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やがて、教室の喧騒がすっと静まり返る。
生徒たちの視線が一斉に教室の入り口へと注がれていた。そこに、一人の男が立っていた。
肩まである艶やかな金色の髪、知性を感じさせる緑色の瞳。穏やかな笑みを浮かべ、柔らかな物腰で教壇へと歩みを進める。
「諸君、はじめまして。私が君たちのクラス、A組の担任を務めることになった、エドウィン・ヴォルクシュタインだ。専門は古代魔術史だが、一年間、君たちの学園生活をサポートさせてもらうよ」
優しく、耳に心地よい声。生徒たち、特に女子生徒からは、早くも感嘆のため息が漏れている。
「彼は魔導機を使っているようだが……人間であれほどの魔力を感じさせるとは。相当な使い手だ」
レオンハルトが低い声で呟く。
エドウィンはクラス全体を見渡すと、その視線をゆっくりと動かしていった。
そして、まふゆの姿を捉えた瞬間、ぴたりと止まる。
彼の穏やかだった緑の瞳の奥に、一瞬、ぞっとするほど深く、粘つくような光が宿ったのを、まふゆは見逃さなかった。
「……ほう。これはこれは……素晴らしい。雪のように白い肌、清らかな白髪……。まるで、たわわに実った禁断の果実のようだ」
エドウィンはうっとりとした表情でそう呟くと、ゆっくりとまふゆの席へと歩み寄ってくる。周囲の生徒たちが何事かと注目する中、彼はまふゆの机に指先で軽く触れた。
「君が、アルビノエルフの水鏡まふゆ君だね。話は聞いているよ。これから、よろしく」
その笑みは完璧に優雅で、紳士的だった。
しかし、まふゆは本能的に背筋が凍るような感覚を覚えていた。彼の瞳の奥底に渦巻く、得体の知れない執着の色を感じ取ってしまったからだ。
隣に座るセリウスが警戒するように身を固くし、後ろからはミカゲの射るような視線がエドウィンに突き刺さっているのを感じた。
「……は、い。よろしくお願いします……」
まふゆは何とかそれだけを口にする。
「よろしく、まふゆ君。君のような稀有な存在を教えられることを、心から光栄に思うよ」
エドウィンはそう言ってにっこりと笑うと、何事もなかったかのように教壇へ戻っていく。その洗練された所作に、教室の空気は再び和やかなものへと戻った。
しかし、まふゆの心には、先ほどの彼の瞳の奥に見た粘つくような光が、嫌な染みのように残っていた。
「……なんだあの教師。生徒に対する態度じゃないだろ」
前の席から、レオンハルトが不快感を隠さない声で低く呟く。王族として、人を見る目に長けた彼もまた、エドウィンの本質の一端を感じ取ったのかもしれない。
「……まふゆ、あの教師には気をつけて。何かあったら、すぐに僕か兄さんに言うんだよ」
隣のセリウスが、心配そうにまふゆの顔を覗き込みながら囁く。その声には、明確な警戒心が滲んでいた。
そして、背後。
ミカゲは何も言わなかった。だが、彼の全身から放たれる空気は、先ほどまでとは比べ物にならないほど冷たく、鋭利なものに変わっていた。
まるで鞘から抜き身の刃が少しだけ覗いたかのような、殺気にも似た気配が、エドウィン・ヴォルクシュタインの後ろ姿へと静かに向けられていた。




