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白の少女はこの世界に愛される  作者: 有氏ゆず
第三話 少女は狙われる
51/125

3-14




「……ミカゲさん!さっきはごめんなさい!うち、うち……!」


息を切らしながら、まふゆは勢いよく頭を下げた。

声が震え、言葉がうまく続かない。謝りたいのに、伝えたいことがあるのに、先程の恐怖と、自分のしでかしたことへの後悔で、喉が詰まってしまう。


自分の無知が、彼を傷つけた。

自分の善意が、彼を殺しかけた。


あの肉の焼けるおぞましい音と、苦痛に歪んだ彼の横顔が脳裏に焼き付いて離れない。アルビノエルフの特性で結果的に傷は癒えたけれど、彼に激痛を与えてしまった事実は変わらない。


「うち、影人の人に白魔術が毒になるなんて、知らんかって……!ミカゲさんを助けたい一心で……ほんまに、ほんまにごめんなさい……!」


ぽろぽろと、後悔の涙が地面に落ちて染みを作っていく。顔を上げられない。彼の顔を見ることが、今は怖かった。


もし、軽蔑されていたら?もし、もうそばにいてほしくないと思われていたら?




そんな不安に胸が押しつぶされそうになっていると、ふわりと、頭に温かい感触がした。


驚いて顔を上げると、ミカゲの、少しだけ躊躇いがちに伸ばされた大きな手が、まふゆの頭を不器用に撫でていた。


「……気にするな」


彼は短く、そう言った。

その声はいつもと同じ、感情の読めない低い声。けれど、その瞳は静かにまふゆを見つめていて、そこに責めるような色はどこにもなかった。


「あんたのせいじゃない。知らなかっただけだ。それに……」


ミカゲは一度言葉を切り、自分の左手を見つめる。エドウィンたちの前から逃げ出すきっかけを作った、あの不思議な『影色の光』の残滓を探すように。


「……結果的に、あんたの力で助かった。礼を言う」

「でも……!」

「いいから」


食い下がろうとするまふゆの言葉を、ミカゲは静かに遮った。

そして、その黒曜石の瞳で、まっすぐにまふゆを見つめる。


「今は休め。……酷い顔だぞ」


そう言って、彼は自分の袖で、まふゆの頬を伝う涙を乱暴に、けれどどこか優しく拭った。

そのぶっきらぼうな仕草に、また涙が溢れそうになるのを、まふゆは必死でこらえた。




その時、遠くからカーン、カーンと、授業の終わりを知らせる鐘の音が学園に鳴り響いた。


静かな木立の中にまで届くその音に、まふゆはハッと顔を上げる。

見つけた卵の提出の時間だ。


「……あっ!卵……!せっかく金の卵、見つけたのに……!」


今ごろ霊廟では、エドウィン先生たちが金の卵を回収しているかもしれない。いや、そもそもあれは、まふゆたちををおびき寄せるための罠だったのだろうか。


どちらにせよ、あんなことになってしまった今、霊廟に戻ることなんてできない。


「ミカゲさんと一緒に見つけた卵も、全部あそこに……」


腰に付けていた、卵を入れるための小さな袋が空になっていることに気づき、まふゆはがっくりと肩を落とした。

青い卵、赤い卵、緑の卵……ミカゲの卓越した能力のおかげで、たくさん見つけられたのに。


「……仕方ない。今は戻れん」


ミカゲが冷静に告げる。


「それよりも、今後のことだ。エドウィンは、あんたを狙っている。学園内ですら、安全とは言えなくなった」

「う、うちを……?」

「ああ。あんたのその特異な力に気づいた。奴は、研究のためなら手段を選ばない男だ。……必ず、また来る」


ミカゲの言葉に、まふゆはごくりと唾を飲んだ。

あの狂信的なまでの執着の目を思い出す。エドウィン先生が『白檻会』の人間で、自分を『材料』として狙っている。その事実は、じわじわと現実味を帯びてまふゆの心を蝕んでいく。


「どうしたら……」

「……一人になるな。特に、俺か、レオンハルトか、セリウスのそばを離れるな」

「ミカゲさん……」

「奴らも、王子やその弟に手を出すのは躊躇うはずだ。俺も……あんたから離れない」


淡々と、しかし有無を言わせぬ力強さで告げるミカゲ。

その黒曜石の瞳は、何があってもまふゆを守り抜くという固い決意に満ちていた。

その視線に、恐怖で冷え切っていた心が少しだけ温まるのを感じる。


「……はい」


まふゆは、涙の跡が残る頬で、それでもしっかりと頷いた。


「とりあえず、教室に戻るぞ。他の奴らも心配しているだろう」


ミカゲが先に立ち、周囲を警戒しながら歩き出す。まふゆも急いで立ち上がり、彼の少し後ろを、離れないようについていった。




教室に戻ると、すでにほとんどの生徒が戻ってきており、互いに見つけた卵の数を自慢し合っていた。


その喧騒の中で、三つの人影が、扉を開けたまふゆたちに気づいて駆け寄ってくる。


「まふゆ!ミカゲ!お前ら、どこ行ってたんだよ!?」


レオンハルトが心配そうな顔で大股に近づいてくる。その隣では、セリウスが安堵のため息をついていた。


「あんたたちの匂いが途中でプッツリ消えたから、心配してたんだからね!」


シャノンが腕を組んでそっぽを向きながら言うが、その猫の耳は不安そうにぴくぴくと動いている。


三人の顔を見て、まふゆの目から再び涙が溢れそうになった。

無事だった。仲間たちが、ここにいる。その当たり前の事実に、心の底から安堵した。




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