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「では、お互いのことを知るためにも、簡単な自己紹介をしてもらおうか。名前と種族、それから意気込みなどを一言ね」
エドウィンが穏やかにそう言うと、一番前の席の生徒から順番に自己紹介が始まった。
そして、すぐにレオンハルトの番が来る。彼はがたりと椅子を引いて立ち上がった。
「俺はレオンハルト・アルヴァレイン。人間だ。この学園で様々な種族の奴らと切磋琢磨し、互いに高め合えるような関係を築きたいと思っている。一年間、よろしく頼む!」
王族の出自を明かさず、しかし堂々としたその挨拶に、クラスの何人かから「おぉ…」と感嘆の声が上がる。
続いて、セリウスが静かに立ち上がった。
「セリウス・アルヴァレインです。……種族は、ハーフエルフ。兄と同じく、皆さんと有意義な学園生活を送りたいと思っています。よろしくお願いします」
ハーフエルフ、という言葉に教室がわずかにざわめく。しかし、セリウスはそれを意に介する様子もなく、静かに着席した。
何人かの自己紹介が続き、いよいよまふゆの番がやってきた。
周囲の視線が一斉に自分に集まるのを感じ、まふゆは少し緊張しながらも、ゆっくりと席を立つ。
「えっと……水鏡まふゆ、いいます。桜の国から来ました。種族は、アルビノエルフです。治癒術が得意なので、皆さんの力になれたら嬉しいです。よろしゅうお願いします」
まふゆがぺこりとお辞儀をすると、教室は一瞬しん、と静まり返った。アルビノエルフという希少さに加え、その美しい容姿と言葉遣いの柔らかさに、皆が息を飲んだのだ。
教壇に立つエドウィンの緑の瞳が、再びうっとりと細められる。
そして、まふゆの後ろの席から、ミカゲが音もなく立ち上がった。
「……ミカゲ。影人だ。それ以外に話すことはない」
それだけをぼそりと告げると、彼はすぐに着席してしまった。あまりの簡潔さと愛想のなさに、クラスはまた別の意味でざわつく。
その次に立ち上がったのは、小柄な少女だった。桜色の髪に、ぴんと立った猫の耳。少し不機嫌そうに腕を組み、つんとした態度で口を開く。
「……シャノン。猫族の獣人。……別に、馴れ合うつもりはないから。足手まといになるやつは嫌い。それだけ」
ぶっきらぼうにそう言うと、彼女はすぐにどさりと席に座ってしまった。その金色の瞳が、ちらりとまふゆの方を向いたような気がした。
自己紹介が一通り終わると、エドウィンはにこやかに頷いた。
「ありがとう。個性豊かな面々が揃ったようで、私も楽しみだよ。さて、ホームルームはここまで。すぐに一限目の授業が始まるから、準備をしておくように。一限目は……そう、私、エドウィンの古代魔術史だ。光栄に思ってくれていいよ」
彼はそう言って悪戯っぽく片目をつむぐ。その仕草に、また女子生徒たちが小さく沸いた。
まふゆは鞄から真新しい教科書と筆記用具を取り出す。
「いきなり担任の授業か。古代魔術史……俺たち人間にはあまり関係ない分野だが、知識として損はないか」
レオンハルトが腕を組みながら言う。
「そんなことないよ、兄さん。魔術の歴史を知ることは、対エルフ族や魔術を使う相手との戦い方を考える上で重要だから。それに……」
セリウスがそこまで言いかけて、ちらりとまふゆを見た。
「……魔術の成り立ちを知ることは、あらゆる種族の歴史を知ることにも繋がるからね」
まふゆがこくりと頷くと、セリウスは少しだけ表情を和らげる。
チャイムの音が学園に響き渡り、教室の空気が引き締まる。
エドウィンは教壇の中央に立ち直すと、先ほどまでの柔和な雰囲気をすっと消し、教師の顔つきになった。
「では、授業を始める。諸君、魔術とは本来、何のために生まれたと思う?……そう、そこに座っている水鏡まふゆ君のような、エルフ族だけが使える特別な力。その起源は、遥か神話の時代にまで遡る……」
エドウィンは流れるような口調で語り始める。その視線が、授業中も何度も、ねっとりとまふゆに向けられていることに、彼女自身はまだ気づいていなかった。




