3-7
教室から廊下へ、そして陽光が差し込む中庭へと、ミカゲは迷いのない足取りで進んでいく。
まふゆは少し小走りになりながら、その大きな背中を懸命に追いかけた。
学園の敷地は広大で、すでに他の生徒たちが散り散りになって卵を探し始めているのが遠くに見える。
(どこに行くんやろ……ミカゲさん、もう何か見当がついてるんかな……)
昨日のクエストでも、彼の洞察力は誰よりも鋭かった。
きっとこのゲームでも、何か考えがあるに違いない。そう思うと、ただついていくだけなのに、不思議と心強さを感じた。
「これ、一番ポイント多かったペアはなんかあるんかな……」
ぽつりと、独り言のように呟いてみる。
プリントには報酬についての記載はなかったけれど、ローゼリアのことだから、何か特別なご褒美を用意しているかもしれない。
そう考えると、少しだけやる気が湧いてくる。
まふゆがそんなことを考えていると、前を歩いていたミカゲが不意に立ち止まった。
もう少しでその背中にぶつかりそうになり、まふゆは慌てて足を止める。
「ひゃっ……!?」
「……騒ぐな」
ミカゲは振り返りもせず、低い声で制した。彼の視線は、前方の一点をじっと見つめている。まふゆもつられて、そちらに目を向けた。
そこは、昨日クエストで訪れた、図書館へと続く並木道だった。木漏れ日が地面にまだら模様を描き、穏やかで静かな空気が流れている。
「あ、あの……ミカゲさん?ここに何か……」
まふゆが尋ねようとした、その時。ミカゲがすっと右手を挙げ、まふゆの口元を制した。彼の指先が唇に触れるか触れないかの距離にあり、まふゆの心臓がどきりと跳ねる。
「……静かに。気配を探る」
囁くような声に、まふゆはこくりと頷いた。
ミカゲはゆっくりと目を閉じ、意識を集中させているようだった。影人の特性である、気配を探る能力を使っているのだろうか。
風が木々の葉を揺らす音だけが、二人の間に流れていく。
(卵に、気配なんてあるんやろか……?)
不思議に思いながらも、まふゆは彼の邪魔をしないように、息を殺してじっと待った。
やがて、ミカゲがゆっくりと目を開ける。
その黒曜石の瞳が、並木道の一本の若木に向けられた。
「……あそこだ」
「え?」
ミカゲが指さす先には、何の変哲もない、ごく普通の木があるだけに見える。
しかし、ミカゲは確信を持った様子で、そちらへ向かって静かに歩き出した。まふゆも戸惑いながら、その後に続く。
木の根元に近づくと、緑の葉の間に、何か丸いものが見えた。
「あ……!」
それは、鮮やかな青色に塗られた、手のひらサイズの卵だった。
葉っぱの陰に、まるで最初からそこにあったかのように、巧みに隠されている。
「すごい……!なんで分かったんですか?」
まふゆが興奮気味に尋ねると、ミカゲは卵を拾い上げながら、短く答えた。
「卵そのものじゃない。……これを隠した奴の、微かな魔力の残滓だ」
「魔力の……?」
「ローゼリアとか言ったか。あの女の、甘ったるい気配がした」
こともなげに言うミカゲに、まふゆはただただ感心するばかりだった。
普通なら気づきもしないような僅かな痕跡を頼りに、いとも簡単に見つけ出してしまう。これが、彼の力。
「あんたが持っておけ」
ミカゲはそう言って、拾った青い卵をまふゆに差し出した。
ひんやりとした卵の感触が、手のひらに伝わる。
「は、はい……!」
初めて手にした聖卵。それは、ミカゲとの連携で手に入れた、最初の戦利品だった。
まふゆは卵を落とさないように大事に抱え、隣に立つミカゲの横顔をそっと見上げる。
彼の周りだけ、空気が違う。静かで、研ぎ澄まされていて、そしてなぜか、とても安心できる。
(ミカゲさんとペアで、よかったかもしれへん……)
そんな思いが、まふゆの胸に温かく広がっていく。
ゲームは、まだ始まったばかりだ。




