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まふゆとレオンハルトが攻防を繰り広げている間にも、グラウンドのあちこちで次々と模擬戦闘が始まっていた。
木剣がぶつかり合う音、魔法が風を切る音、そして教官の檄が飛び交い、グラウンドは一気に熱気を帯びていく。
「はあっ!」
ひときわ甲高い気合の声が聞こえ、まふゆはちらりとそちらに視線を向けた。
小柄な体躯をバネのように使って、シャノンが俊敏な動きで相手に猛攻を仕掛けている。その相手は、屈強な体格をしたドワーフの男子生徒だ。
ドワーフの生徒が持つ大ぶりの斧を、シャノンはまるで猫じゃらしをあしらうかのように、ひらりひらりとかわしていく。
その速さは、昨日のゴーレム戦で見た時以上かもしれない。
「遅いっ!そんなんじゃ、あたしの爪の先にも届かないわよ!」
挑発的な言葉とは裏腹に、彼女の金色の瞳は真剣そのものだ。
ドワーフの生徒の動きを冷静に見極め、的確に攻撃をいなしている。獣人ならではの身体能力を存分に活かした、見事な戦いぶりだった。
(シャノンさん、すごい……全然動きが見えへん……)
その隣では、セリウスがハーフエルフの女子生徒と向かい合っていた。
彼は木剣ではなく、自身の魔力を集中させている。
「……いくよ、『ウィンド・カッター』」
セリウスが静かに詠唱すると、彼の周囲にいくつもの風の刃が生まれる。しかし、それは相手を傷つけるためではなく、牽制するように相手の周囲を飛び交うだけだった。
相手の女子生徒も負けじと炎の魔法で応戦するが、セリウスは常に冷静さを失わない。
相手の魔法の軌道を読み、最小限の動きで回避しながら、的確に風の刃を繰り出していく。まるで美しい舞踏を見ているかのような、洗練された魔法戦だった。
(セリウスさんも、魔法の制御が完璧や……)
そして、少し離れた場所。
ひときわ静かな一角で、ミカゲはダークエルフの男子生徒と対峙していた。
他のペアのような派手な音や声はない。ただ、影が揺らめくような、静かで濃密な緊張感がその場を支配していた。
ミカゲは二本の短剣を逆手に構え、低い姿勢を保っている。ダークエルフの生徒が魔法を唱えようと一瞬隙を見せた、その刹那。
ミカゲの姿が、ふっと掻き消えた。
「──!?」
ダークエルフの生徒が驚いて周囲を見回す。だが、もう遅い。
彼の背後に、音もなくミカゲが現れていた。その喉元に、冷たい短剣の切っ先が寸止めで突きつけられている。
「……終わりだ」
静かな、けれど絶対的な響きを持つ声。
あまりにも一瞬の出来事に、まふゆは息を呑んだ。あれが、影人の戦い方。暗殺者としての、彼の真の力の一端。
(ミカゲさん……)
その圧倒的な実力に、畏怖と、そしてなぜか胸を締め付けられるような切なさを感じてしまう。
みんな、それぞれの種族の特性を活かして、自分のやり方で戦っている。
自分も、自分のやり方で、レオンハルトの猛攻を防ぎきらなければ。
「……よそ見してる余裕があるのか、まふゆ!」
レオンハルトの力強い声が、まふゆの意識を現実へと引き戻す。
目の前には、再び木剣を振りかぶる彼の姿があった。
「う、ううん!集中します!」
まふゆは慌てて気合を入れ直し、目の前の「太陽」に向き直った。
今は、自分の戦いに集中する時だ。アルビノエルフとして、白魔法使いとして、自分にできる全てを出し切ろう。
まふゆは再び聖なる光をその身にまとい、次なる一撃に備えた。




