3-13
「……行きませんっ!!」
ミカゲの背中から、まふゆは震えながらも、はっきりとした拒絶の言葉を叫んだ。
あの狂気の男のもとへ行くなんて、絶対にいやだ。あんな非道な研究に、自分の力を利用されるなんて、考えただけでも身の毛がよだつ。
(このままやと、埒が明かへん……ミカゲさん一人に戦わせるわけにはいかへん……!)
脳をフル回転させる。どうすればこの状況を打開できるか。
ミカゲの種族は影人。光がない場所では影そのものに身を溶かし、物理的な障壁を透過できる。
(せや!影さえあればミカゲさんが!)
希望の光が見えた気がした。
まふゆは再び印を結ぶ。今度は、誰かを傷つけるためでも、助けるためでもない。この絶望的な状況から脱出するための、一筋の活路を切り開くために。
「白き光を遮り、偽りの夜を誘え……!」
彼女が呪文を紡ぐと、霊廟の上空に魔法陣が展開し、太陽の光を遮る黒い円盤が出現した。
夕日が遮られ、霊廟全体が急速に薄闇に包まれていく。
まるで日食が起こったかのように、明るかったはずの世界が、不意に訪れた夜の帳に覆われた。
突然の暗闇に、黒ローブたちが動揺する。
その一瞬の隙を、ミカゲが見逃すはずがなかった。
「……よくやった、まふゆ」
背後から聞こえたのは、静かな賞賛の声。
次の瞬間、ミカゲの体がふっと揺らぎ、その輪郭が周囲の濃くなった影に溶けていく。
「何をしている!囲め、逃がすな!」
エドウィンが焦ったように叫ぶが、もう遅い。
影に溶けたミカゲは、もはや実体を持たない。
黒ローブたちが慌てて放つ魔法は、彼のいた場所の空気を虚しく切り裂くだけだった。
そして、影はまふゆの足元へと伸びる。
冷たいようで、しかし不思議な安心感のある感覚が、まふゆの体を包み込んだ。
「……!」
視界が闇に染まる。
体が沈み込むような奇妙な浮遊感。
しかし、恐怖はなかった。ミカゲがそばにいる。その確信だけが、まふゆを支えていた。
影の中を、二人は高速で移動していく。
黒ローブたちの包囲網を、まるで存在しないかのようにすり抜けて。
「逃がすものかァッ!!私の奇跡をッ!!」
エドウィンの狂的な叫び声が、背後で急速に遠ざかっていく。
霊廟から抜け出し、学園の敷地を影となって疾走する。
光のある場所と影のある場所がまだらになった道も、ミカゲは巧みに影から影へと飛び移り、一切速度を落とさない。
……どれくらいの時間が経っただろうか。
不意に浮遊感がなくなり、まふゆの足が固い地面に触れた。
目を開けると、そこは見慣れた女子寮の裏手にある、人のいない木立の中だった。
「……はぁっ……はぁ……」
緊張の糸が切れ、まふゆはその場にへたり込んだ。心臓が早鐘のように鳴り、全身から力が抜けていく。
「……大丈夫か」
隣で、ミカゲが影の中から姿を現した。
その表情はいつも通り無表情に見えたが、黒曜石の瞳には、隠しきれない疲労と、そしてまふゆを気遣う色が浮かんでいた。




