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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第六話 少女らは救われる
83/125

6-7




シャノンはセリウスの手を振りほどき、舌打ちしながら廊下の奥へ駆け出そうとした。




──その瞬間だった。


床に広がっていた影が、不自然に蠢く。


「……っ!」


嫌な予感が走った刹那、影の中から紫色の魔力が噴き上がり、異様に歪んだゴブリンが二体、ほぼ同時に跳び出してきた。


「チッ……!ほんっと、しつこいんだから……!!」


シャノンは即座に迎撃し、一体の顎を蹴り上げる。だが、もう一体が死角から振るった刃が、彼女の脇腹を浅く掠めた。


「くっ……!」


浅い傷。だが、確実に体勢を崩される。

さらに奥から、重い足音が聞こえた。さっきまでとは比べ物にならない、明らかに強化された個体が姿を現す。


紫色の魔力を纏い、知性を感じさせる不気味な視線でこちらを見据えていた。


「……ちょっと、流石に、数……多すぎ……」


シャノンは息を荒くしながら構えるが、さっきの一撃で動きが鈍っている。その隙を逃さず、強化個体が腕を振り上げた。




──間に合わない。

そう判断した瞬間。




「やめろォォ!!」


セリウスが、叫びながら前に出た。

短剣を抜き放ち、震える腕で突き出す。刃は浅く、だが確かにゴブリンの腕に突き刺さった。


「ギィッ……!」


怯んだ、その一瞬。セリウスは歯を食いしばり、全身でシャノンを突き飛ばした。


「今だ、下がって!!」


次の瞬間、強烈な衝撃がセリウスの背中を打つ。壁に叩きつけられ、息が詰まった。


「……っ、ノセ!!」


シャノンは目を見開く。倒れ込んだセリウスの前に立ち、爪を構えた。その背中は、小さく震えていたが──逃げなかった。


「……なんで、出てきてるのよ……!」

「君一人にやらせる訳にはいかないだろ……!僕だって男なんだ……っ!」


掠れた声。それでも、視線は逸らさない。

シャノンは一瞬、言葉を失った後、舌打ちする。


「……馬鹿。ほんっとに馬鹿。ノセのくせに」


そう言いながらも、彼女の尻尾はぴんと立ち、その身から放たれる殺気が一段階跳ね上がった。


「でも……悪くないわ」


次の瞬間、彼女は獣のように踏み込み、残っていたゴブリンの喉元を正確に切り裂いた。




荒い呼吸の中、シャノンは振り返り、壁際で苦しそうに咳き込むセリウスを睨みつける。


「……あんた、自分が何したか分かってる?」

「……うん。無茶、した……」


それでも、とセリウスは続ける。


「……でも、僕は誰も失いたくないんだよ……」


シャノンはしばらく黙っていたが……やがて小さく息を吐いた。


「……分かった。もう一人で行かない」


彼女はセリウスに手を差し出す。


「大講堂に向かうわ。結界がまだ生きてる可能性が高い」

「……まふゆも、そこに……?」

「ええ。人の流れ的にも、可能性は一番高い」


セリウスはその手を力強く掴み、シャノンの助けを借りて立ち上がった。


「……行こう。まだ、間に合う」


二人は頷き合い、再び廊下を駆け出す。今度は、一人ではなかった。互いの背中を守りながら、一番可能性の高い場所へと。

彼らの頭には、同じ少女の顔が浮かんでいた。




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