2-19
「みんな、本当にお疲れ様。今日はもう解散にしよう。俺は少し鍛錬してから寮に戻る」
レオンハルトが皆を見回して言う。
「あたしも。今日の戦闘、全然動けなかったから、反省しないと」
シャノンもそれに同意する。
「それじゃあ、あーしは先に寮に戻ってるね!まふゆん、また明日ね!」
リリアが手を振り、セリウスも「僕も兄さんと少し話してから戻るよ。まふゆ、今日は本当によく頑張ったね」と優しい言葉をかけてくれた。
次々と仲間たちがホールから去っていく。
まふゆは三つの石版がなくなった両手を見つめ、少しだけ寂しいような、でも達成感で満たされた不思議な気持ちで立ち尽くしていた。
「……帰るぞ」
不意に、背後から静かな声がした。
振り返ると、いつの間にかミカゲがすぐそばに立っていた。
「ミカゲさん……」
「……あんたも疲れただろう。送る」
ぶっきらぼうな、けれど有無を言わせない響き。
まふゆが何か言う前に、彼はすたすたと歩き出す。その大きな背中を、まふゆは慌てて追いかけた。
夕暮れの空の下、二人分の影が長く伸びる。
今日の冒険のこと、仲間たちのこと、そして隣を歩く彼のことを考えながら、まふゆの胸は温かい幸福感で満たされていく。
……女子寮の自室に戻ったまふゆは、ベッドに倒れ込むようにして身を投げ出した。
ふかふかのシーツが、一日の冒険で疲れた体を優しく受け止めてくれる。
窓の外はもうすっかり茜色に染まり、部屋の中にもオレンジ色の光が差し込んでいた。
「今日……楽しかったなあ……」
天井を見上げながら、ぽつりと独り言がこぼれる。
それは、心の底から湧き上がってきた、偽りのない素直な気持ちだった。
今日の朝までは、新しい環境への不安でいっぱいだったのに。
授業が始まって、レオンハルトさんやセリウスさん、ミカゲさん、そしてシャノンさんやリリアさんと出会って。
初めて受けたクエストは、謎解きだらけで頭を使ったし、最後のゴーレムとの戦いは本当に怖くて足がすくんだ。
でも、一人じゃなかった。
図書館で、ミカゲさんが鮮やかに謎を解いた時の驚き。
湖で、みんなが自分のひらめきを信じてくれた時の嬉しさ。
そして、暗い地下通路で、ミカゲさんが握ってくれた手の温もり。
最後の戦いで、自分の魔法がみんなの役に立てた時の、胸が熱くなるような高揚感。
一つ一つの出来事が、まるでキラキラ光る宝物のように思い出される。
(みんな、すごかったなぁ……)
先頭に立って、いつもみんなを引っ張ってくれるレオンハルト。
冷静に状況を分析して、道を指し示してくれるセリウス。
口は悪いけど、誰よりも素早くてかっこよかったシャノン。
いつも明るくて、隣にいるだけで元気になれるリリア。
そして──
口数は少ないけれど、いつも一番に気づいて、助けてくれるミカゲ。
「……ふふ」
彼らのことを思い出すと、自然と笑みがこぼれて、胸の奥がきゅうっと甘く締め付けられる。
まふゆはゆっくりと体を起こし、窓辺に立つ。
夕焼け空の向こうには、もう一番星が瞬き始めていた。
(明日も、みんなに会えるんやね)
そう思うだけで、明日が来るのが待ち遠しくてたまらない。
まだ始まったばかりの学園生活。
きっと、これからもっとたくさんの冒険が待っている。
怖くて、大変なこともあるかもしれないけれど、あの頼もしい仲間たちと一緒なら、きっと何でも乗り越えられる。
そんな確信を胸に、まふゆはそっと呟いた。
「明日も、晴れたらええな……」
今日という最高の一日の余韻に浸りながら、まふゆは幸せな気持ちで、暮れてゆく空をいつまでも見つめていた。
第二話・了




