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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第六話 少女らは救われる
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6-9




「み、ミカゲさん……」


恐怖と、そして絶体絶命の状況を覆した安堵から、まふゆの瞳からぽろりと涙が零れ落ちる。


しかし、彼女はすぐに唇をきゅっと結んだ。

泣いている場合じゃない。ミカゲが自分のために、たった一人で戦ってくれている。


「……攻撃力増強魔法、ストレングス!防護魔法、セイクリッドシールド!」


まふゆは震える手を前に突き出し、祈るように叫んだ。

彼女の体から溢れ出した純白の魔力が、二条の光となってミカゲに注がれる。


その瞬間、ミカゲの全身に変化が起きた。

黒い短剣が、まるで闇そのものが凝縮されたかのように、さらに深く、鋭い輝きを放ち始める。そして彼の身体の周りには、うっすらと聖なる光の膜が張り巡らされた。


「……!」


ミカゲが、己に満ちる力にわずかに目を見開く。


「グオオオオッ!!」


ミノタウロスは、獲物を横取りされた怒りから、戦斧をさらに強く押し込んできた。

先ほどまで拮抗していたはずの力が、信じられない力で押し返される。




「……邪魔だ」


ミカゲは低く呟くと、まふゆの白魔術で増強された力で戦斧を弾き返した。

巨大なミノタウロスの体勢が、いとも簡単に崩れる。


ミカゲはその隙を逃さない。

彼は一瞬でミノタウロスの懐に潜り込むと、獣の心臓を目掛けて、漆黒の軌跡を描くように短剣を突き立てた。


「グル……ア……」


紫色の狂気に満ちた光が、ミノタウロスの瞳から急速に消えていく。

巨体は力なくその場に崩れ落ち、やがて塵となって消滅した。




……静寂が戻る。

ミカゲは返り血一つ浴びていない短剣を静かに振るうと、ゆっくりと振り返り、まふゆを見つめた。


その黒い瞳には、安堵と、そして彼女の特異な力に対する、より深い執着の色が浮かんでいる。


「……立てるか」


その問いに、まふゆはふるふると弱々しく首を振った。


「ご、ごめんなさい……立てへん……」


恐怖で全身の力が抜けてしまったのか、それとも安堵で腰が抜けてしまったのか。


まふゆは情けなく呟き、その場にぺたんと座り込んだまま、ミカゲを見上げる。

菫色の瞳にはまだ涙の膜が張られていて、今にもまたぽろりと零れ落ちそうだった。


その弱々しい声と、助けを求めるような眼差しを受けて、ミカゲは一瞬だけ黙り込む。


彼は感情を見せない。だが、その黒い瞳の奥で、守るべき存在に対する強い庇護欲と、彼女の無防備な姿に対する独占欲が静かに燃え上がっていた。




「……仕方ない」


ミカゲは短くそう言うと、短剣を鞘に収め、まふゆの前に屈みこんだ。


そして、何のためらいもなく、彼女の膝裏と背中に腕を差し入れると、軽々とその体を横抱きにした。いわゆる、お姫様抱っこという体勢で。


「ひゃっ……!?み、ミカゲさん!?」


突然の浮遊感に、まふゆは驚いて短い悲鳴を上げる。

思わずミカゲの首にぎゅっとしがみつくと、彼の首筋から、いつもと同じ、けれど今はひどく安心する匂いがした。


「暴れるな。落ちるぞ」

「で、でも……!重い、やろ……!?」

「……羽根みたいに軽いだけだ」


ミカゲは事実を告げるように淡々と言うと、まふゆを抱きかかえたまま、危なげない足取りで立ち上がる。


「大講堂へ向かう。他の奴らも、そこを目指しているはずだ」


そう言って歩き出すミカゲの胸の中で、まふゆは顔を真っ赤にしながらも、彼の体温と力強い腕の感触に、どうしようもないほどの安心感を覚えていた。




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