引っ越し祝い……
「これは、俺の先輩の話なんだけどさーー」
「いきなりどうしたんだよ。桂木君」
「いやーー、ほら。この絵を見て思い出したって言うかさ」
半年前、バイト先で仲良くなった桂木保は……。
リビングにある絵を見ながら話し始める。
「いや、やっぱりやめとくわ。引っ越し祝いの夜には相応しくないからさ」
「待って、待って。相応しくないってどうしてだよ」
「いやーー。先輩さ。行方がわからなくなったんだよな」
「行方不明ってこと?」
「そうなんだよ。こんな風な絵をお祓いしてもらうとか何とか持って行ってさ。帰ってこなくなったんだよ」
「どんな絵か写真とか」
「あーー、あるよ。引っ越した時に撮ったからさ」
「見せてくれない?」
「いいぞ」
桂木君に写真を見せてもらおうと思ったのは、もしかすると同じ絵なのではないかと思ったからだ。
「これだよ」
「違う……」
「あっ?あーー、違う、違う。これは、白い花だし。こっちは紫っぽい花だろ。どうした?」
「いえ、別に」
「でもあれだよなーー。この下にほら、Dって入ってるから。作者は、男だったのかなーー」
D……。
その言葉に胸がざわめく。
これは違う絵じゃない。
同じ絵だ。
書かれている花が違うだけ。
だとしたら、僕も死ぬのか?
ーーいやいや。
死ぬはずはない。
だって、僕はこの絵をはずしたりしないし。
お祓いに持って行くことはない。
「栄野君さ」
「何?」
「これってどこで買ったんだ?」
「えっ……これ?これは、その」
「もしかして、前の住人の忘れ物か?」
桂木君の言葉に首を縦に振る。
「じゃあ、じゃあ。まさか」
桂木君は立ち上がって絵を見に行く。
「こ、この絵もDの書いたものだ」
「知っているよ」
「じゃあ、すぐにはずさなきゃ」
「いやいや、はずさないでくれって言われているんだよ」
「誰に?」
桂木君の言葉に僕は「不動産屋」と答えた。
そしたら、桂木君はガタガタと震えだし。
床にゴトッとスマホを落とす。
「どうしたんだよ、桂木君」
「驚かないでくれよ」
「驚く?」
「ああ」
「どうしたんだよ、青白い顔して」
「せ、先輩は……」
桂木君の言葉に手に持っていたワイングラスを床に落としてしまう。
小さくパリンと言ってグラスが割れ、床にワインが流れる。
体が小刻みに震えてくる。
この絵の謎を解かなければ、僕は……。
「話してくれないか?先輩の話を……」
「わかった……わかった。話をするよ。落ち着けって」
血走った目を桂木君に向けているのがわかる。
だけど。
話を聞いて、謎を解かなければ。
僕は……僕は……。
死ぬんだ。




