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夫婦の日常

夫婦の日常 #10 〜 この景色 〜

作者: 葵
掲載日:2026/09/11

今日は土曜日。


時刻は……朝の7時32分。


私はまだベッドの上で、夫のイビキを聞いている。


土日って、朝はあんまり人多くないだろうなぁ。


んん……決めた。


「陽ちゃーん、もう9時半だよ。

仕事始まっちゃう。」


ちょっとだけ嘘を交ぜて、陽介の肩をユサユサと揺らしてみる。


「ん……。


いや……よくわかんないよ。

今日土曜日。


ていうか、今家だし。」


あ……。


陽介の目はまだ閉じたまま。


「ねーねー、今日はさぁ、

バスで出掛けたい。」


「なんで?どこに?」


「じゃあ……電車乗りに。」


「……。」


「じゃあさ、バスに乗って……電車でどこ行くか考えよう?」


「考えてから行くんじゃダメなの?」


「ダメ。」


「今何時?」


「今ねぇ、7時41分。」


「……早いなぁ。」


「今日は天気いいよ。」


「……。」


グダグダとした会話を終えた後、


私たちは、今、バス停に向かって歩いている。


「バス、何人くらい乗ってるかなぁ。

いつも車だから、なんか新鮮だね。」


「……そうね。」


陽介は、ちょっと面倒臭そうに返事をしてくれる。


バス停に着くと、2人。

待っている人がいる。


一人は大学生くらいの女の子。

もう一人は、スーツ姿なので、会社員ぽく見える。


なんというか、ちょっと気だるい雰囲気。


数分待っていると、駅に向かうバスが到着した。


私たちは、順番にバスに乗り込んでいく。


「大人二人。」


夫がICカードで支払いを済ませる。


子供の頃は、


バスの運賃箱に入った100円玉は、ベルトに乗ってどこに行くんだろう。


そんなことを考えながら、眺めていたことを思い出した。

500円玉しかない時は、なんとなくドキドキしたなぁ。


「はい、どうぞぉ。」


バスの中は、

今日は、なんか広い……。


人が乗ってないからだ。


「すごい。一番後ろの席行こう。」


「はいよぉ。」


「なんかさ、一番後ろの席に座りたい年頃って、あったよね。」


「いつ?」


「私が覚えてるのは……小学生と、高校生の頃かな。」


「あぁ……。」


「しかもさぁ、後ろに座れなかった上に、別の席で通路側になった時、

ものすごい悲しいよね。

かといって、なんか強く言えなくて、譲っちゃうんだけど。」


「うん……よくわかんないな。」


バスに揺られているうちに、席はだいぶ埋まってきた。


プーっ。


そしてまたバスが止まった時、一人のお婆さんが杖をついて乗車した。


あ、席がない。


「ねぇ……。」


「何?」


優先席ではない座席に座っている女性が、席を立った。

お婆さんに声をかけている。


少し言葉を交わすと、女性がお婆さんに席を譲っている。


その女性は、大きなトートバッグを持っていて、

荷物は重そうだ。


女性は、肩にかかったトートバッグを少し持ち直して、

腕時計の時間を見ている。


はぁ……。

重そうだなぁ。


「今日は後ろの席じゃなくてよかったかも。」


「なんで?」


「……なんとなく。」


「そう。」


駅に着いて、私たちもバスを降りる。


「どこ行こうか。」


「うん。」


「行きたいとこないの?

あぁ、電車乗ってどこ行くか決めるんだっけ。」


「じゃあ、映画。」


「なるほど、普通だ。

まぁ朝早いから映画くらいしかないか。

え……電車は?」


「うん、電車やめた。

普通でいいや、今日は。」


なんとなく、遠足気分という感じではなくなったし。


「電車は普通じゃないんだ?」


「うん。」


映画選びは陽介に任せて、

私はポップコーンとジュースを買いに売店へ行った。


「ポップコーン塩味Mサイズを一つと……セブンアップ2つお願いします。」


買った後、夫のそばに戻ると、


「なんかポップコーン、結構でかいね。」


「ね。」


「ん?透明だね。

コーラがいいって言わなかったっけ?」


「セブンアップ美味しいよ。

私、映画館でしか飲んだことない。」


夫が一瞬止まって、吹き出した。

二人で顔を見合わせたら、私も吹き出してしまった。


陽介が見たかったと言っていた映画のわりに、

後半には、寝息がイビキになりかけていた。


「陽介、映画終わったよ。」


「あ、はい。」


「面白くなかった?」


「面白かったよ。」


……。


私たちは、少し駅の中をぷらぷらと歩いた。


「なんか甘いお菓子みたいないい匂い。」


「あぁ、近くにマフィン売ってる店ができたんだよ。」


「バナナマフィン買ってくる!」


「バナナがあるかわかんないよ。」


「じゃあ、紅茶マフィン!」


「あぁ……荷物になるから帰りにしよう。」


「……。」


こんなにいい匂いなのに。


「あ、観葉植物あるよ。

うちにもあった方がいいんじゃない?」


「すぐ枯れちゃうじゃん。

うちは風通し良くないからかなぁって、恵が言ってたよ。」


そうだ。

前に枯れちゃったことあったんだ。


「そうだね。」


あ、あの陶器製のお鍋いいな。


「ねぇ陽介、あれ見て。

色もかわいいよ。」


「あぁ、ネットでも売ってたね。

でも鍋に困ってないよね?」


「……あれは、ポトフだね。」


「ポトフ専用なんだ?」


「シチューでもいいかも?」


「じゃあ、カレーでもいいのか。」


「カレーはやめた方がいいと思う。」


「難しいな。

……今日は荷物重くなるしやめよう。」


「……。」


車だったら、買ってもよかったのかな。


「少しお腹空いてきたね。恵は?」


「うん。」


喉も乾いて、おしゃれっぽいカフェで、パスタを食べることに。


店の中は、土曜日だからかな。

結構混んでる。


ガヤガヤした店の中の音と少し湿気のある店内に、少し酔いそうな感じ。


「恵、なんか顔白いよ?大丈夫?」


「……うん、多分大丈夫。」


食事が終わった頃には、少し店の中も静かになった。


食後のコーヒーを飲み終えて、ぼーっとしていると、


店員さんから声をかけられた。


「デザートのご注文はいかがですか?」


「あ、大丈夫です。もうお腹いっぱい。」


笑顔で答えると、店員さんもにっこり笑ってくれる。


「それでは、こちらもお下げしちゃいますね。」


「あ、はい。」


コーヒーカップも下げるのね。


店員さんが去った後、夫が言った。


「何にもなくなったね。」


「ね。」


すると、また同じ店員さんが、


「お冷、交換しますね。

おしぼりも温かいものをご用意しましたので、

よろしければどうぞ。」


「あ、ありがとうございます。」


「ごゆっくりどうぞ。失礼致します。」


そう言って、店員さんはにこやかに戻っていく。


「なんか、いいね。」


私が声をかけると、夫は、


「……そうかな。」


そう言って、おしぼりでゴシゴシと顔を拭いている。


何それ。

私も、拭いちゃいたい。


スッキリした顔で、スマホをいじりながら、夫が言った。


「帰る?」


「……。」


「じゃあ、マフィン買って帰ろうか。」


「うん!」


帰り道、陽介が言った。


「次は電車に乗って、駅弁食べようか。」


「んん……そのうちね。」


「電車乗りたかったんだよね?」


「んん……天気よかったから、いいの。」






最後までお読みいただき、ありがとうございました。



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