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校正者のざれごとシリーズ

校正者のざれごと――「10時10分前」は10時9分ですか?

作者: 小山らいか
掲載日:2026/06/24

 私は、フリーランスの校正者をしている。

「あのさあ、薄めて飲むカルピスって飲んでみたいんだよね」

 私が仕事をしていると、ふいに下の子が話しかけてきた。「お母さん、知ってる?」

 ――薄めて飲むカルピス? カルピスって、薄めて飲むものじゃないの?

 そう思いかけて、はっと気づいた。下の子の世代はすでにペットボトルのカルピスウォーターやカルピスソーダに親しんでいて、確かに家でカルピスの原液を薄めて飲ませたことはない。……そうか、この子たちはあれを知らないのか。


 常識だと思っていたことが、そうではないと気づかされることがある。

 ――10時10分前って、何時?

 そんな記事が目に留まった。「え、9時50分だよね?」と思いながら読んでいくと、驚くべき内容が。「9時50分と回答する人が多いなか、10時8分、9分と回答する人もみられた」とのこと。とくに若い世代に「10時10分の少し前」と答える人が多いという。 

 いやいや、10時の10分前なんだから9時50分に決まってるでしょ。そこで、さっそく下の子に聞いてみた。すると、ちょっと嬉しそうに答える。

「そうそう、それ、ネットで話題になってるんだよ」

 初めて聞いたとき、下の子は「10時8分くらい」だと思ったのだそうだ。一般的には9時50分を表すのだと知り、検索してみた。すると、どちらの意見もあってちょっとした話題になっていた。自分はそう言われたときは、どちらの意味か必ず確認しているという。

 今回も、NHK放送文化研究所の「最近気になる放送用語」の記事を確認。


 ――「9時10分前」は、大半の人は『8時50分』のことだと考えます。ところが、これ以外に『9時10分より少し前』(たとえば9時9分ごろ)という意味もありうるととらえる人が、少なからずいるのです。「9時前」というのが9時になる数分前のことを指すように、「9時10分前」も9時10分になる手前の時刻・時間帯を表すという考えによるものです。


 なるほど、そういう考え方もあるのか。NHKではアンケートも行っていて、「9時9分ごろ」という解釈を認める人はやはり若い世代に多く、さらに地域別では四国に多いという。言葉をなりわいとする身として、こういうことには敏感でありたいと思う。


 もうひとつ、気になった表現がある。

 ――1万円弱って、いくら?

 もちろん、9,800円くらいだよね。ところが、これにも違う解釈があるという。

 下の子は「1万円よりちょっと少ないくらい」と答えた。うんうん。ちょっと安心。続いて、別のタイミングで上の子にも確認。「1万円弱って……」すると、いたって真面目な顔でこう答えた。

「10,800円か、まあ11,000円くらいまでかな。12,000円だったら言わないよね」

 ――え? 

 そう、ネットで目にした記事には、「1万円弱」は「1万円を少し超える金額」、つまり「1万円と、プラス弱(少し)」と考える人もいる、とあったのだ。実際に、上司に「1万円弱で取引先へ持っていく品を買ってきて」と言われ、1万円を超える金額のものを買ってしまい怒られた、などというエピソードが紹介されていた。

「1万円未満/以下」ならこういった誤解は起こらないはずだ。では「1万円弱」と対になる「1万円強」という表現を並べたら、どういった解釈になるのか。

 これもNHKの記事から引用する(記事は1000円の場合)。


 ――両方とも1000円以上だが、「1000円弱」は1000円を少し超える金額で、「1000円強」は1000円よりもかなり高い金額を表す。


 さあ、どうだろうか。これも10代、20代で2割ほどの人が支持している。そしてこの傾向は、「1時間弱」や「7割弱」などの表現にも見られるという。

 もちろん、どちらも辞書で調べれば「10時10分前」は「9時50分」だし、「1万円弱」は「1万円より少し少ない金額」だ。でも、言葉は時代とともに変化する例もある。

 たとえば、「新しい」という言葉。「新た」と書くときは「あらた」と読むのに、「なぜ「あたらしい」になるのか。これは広辞苑〔第2版〕にこのような記述がある。


 ――あらたし【新し】(平安時代以後アタラシ(可惜)と混同)あらたである。あたらしい。

 ――あたらし【可惜し】(平安時代以後「あらたし」と混同した)このままにしておくのは惜しい。


 つまり、「あらたし」が「可惜あたらし」という言葉と混同されて読みが変化した、ということになる。言葉は時代によって変化する、ひとつの例かもしれない。


 先の質問を夫にもしてみた。「いやいや、別の解釈なんてありえない」と瞬殺。

「英語にしたらわかるよ。10時10分前は10 minutes before 10:00 でしょ?」

 英語が堪能な彼ならではの理論だ。Ten to tenともいうらしい。でも、英語も日本語のように世代によって解釈が変わったりしないのかしら。NHKさん、いかがでしょうか。


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― 新着の感想 ―
英語は私の母語ですが、日本語の「10時10分前」は普通に混乱します。 10時→10:00 分かる 10時10分→10:10 分かる 10時前→before 10:00 分かる 10時10分前→9:50…
日本語は難しいですね。 学生の頃、ボードゲームのルールもあいまいな所は英語版を見た方が判る、と言っていた友達のことを思い出します。 10時10分前ですが、10時「の」10分前、か、10時10分「の」…
内容面白かったです。少し考えてみました。 話の内容や話の前後でも変わるかもしれませんが、言葉の切る場所が大事なのかと思いました。 ・じゅうじ/じゅっぷんまえ  これは十時と十分前で分かれてるので10…
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