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レオンハルトは、息を切らしながら廊下を駆けていた。
「……くそっ、まふゆ……!」
生徒の流れを整理し終えた瞬間から、彼の頭の中はそれだけだった。
結界の軋む音、遠くの咆哮。嫌な予感が、胸の奥で黒い渦のように膨れ上がっていく。
────いない。
どこにも、あの小さな背中が見えない。
歯を食いしばり、角を曲がったその時だった。
「……ひっ」
か細い、喉の奥で潰れたような声。
聞き覚えのある声に、レオンハルトは弾かれたように視線を向けた。
視線の先、半壊した廊下の影で少女が壁に背をつけて蹲っていた。
浅黒い肌に、銀色の髪。────リリアだ。
彼女の前には、二体のゴブリン。
学園の外でうごめいていたのと同じ、歪んだ紫の瞳を爛々と光らせ、獲物をいたぶるようにじりじりと距離を詰めている。おそらく、結界の破損箇所から侵入してきたのだろう。
「や……やだ……来ないで……。あーし、食べても、美味しくないし……」
リリアは震える腕で頭を抱え、ただ怯えることしかできずにいた。
ダークエルフでありながら戦闘が苦手だという彼女は、今、なすすべもなく絶望的な状況に追い込まれていた。
ゴブリンの一体が、げへへと下卑た笑い声を上げながら、汚れた棍棒を振り上げる。
「────させんっ!!」
ゴブリンが棍棒を振り下ろすよりも早く、雷鳴のような怒声が廊下に響き渡った。
レオンハルトは一瞬で距離を詰めると、腰の大剣を抜き放ち、リリアを庇うようにその前に立ちはだかる。
ガキンッ!!
振り下ろされた棍棒を、大剣が無造作に受け止める。衝撃で火花が散るが、レオンハルトの体は微動だにしない。
「レ、レオンハルト様……!?」
絶望の淵にいたリリアが、信じられないものを見るように顔を上げる。その瞳には、安堵と恐怖が入り混じった涙が浮かんでいた。
「……下がってろ、リリア。こいつらは俺がやる」
レオンハルトは振り返ることなく、低い声で告げる。
その背中は、どんな城壁よりも頼もしく、リリアの目に映った。
「グギャ!?」
レオンハルトは棍棒を弾き返すと、そのまま流れるような動きで大剣を横薙ぎに一閃する。
ゴブリンの一体は抵抗する間もなく胴体を両断され、断末魔を上げる暇もなく紫の光の粒子となって消滅した。
「ギギッ!?」
仲間が一瞬で屠られたのを見て、もう一体のゴブリンが怯んで後ずさる。
「逃がすかよ」
レオンハルトはその隙を見逃さない。床を蹴り、一気に間合いを詰めると、逃げようとするゴブリンの背中に向かって、容赦なく大剣を突き立てた。
ゴブリンは悲鳴すら上げられず、先ほどの仲間と同じように光となって霧散した。




