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「……えっ?」
まふゆは、自分の肩を掴む三つの手の感触と、三方向から注がれる真剣な眼差しに、ただただ困惑するばかりだった。
レオンハルトの力強い自信に満ちた瞳。
セリウスの穏やかでありながら決して譲らないという意志を秘めた瞳。
ミカゲの感情を表に出さないながらも、底知れない執着を感じさせる瞳。
三人の間に、パチパチと目に見えない火花が散ったような錯覚さえ覚える。
(な、なんやの、この空気……!?)
ただ、ユキロンが食べたいと、ほんの少し思っただけなのに。事態はまふゆの想像をはるかに超えた方向へと転がっていた。
三人の視線は、もはやユキロンではなく、互いを牽制するように交錯している。
その中心で、三人に肩を掴まれたままのまふゆは、まるで人質か何かになったような気分だった。
「ちょ、ちょっと待ったー!なにその雰囲気!面白そうじゃん!」
状況を面白がったリリアが、目を輝かせて割り込んでくる。
「……あんたたち、食べ物一つでみっともないわね」
シャノンは呆れ顔だが、その目は興味津々に三人の男たちを観察していた。
「み、皆さん、あの……!うちは、大丈夫やから!そんな、気ぃ遣わんといてください!」
まふゆは慌てて三人の手を振りほどこうとするが、がっちりと掴まれた肩はびくともしない。
「気遣いじゃない。俺が、お前に食わせてやりたいだけだ」
レオンハルトが、有無を言わさぬ力強い口調で言う。
「そうだね。僕も、君の喜ぶ顔が見たい。それだけだよ」
セリウスも、柔らかな物腰を崩さずに言い切った。
「……あんたが、食いたいんだろう」
ミカゲは、ただ事実を述べるように、静かに告げる。
三者三様の言葉は、どれもまふゆを思ってくれているのが伝わってくる。
それが嬉しい反面、どうしていいかわからない困惑が勝ってしまう。
三人に買ってもらうわけにはいかないし、かといって誰か一人を選ぶなんて、とてもじゃないができない。
(ど、どないしたらええの……!?こうなったらもう、ユキロンは諦めるしか……!)
まふゆが涙目でそう決意を固めかけた、その時だった。
「……まったく、男どもはこれだから。貸しなさい」
すっと横から伸びてきたシャノンの手が、まふゆの鞄から小さな財布を抜き取った。
そして、自分のポケットから数枚の銀貨を取り出すと、まふゆの財布の中にじゃらりと入れる。
「えっ、シャノンさん!?」
「あっ、あーしも貸すよー!これで足りるっしょ!」
リリアも、自分の財布から小銭を出すと、シャノンに倣ってまふゆの財布に入れた。
「これで、誰の奢りでもない。あんたが自分の金で買うのよ。……違う?」
シャノンは、そう言うとまふゆに財布を返し、三人の男たちをキッと睨みつけた。
そのあまりにも鮮やかでスマートな解決策に、レオンハルトたち三人は虚を突かれたように目を見開き、そしてバツが悪そうにまふゆから手を離した。
「……確かに、その通りだな」
「……一本取られたね」
「……チッ」
まふゆは、手の中に戻ってきた、少しだけ重くなった財布と、仲間たちの顔を交互に見つめる。
そして、胸の奥から温かいものがこみ上げてくるのを感じた。
「……!おおきに……!」
潤んだ瞳で礼を言うと、まふゆは改めてユキロンが並ぶショーケースへと向き直った。
これは、みんなの優しさが詰まった、特別なお菓子だ。
そう思うと、胸がいっぱいで、今にも泣き出してしまいそうだった。




