7-1
結局、学園を襲った未曾有の事件の後処理と、破損した結界や校舎の修復のため、学園は一週間の臨時休校となった。
そして一週間後の今日、ようやく授業が再開される。
「おはよう」
教室の扉を開けると、そこには既に見慣れた光景が広がっていた。
自分の席に座ると、前の席のレオンハルト、隣のセリウスが振り返る。
「おう、まふゆ。おはよう」
「おはよう、まふゆ。よく眠れたかい?」
レオンハルトの快活な声と、セリウスの穏やかな声に、まふゆは「うん、おはよう」と微笑んで頷いた。
あの日の恐怖は、まだ心の隅に小さな染みのように残っている。けれど、こうして二人の顔を見ると、不思議と心が安らいだ。
背後から、布が擦れる微かな音。振り返るまでもなく、ミカゲがそこにいるのが分かった。
彼は何も言わず、ただ静かに自分の席に着く。その気配が、今は何よりも頼もしく感じられた。
「それにしても、いきなり一週間も休みになるとはな。まあ、おかげでゆっくりできたが」
「兄さんは少し休みすぎだと思うけどね……。僕は溜まってた読書が進んで良かったかな」
他愛のない会話。
つい先日まで、命の危険に晒されていたとは思えないほど、穏やかな時間が流れる。
だが、誰もがあの日の出来事を忘れたわけではなかった。
「……昇級試験、どうなるんかな」
まふゆがぽつりと呟くと、レオンハルトが「ああ、それな」と腕を組んだ。
「多分、近いうちに再開されるだろ。俺たちはいつでも行ける。そうだろ?」
その言葉に、セリウスもミカゲも静かに頷く。
あの事件で、自分たちの未熟さを痛感した。もっと強くならなければ、大切なものを守れない。その想いは、四人全員が共有していた。
やがて、始業のチャイムが鳴り響く。
教室に入ってきたのは、古代魔術史担当のエドウィンだった。彼はいつもと変わらない、穏やかで優雅な笑みを浮かべて教壇に立つ。
「皆さん、おはようございます。大変な一週間だったね。だけど、今日からまた共に学んでいこうか」
その声に、教室内の女子生徒たちから安堵のため息が漏れる。
だが、まふゆとミカゲだけは、その笑顔の裏に隠された冷酷な本性を知っている。まふゆは無意識に、ぎゅっとスカートの裾を握りしめた。
「さて、今日の授業だが──」
エドウィンが教科書を開いた、その時だった。
彼の視線が、ふとまふゆに向けられる。
その緑色の瞳の奥に、一瞬だけ、あの日のような粘つくような執着の色が過ったのを、まふゆは見逃さなかった。
ぞくり、と背筋に冷たいものが走る。
隣のセリウスが、心配そうに「どうしたんだい、まふゆ?」と小声で尋ねてきたが、まふゆは「ううん、なんでもない」と力なく首を振ることしかできなかった。
戦いは、まだ終わっていない。
むしろ、これから始まるのだ。
まふゆは気を引き締めるように、まっすぐ前を向いた。平穏に見える日常の裏で、静かに燃える闘志を胸に秘めて。




