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ミカゲに食べられたクレープの先端。ほんのりと湿り気を帯びたそこから、まふゆの視線は一ミリたりとも動かせなかった。
甘いベリーの香りに混じって、ほんのわずかに、ミカゲの気配が残っているような気がする。
(ま、まさか、これをうちが食べたら間接キス……!?)
これを、自分の口に入れる──その行為が何を意味するのかを理解した瞬間、まふゆの顔は先ほどよりもさらに熱くなり、耳まで真っ赤に染まっていくのが自分でもわかった。
「お、おい、まふゆ!?大丈夫か、顔が爆発しそうだぞ!」
レオンハルトが慌てたようにまふゆの顔を覗き込む。
「だ、ダメだよ兄さん、今はそっとしておいてあげないと……!」
セリウスも、どうしていいかわからないといった様子でオロオロしている。
周囲の喧騒が遠のいていく。
仲間たちの声も、まるで水の中にいるかのようにくぐもって聞こえた。
まふゆの思考は、ただ一点──「間接キス」という、昨日まで意識したこともなかった言葉に完全に支配されていた。
(ど、どないしよう……!食べへんかったら、もったいないし……!?でも、食べたら……食べたら……!)
頭の中で、白い天使のまふゆと、赤い悪魔のまふゆが激しい議論を戦わせ始める。
ぐるぐると巡る思考とは裏腹に、体は金縛りにあったように動かない。
右手の肉串も、左手のクレープも、まるで石像の一部になったかのように固まってしまっていた。
そんなパニック状態のまふゆの葛藤を知ってか知らずか、張本人であるミカゲは、口元に残ったクリームを何気ない仕草で指で拭うと、平然とした顔で言った。
「……続き、食わないのか?なら、もらうが」
そう言うと、ミカゲは再びまふゆが持つクレープに顔を近づけようとする。
「ひゃいっ!?た、食べます!食べますから!」
その動きに、まふゆは我に返って絶叫した。
これ以上ミカゲに食べさせるわけにはいかない。それは何故か、自分でもよくわからないけれど、本能が強く警鐘を鳴らしていた。
まふゆは意を決すると、目をぎゅっと瞑り、ええいままよ、と問題のクレープを自分の口へと運んだ。
ミカゲが食べた場所を、無意識に避けるようにして。
口の中に広がるのは、甘酸っぱいベリーの味と、濃厚なクリームの甘さ。
いつもなら「おいしい」と感じるはずのその味は、心臓の激しい鼓動のせいで、ほとんど感じることができなかった。




