6-5
一方セリウスは、人の流れが消えた廊下を一人、駆けていた。
「……まふゆ……どこだ……!」
胸の奥が、嫌な音を立てて締め付けられる。
呼びかけても返事はない。自分の足音だけが、やけに大きく耳に残った。
焦りが、冷静なはずの思考を鈍らせていくのが分かる。
結界が破られたという異常事態。魔物が侵入している現実。
分かっているはずなのに、今のセリウスの頭の中には、はぐれてしまったまふゆの姿しかなかった。
「……っ!」
背後から、ぞわりと肌を撫でる嫌な気配。
振り向くより早く、鈍い風切り音が空気を裂いた。反射的に身を捻ったが、完全には避けきれない。
ガンッ、と背中に鈍い衝撃が走り、セリウスは壁に叩きつけられる。
「ぐっ……!」
視界の端で、紫色の瞳がぎらついた。
ゴブリン。しかも一体ではない。三体。
統率された動きで、じりじりと包囲網を狭めてくる。
(しまった……!)
まふゆのことばかり考えていて、周囲への注意が完全に逸れていた。
腰の短剣に手を伸ばすが、体勢が悪い。次の一撃が来れば、間に合わない。
絶望が脳裏をよぎった、その時だった。
「……っ、なにボサッとしてんの!」
鋭い声と同時に、しなやかな獣の影が横から飛び込んできた。
セリウスに棍棒を振り下ろそうとしていたゴブリンの一体が、横殴りに吹き飛ばされる。
月光を思わせる爪が閃き、もう一体の喉元を正確に引き裂いた。
「えっ……?」
呆然とするセリウスの前に立ったのは、桜のような薄ピンクの髪を持つ少女。
ぴんと逆立った尻尾、低く構えた戦闘態勢。獣人の少女、シャノンだった。
「チッ……ザコの癖にしつこい!!」
残る一体がシャノンに襲いかかるが、彼女は怯まない。
床を蹴り、体を独楽のように回転させながら強烈な蹴りをゴブリンの側頭部に叩き込む。
骨の砕ける嫌な音が響き、魔物はそのまま動かなくなった。
……静寂が訪れる。
セリウスは、遅れて浅い呼吸を繰り返した。
「……助かった……」
「あんた、そんな顔するほど余裕なかった訳?」
シャノンは腕を組み、呆れたようにため息をつく。
だが、その視線は一瞬だけ、セリウスの無事を確かめるように上下に動いた。
「……!そうだ、まふゆを、まふゆを探さないと!」
突如、セリウスが思い出したかのように叫ぶ。
自分の失態で、まふゆを探す貴重な時間を無駄にしてしまったのだ。
「はあ!?あんたみたいなのが探しに行ったところで返り討ちにされるだけ!今だってあたしに守られたじゃない!馬鹿じゃないの!?」
「でも、だけど!まふゆは戦えないんだ!早く行ってやらないと……!!」
セリウスの悲痛な叫びに、シャノンは再度深いため息をつく。
「……あんたじゃ無理。あたしが探しに行く」
「……!何を言ってるんだ!君は女の子だろう!?一人じゃ無茶だ!」
セリウスは思わずシャノンの腕を掴んで引き留める。
「それでもあんたが行くよりマシ!さっさと見つけてきてやるから離し────」




