4-1
そして、三日後。
あの日──エドウィンに襲われた日から、まふゆの日常は静かに、だが確実に変化していた。
あれ以来、ミカゲの言葉通り、レオンハルト、セリウス、そしてミカゲの三人は、まるで示し合わせたかのようにまふゆのそばを離れようとしなかった。
朝、教室に入れば、すでに三人は揃っていて、まふゆが席に着くのを待っている。
授業が終われば、誰かが必ず声をかけ、女子寮の入り口まで送ってくれるのが日課となっていた。
シャノンもぶっきらぼうな態度こそ変わらないが、以前よりも頻繁に話しかけてくれるようになり、リリアは毎日のようにA組の教室まで顔を見せに来てくれた。
皆の優しさが嬉しく、心強い。
けれど同時に、まふゆの心には大きな罪悪感が影を落としていた。
真実を話せない。あの日の出来事を、エドウィンの恐ろしい本性を、みんなに打ち明けられない。
話せば、きっとみんなを危険な渦に巻き込んでしまう。その恐怖が、まふゆの口を重く閉ざさせていた。
「おはよう、まふゆ」
「おはよう、レオンハルトさん」
教室に入ると、一番に声をかけてくれたのは前の席のレオンハルトだった。彼の快活な笑顔は太陽のようで、少しだけ心が軽くなる。
「おはよう、まふゆ。昨夜はよく眠れたかい?」
隣の席のセリウスが、穏やかな瞳でこちらを見る。
「はい、セリウスさんのおかげで」
と、まふゆは曖昧に微笑んで返した。本当は、エドウィンの粘つくような視線や、魔導機から感じた悲しい気配を夢に見て、何度も夜中に目を覚ましている。
そして、背後から感じる、静かな視線。
振り返らなくても、そこにミカゲがいるのがわかった。
彼は何も言わない。だが、その気配が「俺はここにいる」と告げているようで、まふゆは知らず知らずのうちに彼の存在に安らぎを覚えていた。
そんな平穏を装った日常が、脆いガラス細工であることを、まふゆはまだ知らない。
今日の1時限目は、あのエドウィンが担当する『古代魔術史』の授業なのだ。
「──では、今日の授業を始めようか」
予鈴が鳴り終わり、教室に入ってきたエドウィンは、いつもと何ら変わらない穏やかな笑みを浮かべていた。
彼は教壇に立つと、にこやかに教室全体を見渡す。そして、その緑色の瞳が、ゆっくりとまふゆに向けられた。
ゾクリ、と背筋に悪寒が走る。
「やあ、まふゆ君。体調はもう大丈夫かい? 先日のイベントでは残念だったね。君とミカゲ君のペアは、なかなかの有望株だと思っていたんだが」
その声音はどこまでも優しく、心配している教師そのものだった。
だが、まふゆにはわかる。あの穏やかな仮面の奥で、蛇のように冷たい目が自分を値踏みしているのが。
周りの生徒たちは何も知らない。レオンハルトもセリウスも、ただの教師と生徒の会話だと思っているだろう。
ミカゲだけが、背後の席でピクリと空気を張り詰めさせたのがわかった。
「……はい。もう、大丈夫です。ご心配、おかけしました」
まふゆは震える声を必死で抑え、当たり障りのない返事を絞り出す。顔がこわばり、まともに彼の顔を見ることができない。
「そうか、それなら良かった」
エドウィンは満足げに頷くと、再び教室全体に視線を戻し、今日の講義内容を告げた。
その一連のやり取りで、まふゆはどっと汗が噴き出すのを感じていた。まだ授業は始まったばかりだというのに、すでに体力も精神も限界に近い。
早く、この時間が終わってほしい。
まふゆは、ただそれだけを必死に願っていた。




