食べ、初日は楽しく過ごすことが出来た。