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……楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
武具店での買い物から始まった初めての街歩きは、その後、雑貨屋を巡ったり、リリアが目を輝かせたアクセサリーショップを覗いたりしているうちに、陽が傾き始めていた。
まふゆは、みんなへのお礼に何か買おうと意気込んでいたものの、結局は自分の煙玉と、可愛らしい花の髪飾りを買っただけですっかりお小遣いを使い果たしてしまっていた。
(そろそろ解散かな……楽しかったなあ)
夕暮れのオレンジ色に染まり始めた街並みを眺めながら、まふゆは今日の楽しかった出来事を反芻していた。
少しだけ寂しい気持ちと、大きな満足感が胸の中で混ざり合う。
その時だった。
ふと、帰り道にある一軒の菓専門店に、人だかりができているのが目に入った。店の前には可愛らしい看板が立てかけられている。
『雪のようにとろける新食感!大人気!ユキロン』
ユキロン。
その名前は、甘いもの好きの生徒たちの間では有名なお菓子だ。
雪玉のように真っ白で、マシュマロのようなもちもちとした見た目。しかし、ひとたび口に入れれば、わたあめのようにふんわりと儚く溶けて、濃厚なミルクの風味が口いっぱいに広がるという。
まさに奇跡のようなお菓子だと、リリアが熱弁していたのを思い出す。
ショーケースに並べられたユキロンは、夕日を浴びてきらきらと輝き、まるで宝石のようだった。
(お、美味しそうや……!食べたい……!!でもお金が……)
まふゆの心は、瞬時にユキロンに鷲掴みにされた。食べたい。一口でいいから、あの奇跡の食感を味わってみたい。
しかし、現実は非情だ。彼女の鞄に入っている小銭では、あの高級菓子のひとかけらも買うことはできない。
じっとショーケースを見つめるまふゆの瞳は、みるみるうちに潤んでいく。食べられないとわかっているのに、視線を逸らすことができなかった。
……その様子に、仲間たちが気づかないはずもなかった。
「まふゆ、何か見つけたのか?」
レオンハルトが、まふゆの視線の先を追って菓専門店に目をやる。
「あ、ユキロンだ!いいなー、あーしも食べたーい!でも高くて手が出ないんだよねー」
リリアが隣でぴょんぴょんと跳ねる。
(あかん、みんなを困らせてまう……)
まふゆは慌てて視線を逸らし、ぶんぶんと首を横に振った。
「い、いえ!なんでもないんです!そろそろ、寮に戻りましょか!」
無理に作った笑顔は、きっとひきつってしまっているだろう。諦めきれない気持ちを押し殺し、まふゆは踵を返そうとした。
その、小さな肩を、三つの手が同時に掴んだ。
「おい待て」
「待って」
「……待て」
レオンハルト、セリウス、そしてミカゲ。
三人が、まるで示し合わせたかのように、まふゆを行かせまいと引き留めたのだ。
「え……?」
まふゆが驚いて振り返ると、三人は互いの手を見て一瞬眉をひそめた後、再びまふゆに向き直った。
「食いたいんだろ?我慢する必要はない。俺が買ってやる」
レオンハルトが、兄貴分らしくニカッと笑う。
「いや、兄さん。ここは僕に買わせてほしい。まふゆのそんな顔、見ていられないからね」
セリウスが、優しく、しかし一歩も引かない構えで言った。
「……あんたが食いたいなら、俺が買う」
ミカゲが、静かに、だが最も力強い意志を込めた瞳でまふゆを見つめていた。
三人の視線が、一点に集まる。
その中心にいるまふゆは、ユキロンへの食欲も忘れて、目の前で繰り広げられる光景にただただ呆然とするばかりだった。




