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「ほんまに、色んな種族がいはるんやねえ……」
まふゆは周りをキョロキョロしながら呟く。
「ああ。エルフに獣人、ドワーフまでいる。まさに"人種のるつぼ"ってやつだな」
前の席に座るレオンハルトが、腕を組んで感心したように頷く。彼の声は大きく、自信に満ち溢れている。
「でも、それ故に問題も起きやすい。種族間の軋轢は、この学園でも他人事ではないからね」
隣のセリウスが、静かだが芯のある声で付け加えた。彼の視線は教室の前方を向いているが、その言葉はまふゆに向けられているのがわかる。
すると、不意に背後から低い声がした。
「……慣れることだ。ここはそういう場所だ」
声の主は、後ろの席の黒装束の青年だった。彼が口を開くのを、まふゆは初めて聞いた。感情の読めない、抑揚のない声。
「あんたは……ミカゲ、だったか」
レオンハルトが後ろを振り返り、黒装束の青年……ミカゲに声をかける。
ミカゲはそれに答えず、ただ静かな瞳でまふゆを見つめている。布で覆われていないその瞳は、何かをじっと観察しているかのようだ。
「……あんたのような希少種は特に、な。物珍しげな視線には、すぐに慣れる」
再び紡がれた言葉は、忠告のようでもあり、突き放しているようでもあった。
そして彼はそれきり口を閉ざし、再び気配を消してしまう。まるで最初からそこにいなかったかのように。
「……なんだあいつ。感じ悪いな」
レオンハルトが少し眉をひそめて呟いた。
「……そう?心配してくれはったんやろ?ええ人やね」
まふゆはくすくすと笑う。
「え……ええ人……?」
レオンハルトは思わずといった様子で、まふゆとミカゲの席を交互に見やった。ミカゲは相変わらず何の反応も示さず、ただ前を向いているだけだ。
「……まふゆ、君は少し人を信じすぎるところがあるんじゃないか?あの男は……」
隣のセリウスが、心配そうな、それでいて少し呆れたような声で口を挟む。
彼のハーフエルフとしての経験が、ミカゲのような存在に対する警戒心を抱かせているのかもしれない。
「俺にはどう見ても、ただ事実を突きつけただけに見えたが……」
レオンハルトも納得がいかないといった表情で腕を組む。
しかし、まふゆの屈託のない笑顔に、二人はそれ以上何も言えなくなってしまった。
その時、まふゆの背後から、ほんのわずかに息を飲むような気配がした。ミカゲだった。
彼の感情を映さないはずの瞳が、ほんの一瞬、信じられないものを見るかのように揺らぎ、そしてすぐに元の静寂に戻る。
その変化に気づいた者は、誰もいなかった。
ただ、彼の視線だけが、くすくすと笑うまふゆの白い髪に、先ほどよりも強く、深く注がれていた。




