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「……ふう。為になる授業やったね」
一限目が終了し、まふゆは教科書を閉じながら言う。
「そうか?俺には退屈なだけだったけどな」
前の席から、レオンハルトが大きく伸びをしながら振り返る。
「兄さんは昔からこういう座学は苦手だったからね。でも、確かに有意義な内容だったよ。特に、エルフ族の魔術体系の変遷については興味深かった」
隣のセリウスが、ぱたんと教科書を閉じながら同意する。その横顔は、知的好奇心を満たされたように満足げだ。
「まふゆは熱心にノートを取っていたな。わからないところはなかったか?」
レオンハルトが兄貴分らしく、屈託のない笑顔で尋ねてくる。
……ふと、背後からかすかな衣擦れの音がした。
ミカゲが何か行動を起こしたのかと思ったが、彼は相変わらず静かに座っているだけだった。ただ、まふゆが「為になる授業やった」と呟いた瞬間、彼の纏う空気がほんの少しだけ和らいだような気がした。
「……あの教師は、気に入らないがな」
レオンハルトが、教壇で次の授業の準備をしているエドウィンを一瞥し、忌々しげに付け加えた。
「次は……戦闘基礎学。場所は第一訓練場……移動せなあかんのやね」
時間割を見ながらまふゆは呟く。
戦闘、という言葉に、まふゆは少しだけ不安を覚えた。
治癒や支援は得意だが、自分が戦う姿は想像もつかなかった。それでも、この学園で生きていくためには必要なことなのだろう。
「次は訓練場か。座学よりは性に合ってる」
レオンハルトが席を立ちながら、気持ちよさそうに身体を伸ばす。
「まふゆ、訓練場は少し離れているから、一緒に行こう。迷うといけないからね」
セリウスが優しく声をかけ、立ち上がる準備を促す。
まふゆが「はい」と頷いて立ち上がると、いつの間にかミカゲも音もなく席を立っていた。
彼は何も言わないが、三人が移動するなら自分もそれに続く、という意思表示のようだった。
教室の前方では、他の生徒たちもぞろぞろと移動を始めている。
その中で、桜色の髪をした猫族の少女……シャノンが、ちらりとこちらを見て、すぐにぷいと顔を背けるのが見えた。




